31 / 38
28 奥の手ぶつけんぞ!
しおりを挟む「≪プリンセス・ボックス≫!!」
戦闘開始と同時に箱を出す。
俺達の常とう手段だ。
箱は狙い通り、弟のズクの方を閉じ込めた。
モズが大剣、ズクが片手剣装備。
ズクを狙ったのは、そっちの方が動きが早そうだからだ。
「ふん。オレを閉じ込めたところで、関係ないぜ。なぁ兄者!」
「その通りだ弟者!」
≪空間爆縮≫の詠唱時間は約十秒。
決まれば一撃で倒せるだろうけど、詠唱が完了するまでに一でもダメージを受ければ中断されてしまう。
それを狙ってだろう。詠唱を始めたレンに向かってモズがまっすぐ突っ込んでくる。
あんな武器で殴られたら、詠唱中断どころか一撃でダウンだ。
かといって俺も正面に立つことは出来ない。
耐久力に関してはレンと同じくらいだから、一撃で死んでしまう。
つまり、攻撃は最大の防御!
ピースサインを目の横に持っていく。
「≪チャーミングショット≫!」
ピンク色の光弾が目から放たれた。
よく見るとハート型であることが分かるそれは、光の筋を残してモズへと向かっていく。
今イベント初めての使用だ。
「≪パリィ≫!」
「あっ」
「きかねぇな!」
当たる寸前、素早く振られた剣に弾かれてしまった。
今の今まで伏せていたのに、あっさりと対応してくるとか。
流石は有名プレイヤー。反射神経が素晴らしすぎる。
しかも、相手は足を止めていない。
振った大剣を走りながら担ぎ直して、もうレンの目の前だ。
詠唱は途中で止めることは出来ない。
つまり、詠唱途中のレンは逃げることも、他のスキルを使用することも出来ない。
と、思う訳だ。
「≪キャストキャンセル≫」
「ちっ」
レンがスキルを使用して、詠唱が中断される。
魔法の扱いに長けたエルフの持つ種族スキルの効果だ。
更に、俺達との狩りにおいて近距離で魔法を使い続けたレンは、新しい称号とスキルを獲得していた。
それは、近距離でこそ威力を発揮する、魔弾の嵐。
杖が剣を振りかぶろうとしているモズへと向けられた。
「≪ショットガンブラスト≫!」
短い詠唱のすぐ後に、スキル名が響く。
杖の先端からいくつもの細かい破壊球が拡散するように放たれた。
その様子はまさにショットガン。
射程は短い上に一発一発の威力は低いが、まとめてぶち当てることによってかなりの破壊力を有する。
これで片付くかと一瞬思ったが、やはり相手は手ごわかった。
「っとと、あっぶねぇ。何か企んでるとは思ったが、ここでキャストキャンセルはびっくりだぜ。そんなスキル知らねぇし、本サービスで追加されたか?」
ダメージは入っているが、一割程だ。
レンの攻撃に感づいたモズは、咄嗟に後ろに飛んで大剣を盾にしたらしい。
くるりと担ぎ上げた大剣の刃の部分に着弾した跡がある。
「はっはぁ、ここまで隠してたのはびっくりしたぜ。確かに直撃すりゃあやばかった。けど、それは近距離用の――って、聞いてんのか!?」
レンが再び詠唱を始めたのを見たモズからツッコミが入った。
対象はズクの方。
長々と話を聞く義理なんてないしな。
それに、もう終わった。いい判断だ。
「≪プリンセス・ボックス≫!」
「……は? はぁ!?」
こっちに向かって駆け出そうとしていたモズが箱に囚われた。
どういうことかとモズが振り返るが、ズクの方も箱の中。
これが真の奥の手だ。
狩りをしている時に、≪収納上手≫の称号を手に入れた。
習得したスキルは≪ワンモアボックス≫。
効果は≪プリンセス・ボックス≫を同時に二つまで発生させることが出来るというもの。
ペア戦である以上、二人ともを箱にしまってしまえば勝ちはほぼ確定する。
今までは一つしか出せなかったから気にならなかった、≪プリンセス・ボックス≫自体のクールタイム
だけがネックだった。
だからさっきの攻防は、その時間を稼ぐのが目的だったわけだ。
勿論、レンの奇襲で仕留められたら良かったんだけどな。
流石は有名プレイヤーといったところか。
「やべー、これはやべーって兄者!」
「やべーな弟者! こうなったら箱を破壊するしかない!」
「分かったよ兄者! ≪バッシュ≫≪バッシュ≫≪バッシュ≫バッ――」
「≪空間爆縮≫!」
「弟者あぁぁぁぁあぁああぁぁあ!!」
「さぁ、次は貴方ですよ。――」
ズクが倒れ、レンはかっこよく煽ってから詠唱を開始する。
これが決まれば俺達の勝ちだ。
モズは焦ったように、しかしまだ力のこもった顔で大剣を振り上げた。
「まだだ、全力で壁を壊せばまだ!」
「≪プリンセス・ボックス≫!」
「あ……」
すでに設置してあった箱のすぐ外側に、新たな箱を発生させた。
二重構造だ。
これなら詠唱が終わるまでに破るなんて不可能だろう。
鍛え上げた俺の≪魅力≫が、箱をかなり頑丈にしているからな!
「ちっくしょー! カオルちゃん可愛いー!」
「≪空間爆縮≫!」
こうして、モズも圧殺された。
俺達の勝ちだ!
▽
名前:カオル
種族:妖狐
クラス:プリンセス
レベル:28
ステータス
筋力:1 体力:1 魔力:1 敏捷:1 器用:1 幸運:1 魅力:361(+594)
種族スキル
≪魅惑≫ ≪美しい毛並≫
クラススキル
≪魅力上昇≫ ≪魅了≫ ≪治癒の願い≫ ≪プリンセス・ボックス≫
≪フェイクモーション≫ ≪障壁強化≫ ≪チャーミングショット≫
≪プリンセスフォースⅢ≫ ≪ワンモアボックス≫
≪チャーミングミスト≫
称号
≪箱入り娘≫ ≪詐欺師≫ ≪守り手≫ ≪お転婆≫
≪真のプリンセスへ挑む者3≫ ≪収納上手≫
≪可愛さを振りまく者≫
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
今、姉が婚約破棄されています
毒島醜女
恋愛
「セレスティーナ!君との婚約を破棄させてもらう!」
今、お姉様が婚約破棄を受けています。全く持って無実の罪で。
「自分の妹を虐待するなんて、君は悪魔だ!!」
は、はい?
私がいつ、お姉様に虐待されたって……?
しかも私に抱きついてきた!いやっ!やめて!
この人、おかしくない?
自分の家族を馬鹿にするような男に嫁ぎたいと思う人なんているわけないでしょ!?
ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜
されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。
一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。
その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!
パンデミック――感染爆発が起きたのだ!
地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。
幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。
僅かな人類や生物は生き残ることができた。
唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。
――俺だ。
だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。
世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。
生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――。
高校球児、公爵令嬢になる。
つづれ しういち
恋愛
目が覚めたら、おデブでブサイクな公爵令嬢だった──。
いや、嘘だろ? 俺は甲子園を目指しているふつうの高校球児だったのに!
でもこの醜い令嬢の身分と財産を目当てに言い寄ってくる男爵の男やら、変ないじりをしてくる妹が気にいらないので、俺はこのさい、好き勝手にさせていただきます!
ってか俺の甲子園かえせー!
と思っていたら、運動して痩せてきた俺にイケメンが寄ってくるんですけど?
いや待って。俺、そっちの趣味だけはねえから! 助けてえ!
※R15は保険です。
※基本、ハッピーエンドを目指します。
※ボーイズラブっぽい表現が各所にあります。
※基本、なんでも許せる方向け。
※基本的にアホなコメディだと思ってください。でも愛はある、きっとある!
※小説家になろう、カクヨムにても同時更新。
私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?
樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」
エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。
他に好きな女ができた、と彼は言う。
でも、それって本当ですか?
エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる