16 / 38
15 極振りの扱いづらさは可能性
しおりを挟む臨時広場で揉めていた鬼コンビをたしなめて、そのまま狩りへ行くことになった。
せっかく楽しいゲームをプレイしているのに、楽しめずに終わってしまうのは勿体無いと思ったからだ。
俺とリリィと鬼コンビ。更に、偶然居合わせたサンゾウの計五人だ。
最高でペア狩りしかしてこなかったおれにとって、三人以上での狩りは今回が初めて。
全員で思い切り楽しむぞ! と意気込んで、西の平原の奥にある≪一層ダンジョン≫へとやって来た。
難易度的に南の森よりも更に一段階上ということで、ここにした。
南の森は俺とサンゾウでペア狩り出来る程度だからな。
やっぱり、それなりにスリルがないと楽しめない。
そうして、二十分程が経過した。
「一旦休憩にしませんか?」
問いかけたところ、全員が了承してくれた。
近場のモンスターは大体倒したところなので、特に危険も無いだろう。
「ちょっとあんたたち、もうちょっと殲滅速度なんとかなんないの?」
全員が適当に座ったところで、リリィの怖い顔が男達へと向かう。
もはや敬語なんて存在していない。
ご機嫌斜めだ。
そう、このパーティーには明らかな欠点があった。
「拙者、敏捷特化でござるし」
「オレは体力特化だからな」
殲滅力だ。
この二人は筋力に振ってない上に、武器も初期装備。
そこまで強くないモンスターとはいえ、ダメージも知れている。
「ふふ、みんな僕に任せておいてくれれば大丈夫ですよ」
筋力担当ダイナが、少し誇らしげに言う。
ダイナは筋力極振りの、攻撃特化。
攻撃力だけで言えば、間違いなくこの中でナンバーワンだ。
「あんたの攻撃全然当たってないでしょ! まだこの似非忍者の方がダメージ与えてるわよ!」
「ござそうろう」
そう、何故か命中率の低さもナンバーワン。
当たるとでかいけど、当たらなすぎて小さなダメージを素早く積み重ねているサンゾウの方が秒間ダメージは大きくなってしまったようだ。
「なるほど、極振りってこういう弊害があるんですね」
「そうなんですよ。お姉様と私みたいな魔法職はまだ大丈夫ですけど、他の役割だといくつものステータスが必要ですから」
リリィが言うには、ステータスの一つがどれだけ高くても、中々運用が難しいらしい。
例えば、≪筋力≫は与えるダメージに大きく影響する。
しかし、いくら攻撃力が高かったとしても、攻撃が当たらなければ意味は無い。
その攻撃を与える為に必要なのが≪器用≫のステータスだ。
これはなんと、直接攻撃する際の命中率に影響するんだとか。
VRだから自分の行動が全てに影響するかと思ってたから、驚いた。
≪器用≫が低いと、振るった武器が逸れやすくなるらしい。
後は、ダメージの数値の振れ幅が大きくなったりもあるそうだ。
「こんな感じで、大体はいくつかのステータスが絡んでるんです!」
「なるほど。リリィは物知りですね」
「掲示板とかでしっかり予習しましたからね! とまぁそんな風になる上に、取得する称号にはステータスも影響するから、極端なスキルばかり覚えるとも書いてありました」
「ほほー。だから極振りの評判が悪いんでござるな」
「そうね。βテストで散々検証された結果らしいから、極振りは有り得ないとβテスター達から太鼓判が押されてたわ」
そういう感じの理由があったんだな。
だけど、極振りの可能性はきっとあるはずだ。
ダリラガンは一番頑丈になる可能性を秘めてるし、ダイナは一番ムキムキになれる筈だ。
「難しくってさっぱり頭に入ってこねぇぞ。要は、体力振りまくったら一番硬ぇってこったろ?」
「間違ってないけど、ちょっと筋肉ダルマは黙っててもらえない!?」
「そうですよダリラガン。極振りするなら筋力一択、という話です」
「貴方も全然違うからね!?」
「姫の魅力は限界突破している、ということでござるな?」
いや、それも間違ってると思うんだけど。
どうして俺が出て来るのか。
「それは間違いないわね」
「しかり」
あってたらしい。
もはや意味が分からない。
だけど、殲滅力が足りていないのは紛れもない事実。
俺の思いつく火力担当というとレンだけど、今日はログイン出来ないって聞いてるしな。
それに、彼のスキルも癖が強い。
十秒待って外れるか、仲間もろとも殲滅するかのどっちかな気がする。
「それじゃあ、もうみんなで殴りましょうか」
「「「え」」」
「お姉様。皆って、皆ですか?」
「はい、皆です」
このダンジョンのモンスターは、動きがあまり早くない。
それに加えて、ダリラガンがしっかりとヘイトを稼いでくれるお陰で、さっきまでも彼以外はダメージをもらっていない。
リリィがたまに回復魔法を使うだけで戦線は維持出来ていた。
戦闘時間が長くかかった以外は問題は無かったりするわけだ。
俺?
危ないからってことで一番後ろで見学させられていた。
四人だけで安定してたから、本当に何もしていなかった。
何かしようとするとリリィやサンゾウに窘められたからな。
だからというわけでもないが、時間が掛かるなら全員で殴ればいい。
「しかし姫、姫まで叩く必要はないのでは」
「あのダメージ量なら私とリリィさんが加われば全然違いますよ?」
「それはそうでござるが、危ないでござる」
「そうですお姉様。お姉様は私達の後ろでうふふおほほと笑顔を振りまいて下されば充分です。それだけで私も、そこの筋肉ダルマ達も喜んで働きます!」
案の定、俺の提案を二人がたしなめてくる。
だけどここで引く訳にはいかない。
皆で狩りに行こうと誘っておいて、見てるだけなんて申し訳ないのもあるし、俺ももっと冒険がしたい。
支援が出来ないなら殴るしかないだろ!
俺の初心者用ワンドが火を噴くぜ!
「まぁまぁ、いいじゃないですか。行きますよ!」
こうして俺達は、クラスなんかに関係なく全員でモンスターをタコ殴りにするという狩りを行った。
殲滅速度は三割増し(当社比)って感じだったが、楽しかった。
おまけに新しい称号も得たし、間違いなく有意義な時間だった。
称号:≪お転婆≫
取得条件:女性キャラクター
一部クラス
筋力値1
魅力値100以上
通常攻撃のみでモンスターを十体倒す
取得スキル:≪チャーミングショット≫
俺というキャラクターは≪箱入り娘≫と≪詐欺師≫という称号に加えて、≪お転婆≫までゲットしてしまった。
どんなプリンセスを目指してるのか。
お転婆ってレベルじゃないぞ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
CREEPY ROSE:『5000億円の男』
生カス
SF
人生のどん底にいた、何一つとりえのない青年ハリこと、梁木緑郎(はりぎ ろくろう)は、浜辺を歩いていたところを何者かに誘拐されてしまう。
連れ去られた先は、男女比1:100。男性がモノのように扱われる『女性優位』の世界だった。
ハリはそんな世界で、ストリートキッズの少女、イトと出会う。
快楽と暴力、絶望と悔恨が蔓延る世界で繰り出される、ボーイミーツガールズストーリー。
※小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n4652hd/
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる