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15 極振りの扱いづらさは可能性

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 臨時広場で揉めていた鬼コンビをたしなめて、そのまま狩りへ行くことになった。
 せっかく楽しいゲームをプレイしているのに、楽しめずに終わってしまうのは勿体無いと思ったからだ。

 俺とリリィと鬼コンビ。更に、偶然居合わせたサンゾウの計五人だ。
 最高でペア狩りしかしてこなかったおれにとって、三人以上での狩りは今回が初めて。
 全員で思い切り楽しむぞ! と意気込んで、西の平原の奥にある≪一層ダンジョン≫へとやって来た。

 難易度的に南の森よりも更に一段階上ということで、ここにした。
 南の森は俺とサンゾウでペア狩り出来る程度だからな。
 やっぱり、それなりにスリルがないと楽しめない。

 そうして、二十分程が経過した。

「一旦休憩にしませんか?」

 問いかけたところ、全員が了承してくれた。
 近場のモンスターは大体倒したところなので、特に危険も無いだろう。

「ちょっとあんたたち、もうちょっと殲滅速度なんとかなんないの?」

 全員が適当に座ったところで、リリィの怖い顔が男達へと向かう。
 もはや敬語なんて存在していない。
 ご機嫌斜めだ。

 そう、このパーティーには明らかな欠点があった。

「拙者、敏捷特化でござるし」

「オレは体力特化だからな」

 殲滅力だ。
 この二人は筋力に振ってない上に、武器も初期装備。
 そこまで強くないモンスターとはいえ、ダメージも知れている。

「ふふ、みんな僕に任せておいてくれれば大丈夫ですよ」

 筋力担当ダイナが、少し誇らしげに言う。
 ダイナは筋力極振りの、攻撃特化。
 攻撃力だけで言えば、間違いなくこの中でナンバーワンだ。

「あんたの攻撃全然当たってないでしょ! まだこの似非忍者の方がダメージ与えてるわよ!」

「ござそうろう」

 そう、何故か命中率の低さもナンバーワン。
 当たるとでかいけど、当たらなすぎて小さなダメージを素早く積み重ねているサンゾウの方が秒間ダメージは大きくなってしまったようだ。

「なるほど、極振りってこういう弊害があるんですね」

「そうなんですよ。お姉様と私みたいな魔法職はまだ大丈夫ですけど、他の役割だといくつものステータスが必要ですから」

 リリィが言うには、ステータスの一つがどれだけ高くても、中々運用が難しいらしい。

 例えば、≪筋力≫は与えるダメージに大きく影響する。
 しかし、いくら攻撃力が高かったとしても、攻撃が当たらなければ意味は無い。

 その攻撃を与える為に必要なのが≪器用≫のステータスだ。
 これはなんと、直接攻撃する際の命中率に影響するんだとか。

 VRだから自分の行動が全てに影響するかと思ってたから、驚いた。
 ≪器用≫が低いと、振るった武器が逸れやすくなるらしい。
 後は、ダメージの数値の振れ幅が大きくなったりもあるそうだ。

「こんな感じで、大体はいくつかのステータスが絡んでるんです!」

「なるほど。リリィは物知りですね」

「掲示板とかでしっかり予習しましたからね! とまぁそんな風になる上に、取得する称号にはステータスも影響するから、極端なスキルばかり覚えるとも書いてありました」

「ほほー。だから極振りの評判が悪いんでござるな」

「そうね。βテストで散々検証された結果らしいから、極振りは有り得ないとβテスター達から太鼓判が押されてたわ」

 そういう感じの理由があったんだな。
 だけど、極振りの可能性はきっとあるはずだ。
 ダリラガンは一番頑丈になる可能性を秘めてるし、ダイナは一番ムキムキになれる筈だ。

「難しくってさっぱり頭に入ってこねぇぞ。要は、体力振りまくったら一番かてぇってこったろ?」

「間違ってないけど、ちょっと筋肉ダルマは黙っててもらえない!?」

「そうですよダリラガン。極振りするなら筋力一択、という話です」

「貴方も全然違うからね!?」

「姫の魅力は限界突破している、ということでござるな?」

 いや、それも間違ってると思うんだけど。
 どうして俺が出て来るのか。

「それは間違いないわね」

「しかり」

 あってたらしい。
 もはや意味が分からない。

 だけど、殲滅力が足りていないのは紛れもない事実。
 俺の思いつく火力担当というとレンだけど、今日はログイン出来ないって聞いてるしな。

 それに、彼のスキルも癖が強い。
 十秒待って外れるか、仲間もろとも殲滅するかのどっちかな気がする。
 
「それじゃあ、もうみんなで殴りましょうか」

「「「え」」」

「お姉様。皆って、皆ですか?」

「はい、皆です」

 このダンジョンのモンスターは、動きがあまり早くない。
 それに加えて、ダリラガンがしっかりとヘイトを稼いでくれるお陰で、さっきまでも彼以外はダメージをもらっていない。

 リリィがたまに回復魔法ヒールを使うだけで戦線は維持出来ていた。
 戦闘時間が長くかかった以外は問題は無かったりするわけだ。

 俺?
 危ないからってことで一番後ろで見学させられていた。
 四人だけで安定してたから、本当に何もしていなかった。
 何かしようとするとリリィやサンゾウに窘められたからな。

 だからというわけでもないが、時間が掛かるなら全員で殴ればいい。

「しかし姫、姫まで叩く必要はないのでは」

「あのダメージ量なら私とリリィさんが加われば全然違いますよ?」

「それはそうでござるが、危ないでござる」

「そうですお姉様。お姉様は私達の後ろでうふふおほほと笑顔を振りまいて下されば充分です。それだけで私も、そこの筋肉ダルマ達も喜んで働きます!」

 案の定、俺の提案を二人がたしなめてくる。
 だけどここで引く訳にはいかない。
 皆で狩りに行こうと誘っておいて、見てるだけなんて申し訳ないのもあるし、俺ももっと冒険がしたい。
 支援が出来ないなら殴るしかないだろ!
 俺の初心者用ワンドが火を噴くぜ!

「まぁまぁ、いいじゃないですか。行きますよ!」

 こうして俺達は、クラスなんかに関係なく全員でモンスターをタコ殴りにするという狩りを行った。
 殲滅速度は三割増し(当社比)って感じだったが、楽しかった。

 おまけに新しい称号も得たし、間違いなく有意義な時間だった。

称号:≪お転婆≫
取得条件:女性キャラクター
     一部クラス
     筋力値1
     魅力値100以上
     通常攻撃のみでモンスターを十体倒す
取得スキル:≪チャーミングショット≫

 俺というキャラクターは≪箱入り娘≫と≪詐欺師≫という称号に加えて、≪お転婆≫までゲットしてしまった。
 どんなプリンセスを目指してるのか。
 お転婆ってレベルじゃないぞ。

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