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14 見捨てる気にもならなくて

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「えっ、あ、どうしたもこうしたもないよ。こいつらがさー」

 怒り狂っていた男は若干戸惑いつつも、ため息交じりに説明してくれた。
 そこまで複雑なことではなかった。

「だから悪かったって。なぁ、ダイナ」

「謝るにしてももう少し言い方があるでしょう。そんなんだから怒られるんですよ」

「あんだと? 大体、お前がさっさと仕留められねぇのが悪いんだろうがよ」

「そういう貴方こそ、ばかすか攻撃を食らって何度も死んでたじゃないですか」

「なにおう?」

「なんですか?」

「お前ら二人ともだ!」

 言い合いを始めた鬼コンビに対して、またもや男がキレた。
 どうやら、二人がパーティー狩りとしての役割を全う出来なかったのが原因のようだ。

 そこは慣れとかもあるし仕方ないとしても、それをお互いに擦り付け合う。
 これは怒られても仕方ない。

「お姉様、あいつらただのバカです。放っておきましょうよ」

「うーん……」

 リリィの言いたいことは分かる。
 ここで、キレてる男の方に落ち着くように言うのも、何か違う気がする。

 だけど、二人はゲームに慣れていないだけにも思う。
 これがきっかけで≪CPO≫から離れるようなことがあれば、凄く勿体無い。
 このゲームはとても楽しい。
 それを二人にも、もっと味わってほしい。

「二人とも、まずはこの人にきちんと謝りませんか?」

「ああ? あんた誰だよ」

「失礼ですが、どちら様ですか?」

 鬼コンビに話しかけてみたが、訝しげな視線を向けられてしまった。
 二人からすれば、私は全く関係のない第三者。
 それはそうなる。

「私は――」

「姫!? 姫ではござらぬか! 一体どうしたでござるか!?」

 まさか更に乱入者が現れるとは。
 しかもそれは、口元を布で覆っただけの忍者志望、サンゾウだ。
 ハイテンションアクロバティックな挙動で人混みを跳び越えてやってきた。
 なんだこれ。

「姫? 名前とは違うみてぇだが……」

「そういうロールプレイなんでしょうか……」

「姫?」

「姫だって」

「確かにお姫様って感じしてるわ」

「確かさっき、そこで落ちてたよな」

「可愛い」

「ふひ、拙者も姫の下僕に、なりたいでござる、こぽぉ」

 サンゾウの台詞に、鬼二人が困惑している。
 それだけじゃなく、周りにもばっちり聞こえていたようだ。
 口ぐちに何か言われているが、流石に聞き取れない。

「事情はなんとなく理解しました。他人に迷惑をかけたなら、まずは謝るのが筋だと思います。お二人での喧嘩は、その後です」

「ああ、凛々しく正論をぶつけるお姉様も素敵」

「お姉様? この方は姫でござるぞ!」

「はあ? 私のお姉様に向かって姫だなんて、貴方、中々いい趣味してますね」

「そうでござるか? しかし、姫を姉上と慕うお主の眼も良いものを持っているでござる」

「そうでしょう!」

「しかり、しかり!」

 とりあえず全部後回しにして、鬼コンビに伝えたいことを言う。

 その背後で、何故かやべーやつ二人組が意気投合していた。
 意味が分からない過ぎる。
 とりあえず今は真面目なシーンだからちょっと黙ってて欲しい。

「う、まあ、そうだな」

「ごもっともです」

「迷惑かけちまって、悪かった」

「すみませんでした」

 鬼コンビが、パーティーメンバーに頭を下げた。
 良かった、俺の言葉がちゃんと伝わってた。
 サンゾウとリリィの謎テンションに流されてたらどうしようかと思ったよ。

「ああ、まぁ、次からは気を付けてくれよ」

 キレてた男も、謝罪を受け取ってくれた。
 うんうん、めでたしめでたし。

 鬼コンビは今回の狩りでの精算を辞退したらしく、その場で解散となった。
 おっ、これはチャンスでは?

 ちょっと落ち込んで見える二人を放っておくのは可哀そうだなと思ってたんだよ。
 目の前で自由になってくれたのは有難い。

「二人とも、私達これから狩りに行くところなんですけど、一緒にどうですか?」

「うげぇ」

「リリィ、ダメですか?」

「異論ありません!」

 ツイン筋肉への勧誘に嫌そうな顔をしたのがリリィ。
 しかし、確認してみると見事な敬礼を返してきた。
 一体どうしたいのか。

「お、オレ達なんかでいいのか?」

「僕達、先程もろくに活躍出来なかったばかりなんですが……」

「そこまで肩肘張らずに、気楽に行きましょう。ゲームなんですから、楽しまないと勿体ないですよ」

「っ」

「どうして、僕達の為にそこまでしてくれるのですか?」

 赤鬼ダリラガンは息を呑んだ。
 代わりなのかは分からないが、ダイナの方が質問を投げてきた。
 どうしてと言われても、そんなに深い理由はない。

「私が好きなものを、嫌いになって欲しくないんです。せっかくなら好きになって欲しいじゃないですか」

 自分で言ってて少し恥ずかしい。
 きっと三十を越えたオッサンの台詞ではない。
 だけど今の俺は美し可愛いケモミミ少女。
 これくらいの台詞はセーフの筈だ。

「あああぁ、優しさ溢れるお姉様、素敵……」

「姫、姫! 拙者は感動いたしましたでござる! 一生ついていくでござる!」

 二人も感動してくれてるし。
 ……いや、この二人はチョロそうだから判定としては全く参考にならない気がする。
 そっとしておこう。

「……よっしゃ! それじゃあ世話になるぜ、姫さん!」

「どうぞよろしくお願いします、姫様」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 了承してくれたはいいが、ナチュラルに姫呼びだった。
 ま、カオルちゃんの方が嫌だし、訂正する手間が省けていいか。

「サンゾウさん、一緒にどうですか?」

「姫のお誘いとあらば喜んでお供するでござる」

「それじゃあ狩場の相談をしましょうか」

 会話ルームを作ると、皆が入場してくれた。

「まずは、お二人のスタイルを教えてもらっても良いですか?」

「んじゃまずはオレから。ダリラガンだ、よろしくな! 種族は≪鬼≫でクラスは≪ファランクス≫。体力極振りだ。前衛として、攻撃は全部オレが受けてやるぜ!」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしく」

「よろしくでござる!」

「それでは僕ですね。≪ダイナ≫と申します。種族は同じく≪鬼≫。≪闘士≫という近接型のクラスに加えて筋力極振りの攻撃特化型です」

 ダイナにも同じように挨拶を返す。
 
「お二人とも極振りなんですね」

「おう! 一つに全部突っ込みゃ強そうだと思ってな!」

「僕達は幼馴染だったので、一緒に始めたんです。まさか極振りが悪手とは思わなかったですね。もう少し下調べを行っておくべきでした……」

 このゲームにおいての極振りの評価は、≪ゴミ≫。
 理由があってそう言われてるのは分かるけど、個人的には納得がいかない。

「大丈夫です。極振りだって、絶対楽しめる筈です」

「そうでござるよ、ダイナ殿」

「私達も皆極振りだけど、楽しいですからね。特に、お姉様と出会えたことは最上の幸せです!」

「しかり!」

 励ますように言うと、サンゾウとリリィも乗って来た。
 サンゾウが極振りだって知ってるっぽいのは、いつのまにか色々と話していたんだろうか。
 今は、変なノリが有難い。

 暗い空気も吹き飛ばしてくれるからな。
 やっぱり、可愛いは最強だ。

「次は私達も自己紹介をしますね」

 俺達三人も、自己紹介を兼ねて自分のスタイルを説明する。
 全員が極振りと聞いて、鬼コンビはすっかり元気を取り戻していた。
 ダリラガンの方は、既に元気だったけど。

「それじゃあ、狩場を決めちゃいましょう。全員で楽しむ為に」

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