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9 圧縮箱入りモンスター出来上がり
しおりを挟むレンのことを馬鹿にしたプレイヤー達と、何故かイベントで雌雄を決することになってしまった。
俺達はそれまでに、≪空間爆縮≫を活かす方法を考えないといけない。
しかもそれに追加で、レベル上げや装備の強化も考える必要がある。
今の時刻は十二時を回ったところ。
とりあえず、一度昼食にしようということで、街に戻って解散した。
一時間後に噴水前で待ち合わせだ。
きっとレンはすぐさまログアウトしただろう。
俺も昼食ということにしたが、実際は起きてすぐに食べている。
なんとなく、女の子が昼前まで寝てたっていうのもどうかと思ったから、ちょっとした嘘をついた。
俺の操作するこのキャラクターに見合った言動をしたいというかなんというか。
そう、これも一つのロールプレイ。
可愛いキャラクターの中身なんだから、せめてフリーターの女の子、くらいは心がけていきたい。
……これってもしかしてネカマでは?
うん、細かいことは気にしてはいけない。
楽しみ方は人それぞれ。これはあくまでもロールプレイ。
ネカマだろうと性別が一致してようと、何も影響は無い筈だ。
特に明言する必要もないしな、うん。
さて、時間が出来たので放置していた検証を進めることにする。
次に試すのは≪フェイクモーション≫。
広場のベンチに腰かけて、詳しい説明をもう一度読んでみる。
うん、よく分からない。
実際に使ってみるか。
って、これはパッシブ型だな。
どうやって効果を発揮させるんだ?
「お」
目の前に、選択ウインドウが現れた。
ふむふむ、基準となるモーションを選択してください?
とりあえず、≪癒しの願い≫を選択。
『設定が完了しました』
設定出来たらしいけど、何が変わったかは分からない。
実際に試してみるしかないか。
というわけで、やって来ました西の平原。
街中でスキルを試すわけにもいかないからな。
ただでさえ見られてる気がするのに、突然箱を出したりすれば余計に目立ってしまう。
両手の指を絡ませるように胸の前で両手を握りしめる。
何かに祈るかのようなポーズ。
これが、≪癒しの願い≫の発動に必要なモーションだ。
スキルの効果を読むに、これで合ってると思うんだけど。
発動するのは、箱を出現させるスキル。
意識を集中させると、シュインという音が鳴った。
詠唱が完了した音だ。
「≪プリンセス・ボックス≫」
スキル名を言葉にすると、狙った場所に箱が出現した。
本来のモーションとは違うのに、問題なく発動出来た。
これが≪フェイクモーション≫の効果ってことだな。
≪プリンセス・ボックス≫の発動の時のモーションは、≪手を翳した状態≫だ。
それが、登録した≪癒しの願い≫のモーションで発動出来た。
つまり、本来のモーションとは別のモーションでの発動を可能にするスキル。
なるほどな。
で、これって、どういう意味があるんだ?
▽
一時頃に、レンと合流。
再び、スキルの検証を開始した。
課題は、≪空間爆縮≫の有効活用。
しかしこれがなんと、あっさりと解決した。
「まさかこんな簡単な話だったなんて」
「これであいつらにも問題なく勝てますね!」
≪空間爆縮≫の問題点は、当たらない事。
当たりさえすればダメージはでかいんだ。
手順を説明しよう。
≪白玉兎≫を≪プリンセス・ボックス≫で隔離する。
箱の内側に向かって≪空間爆縮≫を発動する。
相手は死ぬ。
以上。
非常に簡単なことだった。
≪白玉兎≫程度じゃあの箱を十秒程度で壊すことは不可能。
つまり必中。
「この調子で狩れば、レベルも上げられるかな」
レンもとても喜んでくれている。
はしゃいでいると言ってもいい。
けど、とても狩りでは使おうと思わない。
「ここのモンスター相手なら、殴った方が早いんですよね……」
「それはまあ、そうだね」
杖で兎を撲殺するのに、三回叩けばこと足りる。
態々俺のスキルで隔離した上に、超威力の魔法を十秒かけて叩き込む必要はない。
この必殺コンボがあの腐れもずく共を倒す鍵なのは間違いないが、不安も多い。
箱の耐久力が足りないかもしれないし、何らかの手段で耐えられる可能性もある。
それらを払拭するのに、何はともあれレベルを上げたい。
そうなれば、イベントまで一週間以上はあるものの、あまりのんびりもしていられない。
レンはやっと2になったところで、俺は13のまま。
効率を上げる為には、この必殺コンボを活かせる場所に行く必要がある。
強くて、経験値の多いモンスターのいる場所。
そう、いざ行かん、東の森!
俺達ならきっと立ち向かえる筈だ!
「狩場を変えようと思うんですが、いいですか?」
「姫ちゃんの決めたことなら反対はないよ」
微妙な反応ではあるが、反対でないのは確か。
今は細かいことは気にしないでおこう。
そうと決まれば、早速とばかりに東の森へ移動した。
ああ、ここのモンスターのビジュアルは刺激的だが、背に腹は代えられない。
今こそ挑む時!
「ひ、姫ちゃん、来てるよ!」
「≪プリンセス・ボックス≫! 今の内に!」
「ま、任せといて!」
両手を握りしめて祈るようなポーズを取ると、すぐ近くまで迫っていた凶悪な面の熊が箱に囚われた。
鼻面をぶつけてしばらく呆然としていたが、閉じ込められたのが気に食わないのか、激しく爪を叩きつけてくる。
レンが杖を構えて魔法の体勢に移った。
やばい、≪デビルグリズリー≫の攻撃が激しすぎる。
箱にヒビが入ってるのが分かる。
魔法はまだか!
「……………………≪空間爆縮≫!!」
箱が破壊されると同時に、魔法が発動。
デビルグリズリーの腹部の空間が圧縮されて、熊に大ダメージを与える。
なんとか一撃で倒せたようで、熊は倒れてすぐに消えていく。
ふう、心臓に悪い。
でも上手くいったのはいいことだ。
今のでレンのレベルも上がったし。
「すごい、一気に2も上がったよ!」
「この調子でガンガン行きましょう!」
▽
「奥からもう一匹!?」
「姫ちゃん箱、箱お願い!」
「……一つしか出せないです」
▽
「ぐぇ!?」
「え、遠距離攻撃!? レンさん、生きてますか?」
「……ガクリ」
「レンさあああああん!!」
▽
何度も死に戻りを繰り返しながらも凶悪なモンスター達に挑み、俺達はレベルを上げていった。
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