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新たな始まり

282 禁句と再会

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 広場に向かうと、居た。
 丁度今から一戦目が始まるところのようだ。
 急いで駆け付けてきた甲斐があった。

 対戦相手は、さっき俺達の家の玄関を乱暴に叩いていた≪ギガガガ≫のようだ。
 人だかりを避ける為に少し離れた場所から見ている。
 お陰で名前は表示されていないが、あの見た目は間違いない。

 ゼノは、堂々としている。
 体格差が結構すごいけど、大丈夫なんだろうか。
 って、俺達と違ってそのままの外見じゃなかったな。
 うっかり忘れかけていた。
 彼らは、ゲームをプレイしているんだ。

 ゼノも見た目通りの年齢じゃないだろうし、ステータスだって見た目通りってことはないだろう。
 あんな無茶な勝負を仕掛けるってことは、それなりには強い筈だ。
 これで全く強くなかったら、逆に凄いけど。

 それにしても、ゼノ、ゼノか。
 どこかで聞いたような……。

「うぉらぁ!!」

 何かを思い出しかけて、更に集中しようとした意識が、野太い声にかき消された。
 おっと、いけない。
 どうやら決闘が始まったようだ。
 今のはギガガガの声か。
 こんなところまで響いてくるなんて、気合い入れ過ぎだろ。

 ゼノがもし負けたらいつでも飛びだせるように、目を離してはいけない。
 負けても全員と戦うと宣言してたから、周りは誰も助けてくれないだろう。
 それどころか、我も我もと群がる筈だ。
 
 そうなったら申し訳ない。
 一人にでも負けたら、後は全て俺が引き受ける。

 そう思っていた。
 だけど、余計な心配だったようだ。
 ギガガガに勝利したゼノは、他のプレイヤー達もどんどんと蹴散らしていく。

 前衛は相棒に任せて、ゼノ自身は後衛のようだ。
 後ろからひたすら魔法を連打している。

 ゼノも強いんだけど、あの相棒。
 コインの形をしたそれが、かなり強い。
 好戦的な性格なのかガンガン前に出て行っている。
 
 レベルがかなり高いのか?
 他のプレイヤー達よりも数段強く見える。
 流石に連続で戦っていると疲れたのか、ゼノの動きが鈍っては来たけど、相棒がそれを補ってもかなり余る程強い。

 気付けば、途中から参戦してきた人も含めて全員に勝利してしまった。

 負けたプレイヤーはさっさと去るか、残って観戦するかしていたが、流石に全員が敗北して決闘が終わればもう用も無いようだ。
 どこかへ去ってしまった。
 むしろ今まで、どこから沸いて来たのかってくらいいたからな。
 
 戦いを終えたゼノが、疲れ果てたように倒れ込んだ。
 本当に頑張ったと思う。
 あれだけの人数と連戦するなんて、どれだけ瞬殺出来たとしても絶対うんざりしてしまう。
 
 それなのに、ゼノは途中で投げ出さなかった。
 自分に何の得も無い筈なのに、俺達の為に、頑張ってくれた。
 
 彼が勝手にやったことだから、これはお節介かもしれない。
 だけど、俺も勝手にやろう。
 迷惑だったとしても、今感じているこの恩を、そのままにしておくことは出来ない。

 立ち上がったゼノの手前、五メートル程の距離に一歩で移動する。
 ここまで近づいたのは初めてだ。
 ゼノは、少年のような顔立ちで、片目を髪で隠している。

「な」
「あ……」
「ああ!?」
「え?」

 思わず、変な声が出た。
 それ以上出そうになった筈が、言葉は不思議と出なかった。
 他にも同じような声が聞こえるが、それどころじゃない。

 思い出した。
 この見た目、名前――!
 俺はこのを知っている。

 視界の端で、≪10≫という数字が表れて、≪9≫になって消えていった。
 そうか、今のが、禁止されていることを言おうとした時のカウントか。
 初めて見た。

 おっと、いつまでも呆然としていたらいけない。

「はじめまして、ゼノさん」
「はじめまして」

 なんとか一瞬で取り繕えた、と思う。
 俺の挨拶に、ゼノはぶっきらぼうそうに応えてくれた。
 変わらないなぁ。
 あれは彼がよくしているロールプレイだった筈だ。

「あ、ああ、あんたは――」

 側に浮かんでいた相棒が何かを言おうとしたが、握りこまれてそのままポケットへ。
 大丈夫なんだろうか。

「さっきは俺達の為に戦ってくれて、ありがとうございました。ゼノさんの言葉、とても嬉しかったです」
「あ、はあ」

 とりあえず気にしないことにして、素直な感謝を伝える。
 ゼノは困惑している。
 それはそうだ。突然こんなことを言われたって、訳が分からないだろう。
 
「NPCは――」

 理由を言おうとするが、言葉が止まる。
 まるで固定されたかのように口も動かない。
 9が8になり、そして消えていく。

「うん?」
「いえ、なんでもないです。本当にありがとうございました。心の底から嬉しかったです」

 強制的に言えないのはもどかしい。
 ミルキーや他のプレイヤー達もこんな気持ちを味わったんだろうか。

 でも、言えないなら仕方ない。 
 気持ちだけ伝えて誤魔化しておく。

 更に、何か用事じゃないかと聞いてみたら、ゼノはβNPCの少女が俺の前へと出てきた。
 名前は≪シュシュ≫。
 話を聞くと、この子のクエストを達成する為に、この村へやって来たらしい。

 やっぱり、ゼノは護衛をしていたんだな。

 その目的というのも俺の畑で採れた素材と、それから作ったポーションだったから分けてあげた。
 喜んでもらえて嬉しい。

 用事も終わったしとゼノが帰ろうとしたところで、ゼノのポケットから何かが飛び出した。
 三メートル程打ちあがったそれは、俺の目の前まで急降下してきた。

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