上 下
324 / 338
新たな始まり

278 当日と予兆

しおりを挟む

 ミゼルと楽しくお話をしていると、皆が起きてき始めた。
 元気一杯のタマと、タマに引っ張られる、既に寝ようとしている葵。
 石華とおろし金もやって来た。

 いつもは一番早いミルキーは、一番最後に降りてきた。
 俯きがちで、顔を背けている。

 ミルキーは、朝に弱くない。
 具合でも悪いのかと聞いてみると、

「恥ずかしくて死にかけてるだけなので気にしないでください」

 と顔を真っ赤にして言われた。
 何かあったんだろうか。

 ミゼルの用意してくれた朝食を皆で食べた後は、特に予定も無いので思い思いに過ごすことになった。
 あまりフィールドとかには出掛けない方が良いという話にもなったから、その影響もある。

 葵は畑に日課のトレーニングへと出掛け、タマとおろし金はそれについていった。
 ミゼルは城へ荷物を取りに行くとかで、騎士のノーチェと出汁巻が迎えに来た。
 ミルキーも付き添いで一緒に行った。

 あれは何か企んでる顔だったな。
 ミゼルが。
 可愛いし微笑ましいから、止めはしない。

 石華は、様子見がてら村の家畜達のところを周ってくるそうだ。

 今日の昼食はこの家で皆で食べるから、昼には皆帰ってくる。
 俺も、お昼までは家でのんびり過ごすことに決めた。

 一般プレイヤーがログインするようになって、きっとどこのフィールドも人で溢れ返っているだろう。
 俺達の時よりも遙かに酷い筈だ。
 トラブルの種も、きっと沢山落ちている。

 だから俺達の方針は様子見だ。
 なるべく村や街から出ずに、トラブルに巻き込まれないように生活する。
 何日かすれば少しは落ち着くだろう。
 多分。

 時間はまだ8時を過ぎたところか。
 何をしようか悩む。
 今日になって急に一人の時間が増えたな。

 やっぱりダンジョンにでも出掛けるか?
 以前探索した≪忘却の実験場≫とかなら、まだプレイヤーも少ない気がする。
 ≪テレポート≫を使えば一瞬で移動出来るし。

 ……いや、危険だからとフィールドに出ないように提案しといて、それは出来ないか。
 ミゼルに付いて行けば良かったかな?

 でも、来なくて良いとやんわりと釘を刺されたしな。
 ミゼルのあの意味深な表情と関係がありそうだから、強引に付いて行く気にはならなかった。

 んー、よし、とりあえずポーションを作ろう。
 昨日収穫したばかりの素材があった気がする。

 他に消費する材料は、ポーション瓶だ。
 これも前に作った時の余りがまだある。
 けどそうだな、ついでだし買って来よう。

 と言う訳で、村にある道具屋でさくっと買ってきた。
 ストーレの街で買うよりも割高だけど、仕方がない。
 これくらいの差額なら、ポーション一個売れば取り返せる。

 そのくらい、高値で売れるっぽいからな。
 そういえばパシオンからも買い取りの依頼が来ていた。
 そっちに売る分を優先的に作っておかないと。

 材料があるだけポーションを作成した。
 家用の分はまだあるから、これは全部売ってしまおう。
 
 まだ時間がある。
 よし、今度は装備品に手を出すぞ。

 ≪クリエイトウエポン≫、≪クリエイトアーマー≫、≪クリエイトアクセサリー≫の三つのスキルが使える。
 つまり、武器、鎧、アクセサリーの三種を作成することが出来る。
 それらも細かく分類されるから、ほとんどの装備品を作ることが出来る。

 ただし、俺のスキルは他の人の生産スキルと少し仕様が違うらしい。

 普通のスキルでは、スキルを使用した後にいくつかの工程を踏む。
 まずは、材料を指定する。

 次に、好きなデザインを思い浮かべる。
 それが材料から連想されるものだと、性能にプラスで影響するらしい。
 逆に、材料から程遠い無理のあるデザインだと、性能が下がる。

 その次は、材料を加工したり組み合わせたりの作業を、ゲーム的に簡略した上で行う。
 それなりに難しいが、これを高い精度で行うことが出来ればかなり良い物が出来上がるんだそうだ。

 最後は、名付け。
 これも性能に少し影響があるとかなんとか。

 どの作業も省いたりお任せが出来るから、慣れてない人も安心して作れる。
 この知識を教えてくれたマッスル☆タケダなんかは、最初から一つ一つ丁寧に作っていたそうだ。

 だからあんなに投げ売りしてたのかと、ちょっと納得した。
 その内の一本が進化して、今では俺の愛剣だ。
 強くなりすぎてあまり使ってないけど。
 ああ、剣も鎧も素材を強化しておこう。

 思考が逸れた。

 俺のスキルは、材料を指定する。
 すると勝手に形になる。
 後は名前を付けて、完成だ。
 どう考えても職人という感じの作り方ではない。

 これは多分、職業の方向性の違いだな。
 詳しいところは不明だけど。

 初心者向けの武器はいっぱい作った。
 練習用も、同じくだ。
 タケダとゴロウの二人が市場に流してくれているだろう。

 じゃあ次は、ガチの武器を作るか。
 幸いにも材料は揃っている。
 おろし金からもらった、羽に生えている剣(銀)と羽に生えている剣(黒)だ。

 これは素材のレベルが滅茶苦茶高い。
 説明文に伝説を越えた素材とか書かれてるくらいだからな。
 攻撃力はもういらないけど、やっぱり男としてはかっこいい剣を作ってみたくなる。

 作った剣は、特に自分で装備する予定はない。
 ちょっと試してみたいことがあるから、それの材料にする可能性が高い。
 剣の性能が高そうなら、≪エボリュートソード≫の強化に同じ素材を使う。
 攻撃力はいらないけど、あって困るものではないし。

 スキルを発動する。
 材料は二本の剣のようなもの。
 柄に使えるだろうかと、畑で採れたゲソの皮を指定してある。
 名前は……≪滅魔神剣≫で決まりだ!

 形作られていた一本の剣が、光を放って完成した。
 床に落ちる前に柄をキャッチした。
 このまま落としたら間違いなく床に刺さるだろうからな、
 危なかった。

 性能は……ヤバい。
 やっぱりこれは売ったり、普通に使うものじゃないな。
 試したいことに使わせてもらおう。
 大丈夫、無駄にする気はない。
 失敗したら無駄になるけど、その時はおろし金に素直に謝るしかない。

 そんなこんなで、気付けばお昼が近づいていた。
 タマと葵、おろし金が帰ってきて初めて気が付いた。
 アイテムの作成は楽しくて、つい時間を忘れてしまう。

 ミルキーとミゼルも無事に帰って来た。
 護衛のノーチェは転移のスキルを使えるから、城とリビングを直通で移動出来る。
 安心安全で、すごく便利だ。

「すぐお昼を用意しますわね」 
「今回は二人で作ります」

 ミゼルとミルキーの言葉に甘えて、俺はタマや葵とのんびり過ごすことにした。
 しかし、料理の完成を待つ内に、何やら外が騒がしくなってきた気がする。

『ご主人様よ、戻ったぞ』

 そこへ、石華が帰宅してきた。
 何故か放牧スペースに繋がっている、裏口の方からだ。

「おかえり、石華。思ってたよりも遅かったね」
『村に人が溢れておってな。詰め寄られたり追いかけられたせいで、手間取ったのじゃ』
「大丈夫だった?」
『なんとかのう。しかし、家の周りを見てみよ。すっかり囲まれておるぞ』
「え?」

 カーテンを少しずらして、リビングの窓から外を窺ってみる。
 そこには、沢山の人が居た。
 アイコンは緑。
 一般プレイヤーだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

処理中です...