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新たな始まり
278 当日と予兆
しおりを挟むミゼルと楽しくお話をしていると、皆が起きてき始めた。
元気一杯のタマと、タマに引っ張られる、既に寝ようとしている葵。
石華とおろし金もやって来た。
いつもは一番早いミルキーは、一番最後に降りてきた。
俯きがちで、顔を背けている。
ミルキーは、朝に弱くない。
具合でも悪いのかと聞いてみると、
「恥ずかしくて死にかけてるだけなので気にしないでください」
と顔を真っ赤にして言われた。
何かあったんだろうか。
ミゼルの用意してくれた朝食を皆で食べた後は、特に予定も無いので思い思いに過ごすことになった。
あまりフィールドとかには出掛けない方が良いという話にもなったから、その影響もある。
葵は畑に日課のトレーニングへと出掛け、タマとおろし金はそれについていった。
ミゼルは城へ荷物を取りに行くとかで、騎士のノーチェと出汁巻が迎えに来た。
ミルキーも付き添いで一緒に行った。
あれは何か企んでる顔だったな。
ミゼルが。
可愛いし微笑ましいから、止めはしない。
石華は、様子見がてら村の家畜達のところを周ってくるそうだ。
今日の昼食はこの家で皆で食べるから、昼には皆帰ってくる。
俺も、お昼までは家でのんびり過ごすことに決めた。
一般プレイヤーがログインするようになって、きっとどこのフィールドも人で溢れ返っているだろう。
俺達の時よりも遙かに酷い筈だ。
トラブルの種も、きっと沢山落ちている。
だから俺達の方針は様子見だ。
なるべく村や街から出ずに、トラブルに巻き込まれないように生活する。
何日かすれば少しは落ち着くだろう。
多分。
時間はまだ8時を過ぎたところか。
何をしようか悩む。
今日になって急に一人の時間が増えたな。
やっぱりダンジョンにでも出掛けるか?
以前探索した≪忘却の実験場≫とかなら、まだプレイヤーも少ない気がする。
≪テレポート≫を使えば一瞬で移動出来るし。
……いや、危険だからとフィールドに出ないように提案しといて、それは出来ないか。
ミゼルに付いて行けば良かったかな?
でも、来なくて良いとやんわりと釘を刺されたしな。
ミゼルのあの意味深な表情と関係がありそうだから、強引に付いて行く気にはならなかった。
んー、よし、とりあえずポーションを作ろう。
昨日収穫したばかりの素材があった気がする。
他に消費する材料は、ポーション瓶だ。
これも前に作った時の余りがまだある。
けどそうだな、ついでだし買って来よう。
と言う訳で、村にある道具屋でさくっと買ってきた。
ストーレの街で買うよりも割高だけど、仕方がない。
これくらいの差額なら、ポーション一個売れば取り返せる。
そのくらい、高値で売れるっぽいからな。
そういえばパシオンからも買い取りの依頼が来ていた。
そっちに売る分を優先的に作っておかないと。
材料があるだけポーションを作成した。
家用の分はまだあるから、これは全部売ってしまおう。
まだ時間がある。
よし、今度は装備品に手を出すぞ。
≪クリエイトウエポン≫、≪クリエイトアーマー≫、≪クリエイトアクセサリー≫の三つのスキルが使える。
つまり、武器、鎧、アクセサリーの三種を作成することが出来る。
それらも細かく分類されるから、ほとんどの装備品を作ることが出来る。
ただし、俺のスキルは他の人の生産スキルと少し仕様が違うらしい。
普通のスキルでは、スキルを使用した後にいくつかの工程を踏む。
まずは、材料を指定する。
次に、好きなデザインを思い浮かべる。
それが材料から連想されるものだと、性能にプラスで影響するらしい。
逆に、材料から程遠い無理のあるデザインだと、性能が下がる。
その次は、材料を加工したり組み合わせたりの作業を、ゲーム的に簡略した上で行う。
それなりに難しいが、これを高い精度で行うことが出来ればかなり良い物が出来上がるんだそうだ。
最後は、名付け。
これも性能に少し影響があるとかなんとか。
どの作業も省いたりお任せが出来るから、慣れてない人も安心して作れる。
この知識を教えてくれたマッスル☆タケダなんかは、最初から一つ一つ丁寧に作っていたそうだ。
だからあんなに投げ売りしてたのかと、ちょっと納得した。
その内の一本が進化して、今では俺の愛剣だ。
強くなりすぎてあまり使ってないけど。
ああ、剣も鎧も素材を強化しておこう。
思考が逸れた。
俺のスキルは、材料を指定する。
すると勝手に形になる。
後は名前を付けて、完成だ。
どう考えても職人という感じの作り方ではない。
これは多分、職業の方向性の違いだな。
詳しいところは不明だけど。
初心者向けの武器はいっぱい作った。
練習用も、同じくだ。
タケダとゴロウの二人が市場に流してくれているだろう。
じゃあ次は、ガチの武器を作るか。
幸いにも材料は揃っている。
おろし金からもらった、羽に生えている剣(銀)と羽に生えている剣(黒)だ。
これは素材のレベルが滅茶苦茶高い。
説明文に伝説を越えた素材とか書かれてるくらいだからな。
攻撃力はもういらないけど、やっぱり男としてはかっこいい剣を作ってみたくなる。
作った剣は、特に自分で装備する予定はない。
ちょっと試してみたいことがあるから、それの材料にする可能性が高い。
剣の性能が高そうなら、≪エボリュートソード≫の強化に同じ素材を使う。
攻撃力はいらないけど、あって困るものではないし。
スキルを発動する。
材料は二本の剣のようなもの。
柄に使えるだろうかと、畑で採れたゲソの皮を指定してある。
名前は……≪滅魔神剣≫で決まりだ!
形作られていた一本の剣が、光を放って完成した。
床に落ちる前に柄をキャッチした。
このまま落としたら間違いなく床に刺さるだろうからな、
危なかった。
性能は……ヤバい。
やっぱりこれは売ったり、普通に使うものじゃないな。
試したいことに使わせてもらおう。
大丈夫、無駄にする気はない。
失敗したら無駄になるけど、その時はおろし金に素直に謝るしかない。
そんなこんなで、気付けばお昼が近づいていた。
タマと葵、おろし金が帰ってきて初めて気が付いた。
アイテムの作成は楽しくて、つい時間を忘れてしまう。
ミルキーとミゼルも無事に帰って来た。
護衛のノーチェは転移のスキルを使えるから、城とリビングを直通で移動出来る。
安心安全で、すごく便利だ。
「すぐお昼を用意しますわね」
「今回は二人で作ります」
ミゼルとミルキーの言葉に甘えて、俺はタマや葵とのんびり過ごすことにした。
しかし、料理の完成を待つ内に、何やら外が騒がしくなってきた気がする。
『ご主人様よ、戻ったぞ』
そこへ、石華が帰宅してきた。
何故か放牧スペースに繋がっている、裏口の方からだ。
「おかえり、石華。思ってたよりも遅かったね」
『村に人が溢れておってな。詰め寄られたり追いかけられたせいで、手間取ったのじゃ』
「大丈夫だった?」
『なんとかのう。しかし、家の周りを見てみよ。すっかり囲まれておるぞ』
「え?」
カーテンを少しずらして、リビングの窓から外を窺ってみる。
そこには、沢山の人が居た。
アイコンは緑。
一般プレイヤーだ。
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