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新たな始まり
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しおりを挟む畑を見た後、俺達はNPCが営む道具屋へと向かった。
俺達がこの村に来たのは、高性能な装備品や、観光が目的じゃない。
シュシュの受けた依頼を達成する為だ。
内容は、未知の素材に関する噂の確認。
その素材を使用して作られたポーションの薬効は凄まじいらしく、もし存在するとすれば薬師はこぞって欲しがるだろう。
その真偽を確かめる。
そしてあわよくば素材か薬を手に入れる。
これが、クエストの達成条件だ。
依頼人である薬師からの情報で、噂の出どころは村に一件しかない雑貨屋であると聞いていた。
薬師が直接確かめに来ないのは色々と都合があるようだ。
店の前に到着した。
こじんまりとした店舗で、ほぼ屋台だ。
外に色々な商品が並んでいる。
昔ながらの八百屋みたいな感じだろうか。
「さ、シュシュの出番だ」
「ファイト!」
「うん、頑張るね!」
頷いてみせると、ルインも応援を送る。
シュシュは応えるように気合いを入れて、店主らしいおじさんの方へ歩き出した。
俺達もその後ろに続く。
これはシュシュの受けたクエストだから、必要以外は手を出さない。
道中が危険だから付いてきただけだからな。
変に手を出すとクエストの進行を阻害したり、上手くいってもシュシュが遠慮してしまいかねない。
だから、今回は全部シュシュに任せることにしている。
「こんにちは!」
「はいいらっしゃい。何をお探しかな?」
「ちょっと話を聞きたいんだけど、いい?」
「ああいいよ。今日はお客さんが多いけど、今は落ち着いてるからね」
「ありがとうおじさん!」
「ははは、どういたしまして。それで、何が聞きたいのかな?」
「えっと」
シュシュはおじさんに説明した。
新しい素材の噂について。
それが真実であるかどうか、教えてほしいと。
「ああ、その素材は確かに存在するよ。うちで扱った素材だからね」
「本当!?」
「本当だとも」
意外とあっさりと教えてくれた。
驚きで聞き返すシュシュに、どこか誇らしげに断言している。
「少し前からこの村に住んでるある人が、その素材とそれで作ったポーションをウチに持ち込んで来てくれてね。あまりにもすごいから是非売ってくれってお願いしたんだよ。それで、その最高クラスのポーションを量産出来ないかと思って、馴染みの薬師に打診してたんだ」
「やった……! 今、その素材やポーションはある!?」
「それが、今は手元に残ってないんだ。全部サンプルとして渡しちゃったからね」
「そうなんだ……」
これで、噂の真偽はハッキリした。
この時点でクエストは達成出来る。
でも、どうせなら追加の報酬も欲しかった。
それはシュシュも同じようで、現物は無いと言われてがっくりと肩を落としてしまった。
「もう何日かしたら売りに来てくれる約束になってるんだけどね」
「出来れば今日中に欲しくて……」
「もしかして、どこかの商人か薬師からの依頼で来たのかい?」
「実はそうなの」
「なるほどね」
店主のおじさんは少し考え込んだ後、何かを思いついた彼のように笑顔になった。
「それじゃあ、素材とポーションの生産者を紹介してあげよう」
「いいの!?」
「但し、この情報は他言無用。勿論、依頼主にもだよ」
「うん!」
「あと、今後その素材やポーションが欲しい場合は、必ずウチから購入すること。そしてそれを依頼主にもしっかりと伝えること。それが条件だ。どうだい?」
「分かった!」
「よし、契約成立だ。破ったら兵士に追われることになるから、破ったらダメだよ」
「う、うん!」
主人の機転で、素材を作った人を教えてくれることになった。
契約だから、完全に好意というわけではない。
流石商人、ちゃっかりしてる。
「居住エリアの≪モジャの家≫というところに住んでる≪ナガマサ≫さんという人だ。少し変わってるけど、穏やかでいい人だよ。何が出て来ても、悪さをしなければ怖がる必要はないからね」
「ん? うん、分かった。ありがとう!」
シュシュは店主に手を振って歩き出した。
俺も軽く頭を下げて、出発する。
≪モジャの家≫、か。
まさかその名前が出てくるとは。
もしかして、武器を作った≪モジャ≫と同じ家に住んでるのか?
というか、さっき畑に植えてあった、キラキラ光る植物。
もしかしてあれが噂の新素材なんじゃ……。
まあ、話を聞いてみれば分かるか。
だけど、あの家からは誰も出てこないって村の入り口で会ったおっさんが言ってたな。
会えるかどうか、怪しいな。
その時は諦めて帰るしかない。
しかし、気になることがある。
店主の最後の台詞。
ただの家に向かう人へ贈る言葉じゃないよな。
「何か変なものでもあるのか……?」
「ゼノさんどうしたの?」
考えがポロッと、口から零れてしまったようだ。
シュシュが不思議そうな顔を向けてきている。
「あ、いや、店主の言葉が気になっちゃって」
「そういえば私もちょっと気になった。何かあるのかな?」
「何か――あるかもしれないな。多分あの畑の持ち主と同じ人の家だし」
「うん」
あの畑はやばかった。
だったら、家もヤバい可能性が高い。
魔王の根城みたいなのがそびえ立ってるのかもしれない。
「ルイン? どうした?」
「……ううん、なんでもないわ。ちょっと嫌な予感がしただけ」
「そうか」
変に静まり返ってるルインにふと聞いてみた。
誤魔化そうとしているようだが、明らかにテンションが低い。
どうせ無理に聞き出そうとしても意地になるだけだろうから聞かないが、何かあったんだろうか。
気を付けておこう。
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