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新たな始まり

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 じっくり検討してみたが、俺の方はすぐに決まった。
 何故かって、ルインのスキルはどれも癖が強い。
 せっかくならユニークスキルにしたいが、ほとんどが組み合わせ前提というか、相棒の仕様に合わせたような造りになっている。

 吸収したことのある~とか書かれてたりするやつだ。
 プレイヤーは、コインを吸収出来るようにはなっていない。

 というわけで素直に≪変異≫にした。
 これも癖は強い。
 取得するスキルが変化するって、不透明過ぎるからな。
 
 実際にルインが取得したスキルが変化していたが、それで分かったことがある。
 まず、どんな変化をするかは、取得してみないと分からない。
 強化される場合もあるし、ほとんど変わらなかったりするし、逆に使いづらくなったりすることもあった。

 変化するにしても、そのスキルを元にアレンジされるパターンと、全く別のスキルになるパターンがあった。
 別になるのは極々偶にだったけど、ポイントを消費してまで取得してそれだったら悲しいことになる。
 変化しても取得可能スキルからは消える仕様っぽいから、多分二度と取れないだろう。

 それでも≪変異≫を選んだ。
 何故か、ギャンブル要素のある強化って、良いよね。
 ゲームなんだし、楽しんだ者勝ちだ。

「よし、スキルの取得とかも終わったし、転職に行こう」
「そうね、あんたがどんな職業に就くのか、楽しみだわ」
「普通に魔法使い系の無難な奴にするぞ」
「えー、それじゃつまんないわ。遊び人とかになりなさいよ。きっといつか賢者になれるから」
「そんなワープみたいな転職あるかな?」
「さあね、楽しみだわ!」




 そんなこんなで、次の日。

 ログインした場所は、シュシュが拠点にしている宿屋の前。

 今は、ゲーム内時間で午前11時。
 現実では23時半、ってとこか。
 一度ログアウトして、風呂と飯を済ませて仮眠してきたところだ。

 ゲーム内は倍の早さで時間が流れているから、倍の時間ゲームが出来る。
 でもそれは、ログアウトしている間は倍の時間、ゲームから離れている計算になる。

 今回はシュシュの依頼を期限内に完遂する為だから、仕方ない。
 どうせニートだし、平日だろうと多少の無茶は効く。

 夜の間はモンスターの配置が変わり、強いモンスターがいたり、後は現実世界のゴールデンタイムだとシュシュが狙われやすくなる。
 だから、現実世界では夜遅くになるこのタイミングにした訳だ。

 目の前に、見慣れたコインが現れた。
 落ちることなく、ヒュンヒュンと空中を飛んでいる。

「やーっと来たわね! 待ちくたびれたわ!」
「こっちの時間の流れが早すぎるんだよ。普通に寝てたらこっちでは半日以上過ぎるって、やばいだろ」
「そんなのいいから行きましょ。きっとシュシュも待ちくたびれてるわよ!」
「へいへい」

 ルインに急かされて、シュシュの待つ部屋へ。
 そこには、準備万端のシュシュが待っていた。

「おはよう」
「おはよ!」
「おはよー! もうこんにちは? あっ、ゼノさん、ちゃんと転職出来たんだね!」
「お蔭様でね」

 俺はさっき……ゲーム的には昨日、ギルドで転職をした。
 転職したボーナスで、職業専用の杖と胴装備、頭装備をもらったから、それで無事に転職出来たことが一目で伝わったんだろう。

「どんな職業にしたの? 魔法使いって言ってたから、マジシャン? 帽子もそれっぽい!」
「あー、惜しい。変幻術師イリュージョニストってやつだよ。魔法使い系だけど、ちょっと変化球寄りっぽい」
「へー、すごいね!」

 マジシャンは、正統派魔法使いの一次職。
 俺が転職した変幻術師は、少しトリッキーな魔法職らしい。
 攻撃性能は落ちるらしいが、敢えてこっちにした。
 前衛はルインに任せればなんとかなるだろうからな。

 転職した後に少しだけレベルを上げて、スキルも取得している。
 これで、他の一般プレイヤーにも引けを取らない筈だ。
 
 サービス開始してからぶっ続けでレベル上げしてる連中もいるだろうから、そこはちょっと不安だ。
 でも、俺にはルインがいる。
 あいつは俺にシュシュを守ってくれって言ってたし、全力を尽くして守るだろう。

「さあ、出発だ」
「おー!」
「おー!」



 三人でストーレの街から西に出た。
 ここからはPKありだ。
 βNPCであるシュシュを狙って襲ってくるかもしれない。
 
「ルイン、周囲の警戒頼んだ」
「任せて頂戴」

 ルインはコインのまま上空へ飛び上がった。
 姿を変化させるとステータスのボーナスもあるが、時間ごとにSPを消費するらしい。
 だから今は使わないようだ。

 そもそも、姿を変えてもステータスが少し上乗せされるだけだからな。
 本来は一時的にでもスキルが使えるようになって強化されるんだが、≪吸収会得≫の効果で恒久的になっている。
 だから、この辺りで狩れるモンスターだったら特にメリットはないらしい。

「ルインさん、もうあんなところに」
「≪鷹の眼≫っていうスキルを持ってるから、上空から見張っててくれてるんだ。敵が近づいてきたら教えてくれるってさ」
「わー、すごいね!」

 感心するシュシュに、補足説明をする。
 更に感心した。
 素直で純粋、シュシュはそんな感じだ。

 ルインも褒められたのが伝わったのか、空中をクルクル回っている。
 陽の光を反射して時々キラッと光るのが若干鬱陶しい。
 でもシュシュを守る為に張り切っているんだ、邪魔はしないでおく。

「さ、行こう」

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