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新たな始まり

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 いくら探しても見当たらない。
 無いものは、無い。

「コイン無くなったんだけど……」
「え? あら、本当ね」

 ルインに答えると、飛び上がったルインが掌をジッと見つめる。
 そして、呑気に呟いた。

「ルインと重なるように消えたんだけど、パンみたいに食べちゃったんじゃないだろうな?」
「何よ、人を食いしん坊みたいに。あたしだってコインなんて食べないわよ!」

 正直疑わしい。
 しかし、パンもポーションも味を感じていた。
 ということはコインを食べてたとしたらきっと分かるだろう。

 じゃあどこに消えたんだ?
 コインなんてドロップアイテム、初めて見たのに……コイン?

「もしかして」
「何? 何か分かったの?」
「まだ確証は無いけど、一応確認してみるところ」

 メニューを開いて、そこからルインのステータス画面を呼び出す。
 俺の予想が正しければ――ビンゴ!

「ルイン、コインだけどやっぱりお前が吸収しちゃったみたいだぞ」
「はぁ? だからあたしは食べてなんかいないわよ」
「そうじゃないって」
「じゃあどういうことよ?」
「これを見たらすぐに分かるさ」

 ルインに報告しようと思ったら、上手く伝わらなかったようだ。
 若干不機嫌な感じが伝わってくる。
 ああもう、これだから日本語は難しい。

 この微妙なニュアンスまで気にして来るなんて、やっぱりNPCのAIは変態レベルで高い。
 口で説明しても誤解が広がりそうだから、ルインのステータス画面をよく見えるように差し出す。
 これを見れば一発で理解出来る筈だ。

「これが何だって――レベルが、上がってる?」
「そうなんだよ」
「でも、どうして? さっきまでずっと1だった筈なのに」

 見た瞬間に理解は出来なかったようだが、突然の変化に食いついた。
 それならそれでオッケーだ。
 思考がそっちに固まって、変な誤解で不快にさせたりしないからな。
 
 それに、後もうひと押ししたら理解出来るところまで来ている。

「相棒のレベル上げの方法、覚えてるか?」
「勿論よ! 相棒と同じ種別のものを、プレイヤーか相棒自身が破壊するか吸収する――そういうことね」

 答えに導く為の質問に、ルインが答える。
 そしてその途中で、思い当たったようだ。

「そういうことだね。さっきのコインはルインと同じ種別だったから、それを吸収して経験値を得たんだ」
「なるほどね。分かったんならバシッと言えばいいのに、あんた回りくどい言い方するわねー」
「そういう性分なんだよ」

 俺の意図はバレバレだったようで、回りくどいと言われてしまった。
 まあ、上手く伝わったんなら問題ない。
 直接的にバシッと伝えるようにするのは、俺には難しい。

 特に、ルイン相手はしんどそうだ。
 ちょっと短気っぽいし。
 
 そんなことより、せっかくレベルが上がったんならステータスとスキルを上げないとだ。
 ルインにとっては待望のパーソナルスキルだしな。

「レベルが一気に5まで上がってるなんて、すごいな。相棒レベルの方も、6になってるぞ」
「ふふん! これで、一気に強くなれるわね!」 
「だな」

 ステータスは一度後回しだ。
 一度振ってしまうと取り消すことが出来ないから、どういう方向に伸ばすかはスキルを見てから決めた方が良い。
 パーソナルスキルのリストこそが、成長の素質を表すわけだからな。

 勿論、素質を無視してもいい。
 それは各プレイヤーの自由だ。
 後から増えるものでもあるからな。

 ただ、ルインの場合はかなりポンコツっぽいから、素直に素質を伸ばす方向で行きたい。
 もしルインが全く別の成長を望めば、その時考える。

「リスト開くから、どんなスキルをとるか決めてくれ。まずは、パーソナルスキルから取ろう」
「分かったわ、それじゃお願い」

 スキルリストを開いてルインに投げる。
 今回も、取得するスキルは全部ルインに任せようと思う。

 これだけ立派な自我があるのに本人の意思を考慮しないのは、俺には無理だ。
 他のゲームみたいなもっとNPCっぽい感じなら、好きにしたんだろうけど。
 だから、ルインの好きにさせることが、俺の望む方針だ。

「ふふふ、どのスキルを取ろうかしらー」
「そんなに悩む程あるのか?」
「あたしの才能を舐めないでよね! 強力なスキルが満載、に違いないわ!」
「ただの妄想じゃないか」
「まだちゃんと確認してないだけで、きっと沢山あるわよ!」
「へいへい」

 むむむむ、と悩みながら、ルインはリストを確認している。
 一体どんなスキルがあるんだろうか。

 そもそもルイン自体謎が多い。
 シュシュの相棒は、大きなバッグだったが別に喋ったり動いたりはしない。

 そういうスキルを取ればそうなるらしいが、その辺りのスキルは趣味スキルと呼ばれ、取っている人はβでも少なかったそうだ。
 βテストの時の情報がチラッと聞けて嬉しかったが、ルインに対する謎は深まった。

 存在が謎である以上、ルインの言うように強力なユニークスキルが埋まっている可能性も否定出来ない。
 MMOであるこのゲームで、個人個人を優遇するような、そんなことがあるとは正直思えないが。

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