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新たな始まり
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しおりを挟む特に襲撃されることも無く、無事に門へとたどり着いた。
良かった良かった。
守るとは言ったものの、今の俺はまだまだ雑魚だ。
かなり消耗もしてるし、ディルバインくらいの強さの奴ともう一度戦ったら勝てる気がしない。
さっきは運が良かった。
ゲームだからなのか、特に検問とかは無いようだ。
開けっ放しの門を潜って街の中へ。
「へぇ、ここがストーレの街か」
「うん! 私も、ここを拠点にしてるんだよ」
「へー」
そこは、ヨーロッパみたいな街並みだった。
石造りの建物が並び、真っ直ぐ伸びた大通りの両側には大量の露店が立ち並ぶ。
人もかなり多い。
一般プレイヤーだけじゃなく、NPCもいっぱいいて活気が凄い。
流石に、露店を出しているのはNPCばかりだ。
この短時間で商売までいけたプレイヤーなんて、いるのか?
もしかしたら、大通りに沿ってあるけば変態的な速度でそこまで到達した奴もいるかもしれない。
「とりあえずここまで来れば安心だな」
「そうね。街中ではPK出来なくなってて助かったわ」
「うん? あー、βの時は街中でもPK出来たんだっけ。よく知ってるな」
「ふふん、あたしを見くびらないでよね」
その割にはβNPCやβテストのことも知らなかったけどな。
口に出すとうるさいから言わないが。
「シュシュ、まずはゆっくり話を聞きたいんだけど、いいか?」
「うん。それじゃあ、付いてきて」
「おう」
辺りを眺めながら、先導するシュシュの後をついて歩く。
シュシュと一緒に行動すると言っても、シュシュにだって都合がある。
PKの危険があるフィールドに出てたってことは、危険な場所に行かないといけない理由があったということだ。
その辺りの話も移動中で聞きたかったんだが、襲撃を警戒してたからそんな余裕は無かった。
ルインに頼んで高めを飛んでもらい、回りながら索敵するとかいう戦法も試してみたが、すぐに目を回して落ちてきたからな。
NPCなのに目を回すって、再現度が凄すぎる。
ルインは門の手前まで俺が持って移動してたのもあって、周辺の警戒はそれなりに手間だった。
いやほんと、無事に辿り着けて良かったぜ。
「ここだよ。入って入って」
ある程度歩いたところで、シュシュが立ち止った。
そして指し示したのは、一軒の宿屋。
木造で、それなりに歴史を感じる外観だ。
「へぇ、宿屋もあるんだな」
「そんなの、あるに決まってるじゃないの。馬鹿?」
「へいへい、そうですね」
何となく呟くと、ルインに馬鹿にされた。
ああ、俺はプレイヤーだから、寝たり休む時にはログアウトすればいい。
だけどβNPCはログアウトしない。
俺達と同じ≪プレイヤー≫という特別で、余所者である訳だから、家を持ってなければ宿屋に泊る必要があるわけだ。
その辺りの思考に、どうしてもギャップが出るな。
とりあえずは軽く流し、階段を上って行くシュシュの後を追う。
もう少し考えてから発言しよう。
シュシュに案内されたのは、宿屋の一室。
中も木張りで、そんなに広くない。
ベッドだけで部屋の三分の一が埋まってしまっている。
女の子の部屋なんて久しぶりに入ったけど、随分と殺風景だ。
しばらくここで生活してる割には、あまり物が無い。
「ここが私の拠点だよ」
「なんというか、こじんまりとしてるな」
「シュシュはちっちゃいんだから、これで充分なのよ。あんたもちっちゃいけどね」
俺の身長は160cmくらいにした。
男としては、小さい方だ。
だけど、シュシュはもっと小さい。
俺の目線の高さが、シュシュのおでこくらいの位置だからな。
多分、150cmも無いくらい。
「でも一番小さいのはルインだろ」
「……それもそうね」
「この部屋が狭いのは、お金に余裕が無かったりするだけなんだけど……あっ、どうぞどうぞ、座って座って!」
世界観的になのか、宿も部屋も土足だった。
でもゲームだし、汚れなんて気にならない。
促されたように床に腰を下ろした。
シュシュも俺の対面に座った。
気にせずベッドに腰掛ければいいのに。
ルインは俺の頭の上に着地したようだ。
ちょっとだけひんやりした。
ともかく、これで話を聞く体制が整ったな。
「シュシュは、どうしてあんなところにいたんだ?」
「えっとね……」
理由としては、こうだった。
シュシュは、商人系の職業だ。
ステータス的にも戦闘能力は低く、商売をすることで日々お金を稼ぐしかない。
しかし、露店を出してもあまり上手く行かず、薬草なんかの素材を採取して売ることで生計を立てていた。
とは言っても余裕は無く、毎日必死で働いてなんとか生活出来る程度の稼ぎしか無かったらしい。
しかし、よく薬草を納品している薬師のおじさんから、新しい依頼があった。
なんでも、近くの農業の村で、今までに無かった新しい素材が見つかった。
その素材で作った薬は、とんでもない効能を持つ。
依頼とは、その噂が真実かどうか確かめて欲しいという内容だった。
段々と少なくなっていく薬草の収穫量に焦っていたシュシュは、この依頼に飛びついた。
その報酬が、今までとは比べものにならないくらい良かったからだ。
更に、その噂が真実だったとして、素材かポーション、もしくはその両方を持ちかえれば追加の報酬も約束された。
こうして、シュシュは村へと向かったところで、一般プレイヤー達に追い回されたそうだ。
俺が倒したあいつは、噂を聞きつけただけだったようだ。
だからなんか探してるようなプレイヤーが多かったのか。
見つからなくて良かったよマジで。
っていうか、理由が思ったより切実でビビる。
NPCだよね? 実はここが異世界で、生きた人間でしたなんてなってもおかしくないくらい、人間らしい。
CPOの世界では、NPCはちゃんとご飯を食べないと生きていけないくらい、正しく≪生きてる≫んだな。
「よし、分かった。それじゃあ――」
「その村に行きましょう!」
「おう、俺達が――」
「連れて行ってあげるわ!」
「一々被せてくるなよ!」
「あら、同じ言葉なら私が言ったっていいじゃない」
「お前なぁ……」
「ぷ、ふふ、あはは! 二人とも、仲良しだね!」
俺達のしょうもないやり取りを見ていたシュシュが笑い出した。
さっきまで悲壮感が溢れ出してたから、突然すぎてびっくりした。
「まあ、相棒だからな」
「そうね、だからしっかり役に立ってちょうだい」
「へいへい。ってことで、その村に向かおう」
「うん、ありがとう!」
改めて言い直すと、シュシュが満面の笑みを浮かべた。
純粋無垢、って感じだな。
っていうか何歳くらいをイメージしてキャラクリエイトしたんだろう。
高校一年生、くらいか?
ふわっとした栗毛に、肩まで行かないセミロング。
顔はもちろん整っている。
シュシュの中身だった人は、中々の趣味をしてらっしゃるぜ。
っと、一つ確認しておかないといけなかった。
「依頼の期限とかはあるのか?」
「えっと、明後日の18時までに報告して欲しいって」
明後日ってことは、現実で言うと日曜日か。
今日と明日の午前中は準備期間に充てられそうだ。
このままで行くと、即詰みそうだからな。
状況の許す限りの備えをしておきたい。
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