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新たな始まり

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 再びゲームにログインすると、相変わらずの不思議空間だった。
 目の前に光が集まって、弾けた。
 そこから一枚のコインが落ちてくる。

「おっと」
「うん? ああ、戻って来たのね。おかえり」
「ただいま」

 どうやら俺がログアウトしている間は、ルインも同じように隔離されているようだ。
 ぼーっとしてたら落としそうで怖いな。

「あー、ドキドキしてきた。早く十二時にならないかな」
「そんなに楽しみなの?」
「そりゃそうだって。何せ、十年近く待ったんだからな!」
「ふーん……ま、私の為に頑張りなさい」

 ルインはどこか冷めたような態度だ。
 ほんと、NPCにしては感情が豊かな奴だ。
 正直、人と話しているのと何の違いも感じない。

 クオリティ高すぎるだろ。
 中に人が入ってるって言われた方が、まだ納得できる。
 そのくらい、会話が自然だ。

 ルインと駄弁っていると、イノウエがやって来た。
 美人だけど、無表情すぎて怖い。
 ファンタジー風受付嬢っぽい衣装は色気があって良いんだけどな。
 中身をルインにしたら好みに近づきそうだ。

『ゼノガルド様、間もなくサービス開始の時刻となります。準備はよろしいですか?』
「ん? あ、おう」

 いつの間にかそんな時間になったらしい。
 なんかすごい見られてる気がするが、きっと気のせいだろう。

『それではゲーム開始と同時に、四つの国に所属する街や村の中から、ランダムで選択して周囲のマップに転送致します』
「分かった」

 頷いたところで、鐘の音が響いた。
 多分、十二時を知らせる合図だ。

『それでは、時刻になりましたので転送を開始します』
「頼む」
「さあ、行くわよゼノ! 世界は私達のものよ!」
「急にやる気出してきたな……。ま、そのくらいのつもりでやった方が楽しいか」
『ようこそ、CPOカスタムパートナーオンラインの世界へ』

 イノウエの言葉と共に、空間が眩く輝き始める。
 まぶしっ。

『グッドラック!』

 視界が掻き消えていく一瞬、イノウエの口元が歪んだように見えた、気がした。





 
 眩しさに閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。

 そこは、広大な草原だった。
 柔らかな風に、鼻をくすぐる土と緑の香り。
 足元からは、柔らかい土と草のわしゃわしゃした感触が伝わってくる。

 遠くを見れば、何か白いものや、ピンク色のものが跳ねている。
 多分あれはモンスターだな。
 
 俺と同じような格好をしたプレイヤーも、ちらほらと姿を現している。

「すごい……」

 これがCPO。
 伝説の、VRゲーム。

 俺は、待ち望んでいた場所にやって来たんだ。
 そう思うと、感動で胸が一杯だ。
 とりあえず深呼吸しておこう。
 VRの空気を目一杯吸収するんだ。

「すー、はー、すー、はー」
「あんた、何やってんの?」
「CPOの空気を取り入れてるんだよ」
「は? わけわかんない」

 俺の掌に乗せられたルインが呆れたように呟く。
 いいんだ、分からなくて。
 俺にもよく分かってないからな。
 感動し過ぎてテンションがおかしくなってるのは、なんとなく分かる。

 ともあれ、いつまでもこうしてる訳にもいかない。
 目の前の仮想ウインドウを見る。
 
『チュートリアルを開始しますか?』
『はい』『いいえ』

 どうせなら、さっきの謎空間で済ませてしまえば良かったのに。
 とは思うものの、何か都合があるんだろう。

 さくっと済ませて、冒険を始めてしまおう。

「よし、ルイン、チュートリアルだ!」
「とばしたりしないの?」
「ばっかお前、確かにスタートダッシュは大事だけど、チュートリアルはもっと大事なんだぞ」
「そうなの?」

 ルインは、不思議そうに聞いてきた。
 ゲームのシステムを多少は知ってたように思ったが、やっぱりそんなに詳しくないようだ。

「チュートリアルっていうのは、それを聞くだけで初心者がゲームを楽しくプレイ出来るようになってる、すごいものなんだぞ」
「ふうん?」
「ま、俺も飛ばすことはあるけどな。けどネトゲだとチュートリアルをこなすとボーナスがもらえたり、チュートリアルでしか見られないイベントとかもあったりするからな。ゲームを楽しむなら、しっかり受けておいた方が良い」
「楽しむ、か。なるほどね」

 熱弁の甲斐あってか、ルインは納得したように呟いた。
 俺だってチュートリアルなんて放り投げて、今すぐにでも駆け出したい気分だ。
 だけど、このゲームを隅から隅まで楽しむ為には、それは出来ない。
 
 別に、スタートダッシュをかましてトッププレイヤー争いをするつもりもないしな。
 のんびり楽しめたら、それでいい。

「それじゃあ早速、チュートリアるか」
「そんな言葉聞いたことないわ……」
「今作ったんだよ」

 はいの方を指で押す。
 微かな感触が返って来て、またしても視界が切り替わっていく。

 ああ、この場でやるんじゃなくてどこか別マップに転送される系か。
 どんなチュートリアルなのか、楽しみだ。
 ゲームが好きなだけで基本苦手な俺でも分かりやすいのを期待するぞ。

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