300 / 338
新たな始まり
3
しおりを挟む再びゲームにログインすると、相変わらずの不思議空間だった。
目の前に光が集まって、弾けた。
そこから一枚のコインが落ちてくる。
「おっと」
「うん? ああ、戻って来たのね。おかえり」
「ただいま」
どうやら俺がログアウトしている間は、ルインも同じように隔離されているようだ。
ぼーっとしてたら落としそうで怖いな。
「あー、ドキドキしてきた。早く十二時にならないかな」
「そんなに楽しみなの?」
「そりゃそうだって。何せ、十年近く待ったんだからな!」
「ふーん……ま、私の為に頑張りなさい」
ルインはどこか冷めたような態度だ。
ほんと、NPCにしては感情が豊かな奴だ。
正直、人と話しているのと何の違いも感じない。
クオリティ高すぎるだろ。
中に人が入ってるって言われた方が、まだ納得できる。
そのくらい、会話が自然だ。
ルインと駄弁っていると、イノウエがやって来た。
美人だけど、無表情すぎて怖い。
ファンタジー風受付嬢っぽい衣装は色気があって良いんだけどな。
中身をルインにしたら好みに近づきそうだ。
『ゼノガルド様、間もなくサービス開始の時刻となります。準備はよろしいですか?』
「ん? あ、おう」
いつの間にかそんな時間になったらしい。
なんかすごい見られてる気がするが、きっと気のせいだろう。
『それではゲーム開始と同時に、四つの国に所属する街や村の中から、ランダムで選択して周囲のマップに転送致します』
「分かった」
頷いたところで、鐘の音が響いた。
多分、十二時を知らせる合図だ。
『それでは、時刻になりましたので転送を開始します』
「頼む」
「さあ、行くわよゼノ! 世界は私達のものよ!」
「急にやる気出してきたな……。ま、そのくらいのつもりでやった方が楽しいか」
『ようこそ、CPOの世界へ』
イノウエの言葉と共に、空間が眩く輝き始める。
まぶしっ。
『グッドラック!』
視界が掻き消えていく一瞬、イノウエの口元が歪んだように見えた、気がした。
眩しさに閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。
そこは、広大な草原だった。
柔らかな風に、鼻をくすぐる土と緑の香り。
足元からは、柔らかい土と草のわしゃわしゃした感触が伝わってくる。
遠くを見れば、何か白いものや、ピンク色のものが跳ねている。
多分あれはモンスターだな。
俺と同じような格好をしたプレイヤーも、ちらほらと姿を現している。
「すごい……」
これがCPO。
伝説の、VRゲーム。
俺は、待ち望んでいた場所にやって来たんだ。
そう思うと、感動で胸が一杯だ。
とりあえず深呼吸しておこう。
VRの空気を目一杯吸収するんだ。
「すー、はー、すー、はー」
「あんた、何やってんの?」
「CPOの空気を取り入れてるんだよ」
「は? わけわかんない」
俺の掌に乗せられたルインが呆れたように呟く。
いいんだ、分からなくて。
俺にもよく分かってないからな。
感動し過ぎてテンションがおかしくなってるのは、なんとなく分かる。
ともあれ、いつまでもこうしてる訳にもいかない。
目の前の仮想ウインドウを見る。
『チュートリアルを開始しますか?』
『はい』『いいえ』
どうせなら、さっきの謎空間で済ませてしまえば良かったのに。
とは思うものの、何か都合があるんだろう。
さくっと済ませて、冒険を始めてしまおう。
「よし、ルイン、チュートリアルだ!」
「とばしたりしないの?」
「ばっかお前、確かにスタートダッシュは大事だけど、チュートリアルはもっと大事なんだぞ」
「そうなの?」
ルインは、不思議そうに聞いてきた。
ゲームのシステムを多少は知ってたように思ったが、やっぱりそんなに詳しくないようだ。
「チュートリアルっていうのは、それを聞くだけで初心者がゲームを楽しくプレイ出来るようになってる、すごいものなんだぞ」
「ふうん?」
「ま、俺も飛ばすことはあるけどな。けどネトゲだとチュートリアルをこなすとボーナスがもらえたり、チュートリアルでしか見られないイベントとかもあったりするからな。ゲームを楽しむなら、しっかり受けておいた方が良い」
「楽しむ、か。なるほどね」
熱弁の甲斐あってか、ルインは納得したように呟いた。
俺だってチュートリアルなんて放り投げて、今すぐにでも駆け出したい気分だ。
だけど、このゲームを隅から隅まで楽しむ為には、それは出来ない。
別に、スタートダッシュをかましてトッププレイヤー争いをするつもりもないしな。
のんびり楽しめたら、それでいい。
「それじゃあ早速、チュートリアるか」
「そんな言葉聞いたことないわ……」
「今作ったんだよ」
はいの方を指で押す。
微かな感触が返って来て、またしても視界が切り替わっていく。
ああ、この場でやるんじゃなくてどこか別マップに転送される系か。
どんなチュートリアルなのか、楽しみだ。
ゲームが好きなだけで基本苦手な俺でも分かりやすいのを期待するぞ。
0
お気に入りに追加
1,191
あなたにおすすめの小説
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった…
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる