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267 双竜法とタマ無双
しおりを挟む周りのプレイヤー達が一斉に武器を抜いたことで、混乱が広がる。
関係なさそうな人達は一目散に逃げ始めた。
しかし、モグラが連れていた集団の中にも武器を抜いていないのが数人いる。
突然の出来事に困惑しているようだ。
「やれ!」
「ちょっ、どういうこと!?」
それでも、シクラメンの指示でモグラと俺達に襲い掛かって来たプレヤーの数は、パッと見で五十を越えている。
これが全員敵!?
どういうことだ?
今はそんなこと考えてる場合じゃない。
タケダとモグラは無事に済ませたい。
余裕があれば、武器を抜いた集団の中にいた、困惑してる人達も。
あくまでも余裕があれば。
あれもこれもと欲張って、大事なものを取りこぼすのは嫌だからな。
「タマ! モグラを守れ! あと最初に武器を抜いた連中の武器と相棒を破壊!」
「あいあい!」
ニヤニヤしたままのシクラメンは後ろへ下がっていく。
安全な場所で、俺達が嬲られるのを見ようってつもりだろう。
放っておいて、タマに指示を飛ばす。
元気よく答えて、二人に分かれた。
さらに四人に、八人に、あれ、どこまで分かれるんだ?
瞬く間にタマの人数がとんでもないことになった。
数えるの諦めたけど、明らかに相手より多い。
「かかれー!」
「「「「うおー!」」」」
「なっ」
「一体どうなって」
「こんなガキ相手になにビビッてや」
「ぶるにしぁ!?」
「たす」
「なんだこれ!?」
俺も聞きたい。
大量に増殖したタマ達は、襲撃者と悲鳴を呑み込んでいく。
全員死んではいないが、武器と心がへし折られている。
増えたタマ達は、いつの間にか俺とタケダの方にも溢れてきた。
そのまま、野次馬から沸いてきた襲撃者を瞬殺した。
お陰で俺は何もしていない。
タケダを盾に守らせて俺も迎撃しようと思ったのに、呆然としてしまった。
立ってたら終わってたよ。
「ナガマサさん、タマちゃんありえないことになってない?」
「なってますね」
のんびり歩いてきたモグラも呆れ顔だ。
気持ちは分かる。
こんな状態で緊張感を保てという方が無理だ。
絶対俺も同じような顔してるって。
「大勝利ー!!」
「「「「わー!」」」」
タマの宣言と、タマ達の喜びの声が響き渡る。
蹂躙が終わったようだ。
辺りにはHPが1になったプレイヤー達が転がっている。
気絶してるのもいるし、していないのもいる。
共通してるのは皆、逃げる気力すらないということだ。
「捕まえてきたよー!」
「くそっ、何をしやがる、離せ!」
「はい!」
「ぐっ」
タマの一人が、縄でぐるぐる巻きにされたシクラメンを俺達の前に放り出した。
逃げようとしてたのを捕獲したらしい。
よしよし、よくやったな。
タマの頭を撫でて褒めておく。
「シクラメンさん、一体どうしてこんなことをしたのかな?」
「へっ、誰がそんなこと言うか。大体、なんだよさっきのは! 俺達を一瞬で、あんなのおかしいだろうがよ!」
「あれはまぁ、理不尽だよねぇ」
モグラがチラッとこっちを見てくる。
そうなんだけどさ。
でも襲い掛かってくる方が悪いと思うんだ。
「モグラさん、この人達ってなんなんですか?」
「PKに対抗する為に集まったチームのメンバーだよ。とは言っても今ここにいるのは昔からじゃなくて、ここ最近加入した人達がほとんどかな」
「それじゃあ、PKだったってことですかね」
「多分そうだろうね」
この世界はゲームの世界だ。
ただ、俺達は死んだらそこで終わりだ。
そんな世界で武器を持って襲ってくるなんて、PK以外では考えられない。
力試しがしたいだけなら、決闘システムだってあるんだしな。
「ああ、そうだ。オレ達はPKだ。お前らが油断するこの瞬間を狙ってたってのに、畜生が……!!」
シクラメンは悔しそうに歯を食いしばっている。
元々PK達で対PKチームに入り込んで、反撃の隙を窺っていたらしい。
そしてPK達の期限付きの活性化。
終わるタイミングがはっきりと分かっているこれを、チャンスだと思ったそうだ。
リリースと、そしてアップデートがされる瞬間。
その時が過ぎればPKは一目で判別がつくようになる。
まさかその時に周囲にPKがいるとは思わない。
それこそが隙になると、そう確信したんだとか。
襲撃のタイミングに関しては、近くに期待の鍛冶師マッスル☆タケダもいるし、ついでの金稼ぎにも丁度良いのと、モグラが俺達と少し話をしたせいで予定の場所よりもずれてしまったそうだ。
丁度ここにいて良かった。
タマのお陰でギャグみたいな感じで終わったが、もしモグラとタケダだけで襲撃を受けていたらと思うと、ゾッとする。
手助けが出来て良かった。
「それにしてもナガマサさんのこと知らなかったの? 彼結構有名だよ。いつだったかストーレ南で、それなりのプレイヤーを一方的にボコってたのに」
「勿論知ってたさ。攻撃力も防御も異常に高ぇってのはな! だからさっき手に入れたすげー武器があれば勝てると思ったんだよクソが! あんな相棒がいるなんて聞いてねぇ!」
「ふーん、バカだねー」
「この野郎!」
モグラがシクラメン相手にからかって遊んでいる。
よくやるなぁ。
モグラも中々だけど、あの状況であの態度がとれるシクラメンも割とすごいと思う。
「縛られて転がってる人に凄まれても怖くないよ。というか、立場分かってる?」
「何を――」
シクラメンが何か言おうとしたが、目の前に剣が突き立てられて黙り込んだ。
モグラが握り締めた剣だ。
いつになく真面目な顔をしている。
「別に今この場でHPを0にしたっていいってこと。相手がPKならこっちに影響ないし」
「う……」
「既に謝って済む状況じゃないし、どうしようかな。ナガマサさんはどうがいいと思う?」
「え、お任せします」
「了解」
とはいえ、モグラはこの場でシクラメン達を処分するつもりはないようだった。
兵士達が駆け寄って来てるのも見えるし、任せるつもりだろう。
「大変なことに巻き込まれちまったな」
「そうですね」
「楽しかったー!」
「そうかそうか、良かったな」
タケダと話していると、いつの間にか一人に戻ったタマが飛び掛かって来た。
受け止めて立たせる。
いい笑顔だ。
モグラもシクラメンを弄るのに飽きたのか、こっちへ来た。
申し訳なさそうな顔をしている。
「巻き込んじゃってごめんね。この埋め合わせは後でちゃんとするからさ」
「気にしないでください。お役に立てて良かったです」
「すごい助かったよ。あの数だと正直自信ないからね。あーあ、急いで会場に行けばまだ乾杯に間に合うかな」
うん?
時計を見る。
12時まで後数分だ。俺達も帰らないと。
「タケダさん、モグラさん、すみません。俺達はもう行きますね」
「ああ、12時から家に引きこもるって言ってたね。それじゃあまた後で」
「またな」
「まったねー!」
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