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266 新規作成と襲撃
しおりを挟む相変わらず混雑している鉱山を抜けて、地上へと戻った。
また来ることを考えて、マーキングをしておいた。
こうしておけば、≪テレポート≫でいつでも来ることが出来る。
ストーレや他のダンジョンの入り口の前にもやっておかないといけない。
つい忘れちゃうんだよな。
それが終われば、優雅な空中散歩でストーレの街まであっという間だ。
そう、俺達はストーレへ戻ってきた。
時間は朝10時半。
まだ時間があるから、マッスル☆タケダに装備の作成を依頼しておきたかった。
タケダには≪忘却の実験場≫を出る前にメッセージを送ってある。
忙しいだろうに、快く引き受けてくれた。
「おはようございます」
「おはまっする!!」
「おお、二人とも、おはマッスル! よく来たな」
いつもの露店を出している場所に行くと、見事な筋肉で出迎えてくれた。
ついに俺とタマへの挨拶を纏められてしまった。
俺は普通の挨拶しかしてないのに何故だろうか。
「で、今日はどうした?」
「はい、実は以前作ってもらったこの盾と同じようなものを造って欲しくてですね」
「うん? 壊れたようには見えねぇが……」
「あ、すみません、ミルキーの分です」
「ああ、なるほどな」
少し勘違いさせてしまったようだ。
慌てて訂正すると、タケダはニヤリと笑った。
悪い顔してやがる。
「どうだ、そっちはうまくやってんのか?」
「ええ、まあ」
「かーっ、羨ましいもんだぜ。よし、そういうことなら任せといてくれ。前よりも上等なやつを作ってやるからよ」
「ありがとうございます」
「前作った盾は持って来てるか? それと、強化に使う素材も見せてくれ」
そういえばこの盾ゴーレムは、小盾に素材を足して改造したものだった。
ミルキーも同じ小盾を持ってるんだから、そこから派生させると考えるのが普通だ。
すっかりそのことを忘れていた。
素材もお金もあるし、新しく作ってもらおう。
「あ、盾はないので、そこから新しく作ってもらう形でお願いしたいんですが大丈夫ですか?」
「問題ないぞ、任せといてくれ」
「ありがとうございます。素材は今出しますね」
盾の素材か。
まずは畑で採れたピンポン玉の素材だな。
結晶殻に、吸盤。どちらも固いし魔法に耐性のある素材だ。
殻は時々剥がれ落ちているのが拾えるし、吸盤は生えているイカの足を収穫すれば手に入る。
これでベースになる小盾の素材は揃った。
ここまでは俺の盾と同じ。
ここからは違う素材を使う。
俺の持っている盾は魔王の素材を使っているが、それはもう無い。
装備の強化で全部使ってしまった。
けど、全く問題はない。
素材は豊富にあるからな。
まずは≪雑晶≫。
畑に生えてくる謎の結晶体で、ただ硬いだけの何かだ。
ただ、モグラに何か使い道がないか聞いてみたところ、面白い事を教えてくれた。
この雑晶というものは、宝石から魔法的な部分を抜いて凝縮したものらしい。
つまり、物理部分の集合体ということだ。
硬い宝石が更に圧縮されたらどうなるか。
滅茶苦茶硬くなる。
盾にぴったりだ。
次に、さっき拾った≪歴史装甲板≫。
不思議な金属っぽい材質で出来ている板だ。
いっそ取っ手だけつければ盾になるんじゃないかと思う。
最後に、≪神滅黒竜の皮≫。
これは昨日戦ったルインのドロップアイテムだ。
コインがルインから分離した時に、一緒に零れ落ちた。
本来は、コインの持ち主である≪神滅魔竜ゴルヴィーク≫のドロップアイテムなんだろう。
つまり、おろし金が倒したあの魔王モドキと同格。
もしくはそれ以上にレアな素材かもしれない。
これで、俺のにも負けないくらい良い盾になる筈だ。
勿論、核となる≪ゴーレム結晶≫も渡しておく。
一番の目玉はそこだからな。
大きな盾を自在に操るミルキー。
きっとかっこいいに違いない。
「これで全部ですね」
「よし、確かに預かった。また明日取りに来てくれ。代金はいつも通り、その時でいいぜ」
「分かりました。よろしくお願いします」
これで依頼は完了だ。
大人しく待ってくれていたタマを撫でつつ、ついでに余っている素材もいくつか売っておく。
特にピンポン玉の素材が結構溜まって来た。
一回の収穫でかなりの数が採れる上に、生えてくるのも早い。
定期的に売らないと保管場所に困ってしまいそうだ。
素材の売却も終わって、雑談に移行する。
タケダの最近のマイブームは、依頼する権利を腹筋オークションで決めることらしい。
腹筋オークションというのは、タケダに依頼したい人達が一斉に腹筋を初めて、最後まで残った人が権利を獲得することだそうだ。
普通は無いが、イベントを設定することで筋肉の疲労が発生するらしい。
そんなことが出来るのか。
結局、StrとVitに振ってる人が強いらしい。
ゲームだし、そうなるだろうな。
そんなことを話していると、俺達の近くをプレイヤーの集団が通った。
その中の一人が足を止めてこっちに近づいて来る。
それに合わせてか集団も立ち止った。
何かと思ったら、近寄って来たのはモグラだった。
「あれ、ナガマサさんじゃん。こんちゃー」
「モグラだー!」
「あ、モグラさん。おはようございます?」
「おはようってナガマサさん、もうすぐ12時だよ」
「えっ?」
「おお、もうそんな時間になっちまってたか」
ウインドウを開いて時間を確認する。
時間は11時48分。
確かに、もうこんにちはの時間だ。
いつの間に!?
「タケダさんと話してると、いつの間にか時間経ってたりするよねー。あるある」
「俺もつい楽しくて話し込んじまうんだよな。悪い悪い」
「あ、いえ、気にしないでください。楽しかったです」
苦笑いを浮かべるタケダに、とりあえずフォローを入れておく。
そんなに時間が経ってると思わなかったけど、それは言ったとおり楽しかったからだ。
悪い事じゃない。
「モグラさんは、これから狩りでも行くんですか?」
「オレ? オレはこれからPK狩り仲間達と宴会だよ。一週間お疲れ様、ってね」
「あー、大変だったみたいだな。俺もPKだって連中をよく見かけたよ」
「ほん……っとに大変だったよ。アプデの前に暴れようとかマジ糞みたいなこと考えてさぁ……でももう終わりだと思うと清々するよ」
モグラは疲れ果てた顔をしたと思ったら、晴れやかな顔になった。
リリースに伴っての仕様変更で、PKは今までよりもやりづらくなる。
そのせいで、PKの活動が活発化した。
モグラ達はそんなPKに対抗する為に、ここ一週間頑張っていた。
それが葵を預かっていた理由でもある。
一緒にいるあの集団も、同じようにPKを狩っていたんだろう。
目線を向けると丁度、立ち止まっているプレイヤーの中から、更に一人近づいて来た。
動きやすそうな鎧を身に着けた男だ。
短髪で、頭の半分が刈り上げてある。
アイコンを見てみると、≪シクラメン≫という名前が表示された。
「モグラさん、そろそろ行きましょう」
「ごめんごめん、そうだね、もう行くから。……邪魔してごめんね、オレ達も予約してる酒場に向かうとするよ。また後でね」
「おう、また後でな」
「はい、お待ちしてます」
「まったねー!」
シクラメンに急かされて、モグラがそそくさとプレイヤーの集団へ向かった。
その後にシクラメンが続く。
なんとなく眺めていると、シクラメンは剣を抜いた。
うん?
何かあるんだろうか。
ごく自然な動作だ。
PKを見つけたとか、そういう警戒した感じはない。
ただ剣を持って歩いている。
歩く速度が速くなり、モグラに追いつきそうだ。
腕を振る動きのままに剣の切っ先がモグラの背中へと――。
「タマ!」
「あいあいさー!」
瞬間移動したタマが剣を粉砕した。
そのままモグラとシクラメンの間で奇妙なファイティングポーズを取っている。
びっくりした。
びっくりし過ぎて動けなかった。
咄嗟に叫べたのが奇跡に感じる。
「しゃー!」
「え?」
「あーあ、何してくれるんですか?」
タマの威嚇の声に気付いたのか、モグラが振り返った。
シクラメンは悪びれることもなく、俺の方に振り返って軽い調子で問いかけてきた。
むかつくような、ニヤニヤした笑みだ。
「お前こそ、今何しようとした?」
「そんなこと、気にしてる余裕がありますか?」
モグラの連れていた集団や、いつのまにか周りにいた連中のほとんどが、一斉に武器を抜いた。
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