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259 ルインと引き取り手

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 凄く変な顔をされてしまった。
 昭二だけじゃなく、ミルキーにもだ。
 少し言葉が足りなかった。

 改めて説明する。
 俺達は怯えられてしまってることは特に念入りに。
 責任持ってお前が預かりなさいよ、なんて思われかねないからな。

 いくらなんでも、あの状態のルインをウチに置いておくのは可哀そうだと思う。
 タマが縛り上げてるのを放っておいた俺が言う台詞ではないかもしれないが。

「なんじゃ、そういうことかいな。わしゃてっきり闇の商売に手を出したんかと思ったわ」
「勘違いさせてしまってすみません」
「勘違いで安心じゃよ。そんなことをするとは思っとらんが、万が一という事もあるじゃろ?」
「あはははは」
「しかし女の子を縛ったりしちゃいかんぞ。そんなもん、怯えられて当然じゃ」
「ほんとですよ」
「耳が痛いです」

 事情を聴いた昭二は笑った。
 そして怒られた。
 うん、当たり前のことだな。

 敵として現れてたせいで、その辺りがちょっと麻痺してしまっていた。
 突然一般市民みたいになられると混乱してしまうな。

「預かるのは、儂は良いんじゃが……やっぱり本人の気持ちを尊重すべきじゃな。一先ず会わせてくれんか?」
「はい。どうぞ、上がってください」

 その点、タマは扱いが一貫してた。
 モンスター枠だったのが問題だっただけで。

 昭二を連れてリビングへ戻ってきた。
 昭二なら温和だし、人の良さそうな顔もしてるし、俺も安心して預ける事ができる。
 ルインも怯えないんじゃないだろうか。

「ほー、あの子かね」
「はい」

 ルインは相変わらずミゼルにしがみ付いていた。
 歳はそんなに変わらない筈なのに、ミゼルがお母さんに見える。

 タマはいじめっ子かな?
 苛めてるつもりはないんだろうけど、ルインにとってはタマの存在そのものが恐怖だと思う。
 葵は何故かタマと一緒にミゼルの周りをぐるぐる回っていた。

「どらどら……。ルインちゃんや、じじいとお話せんか?」
「じいじ……?」
「おお、そうじゃな、じいじじゃ」

 おお、ルインが反応を示した。
 話をしやすいようにタマと葵に手招きをして、こっちへ来るように促す。
 素直な二人は大人しく従ってこっちへ来てくれた。
 
 二人はそれからしばらく話し込んだ。
 ルインはぽつぽつと喋り、昭二がそれを根気よく待つ感じだ。
 それでも話は纏まったようだ。

 しゃがんで目線を合わせていた昭二が立ちあがった。
 それに合わせてか、ミゼルにしがみ付いていたルインも立ち上がった。
 まだ怯えているようだ。
 今度は昭二の右腕にしがみついて、昭二の背中に隠れようとしている。
 もうこんなに信用されてるのか。すごい。
 
「ルインちゃんは素直な良い子じゃな。ウチで預かることになったぞ」
「そうですか、良かったです。それで、お礼なんですけど」
「いらんいらん。それじゃ、今日のところはお暇するかのう。またその内様子を見せに来るけんな」
「そうですか……。ありがとうございました」

 最初の説明で、預かってくれるならかかる費用や、必要なものは用意すると話していた。
 勿論、引き受けてくれたことに対するお礼も別に用意するつもりだった。

 しかし、昭二にいらないと断固拒否されてしまった。
 今ももう一度話そうと思ったが、やっぱりダメだった。
 何か別の形で恩返しをしないといけないな。

「ばいばーい!」
「またね……!」
「ば、ばいばい」

 タマと葵の挨拶に、ルインが怯えつつも返してくれた。
 そのまま昭二と一緒に、家を去って行った。

 戸惑っているのを昭二に促されたとはいえ、それでも嬉しいようだ。
 二人はきゃいきゃい喜んでいる。

 ……タマには、ルインを人間の女の子として扱うようにきちんと話をしておこう。
 俺の認識を改めるいい機会にもなる筈だ。

「行ってしまわれましたね」
「なんだか寂しそうだね」
「ええ、なんだか不思議な感覚でしたわ。守ってあげたくなるというか、温かくなるというか」 
「タマも守ってー!」
「あらあら、タマちゃんは甘えん坊ですわね」
「葵も……!」
「ふふふ」

 なんかすごい幸せな光景が広がっている。
 そうか、これが幸せか……!

 全員同じくらいの歳なのに、タマと葵が一層子供に見えるのは気にしないでおこう。

「お疲れ様でした。ルインちゃんの引き取り手があっさり見つかって良かったですね」
「ほんとにね。他にアテも無かったし、助かったよ。昭二さんには何かお礼を考えとかないと」
「そうですね。今日もお肉のお裾分けをいただきましたし」
「ああ、それもあった」

 昭二へのお礼か。
 何がいいだろうか。
 無難に武器か?
 防具もいいな。
 装備品の中でいくつか作ってみて、良さそうなのをプレゼントにするか。

「いよいよ明日はリリースされるんですね」
「そうだね」
「一万人も普通のプレイヤーが増えたら、どうなるんでしょう?」
「どうなるんだろう。想像もつかないよ。不安?」

 ミルキーは静かに首を振った。
 さっきまでの不安そうな表情は、すっかり消えていた。

「そんなことありませんよ。だって私達には、ナガマサさんがいますから」
「ありがとう。期待に応えられるように頑張るよ」

 ミルキーの瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
 大丈夫、俺達なら何があっても撥ね退けられる。
 大事なものを、家族を、何があっても守ってみせる。

 俺はこの世界で、今度こそ幸せな人生を送るんだ。

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