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256 解呪と真打
しおりを挟む回復しないなんてそんなことあるのか?
状況的に毒かと思ったけど、もしかして違う?
じゃあなんだ?
分からないが、今は考えてる場合じゃない。
出汁巻もいるしと楽観視していた。
何かは分からなくても、治すことは出来る筈だ。
「出汁巻さん、これをパシオンに」
「どうもっす!」
慌てて出汁巻の隣、パシオンの前に瞬間移動。
俺が差し出した≪エメラルドポーション≫を出汁巻が受け取った。
飲ませる時間も惜しいのか、だばだばとかけた。
「……お?」
それでもしっかり効果はあるようだ。
苦しんでいたのが嘘のように立ち上がった。
身体を動かして確かめているようだ。
「パシオン様!? 平気なのですか?」
「死ぬ程苦しかったが、もう問題ないようだな」
「流石はパシオン様のご友人、見事な働きですわ!」
「うむ、ナガマサは出来る男だからな」
「出来るモジャだからね!」
「貴女も、あの方達を引き剥がしたのはスカッとしましたわよ」
「へへん!」
流石テンションジェットコースター男、切り替えと立ち直りが早い。
ミリル王女もメンタルが強そうだ。
俺を褒めて、更にタマも褒めている。
この状況でよくそこまで気がまわるな。
他の皆はまだ状況に頭が追いつけないのか、呆然としている。
いや、一人だけ明らかに動揺してるのがいる。
あれは、ルーネシア、だっけ?
パシオンも気付いたようだ。
「ルーネシア嬢、一体どうした?」
「馬鹿な、あれは最上級の呪いが込められている筈だ。それがポーション如きで治る筈が……」
やけにスッキリした顔でパシオンが声を掛けた。
どう見てもさっきまで苦しんでいた男の顔ではない。
確かにちょっと怖いな。
平然とし過ぎだ。
婚約者候補で動じていないのはミリル王女だけだ。
出汁巻や騎士は、まぁ慣れてるんだろう。
もしくは、それどころじゃないか。
警戒態勢でパシオンの周囲を固めている。
「ふむ、どうやら今のは呪いだったようだな」
「しまった……! だが、目的は果たした!」
ルーネシアの姿が変わる。
痩せた悪魔のような、邪悪な姿だ。
なんか見覚えがある。
多分、あの時の魔王モドキがコインを取り込む前とほぼ同じだ。
デザインの使い回しなのか、≪魔の者≫の下っ端は同じ姿なのか。
「パシオン様!」
「パシオン様、どうかワタクシの後ろへ!」
「心配いらん」
ルーネシアの手にはコインのネックレスが握られていた。
パシオンが苦しんでいる時に縋り付いていたな。
その時に奪っていたようだ。
騎士や、何故かミリルがパシオンを守るように前に出る。
ルインは怯えたようにしている。
うん、あれが普通の反応だと思うんだけど。
「タマキーック!」
「ぐぎっ――!?」
背後には既にタマが居た。
タマの跳び蹴りで、元ルーネシアは爆散した。
えぐい。
モンスターの姿になっててまだ良かった。
御付の人と護衛もモンスターの姿になっていたが、そっちは出汁巻と騎士達で倒したようだ。
ドロップアイテムだけが残っている。
コインも取り込んでいない状態じゃそんなに強くないようだ。
前の奴みたいに、闇の壁みたいなのを出さなければ問題ない。
あれはシステム的にどうしようもないみたいだからな。
使われなくて良かった。
「タマ、よくやったな」
「えっへへー!」
「ナガマサ、助かったぞ。危うくミゼルのいない世界に旅立つところだった」
「グリーンポーションが効かなかった時はマジで焦ったっす。ナガマサさん、ありがとっした」
「治って良かったです」
あいつは呪いって言ってたな。
グリーンポーションは状態異常を治すポーションだ。
しかし、厳密には沈黙、毒、麻痺、石化にしか効果が無い。
だから呪いは治らなかったんだな。
対して、俺が作った≪エメラルドポーション≫は全ての状態異常を治す、と説明に書いてある。
だから呪いにも効いたんだな。
作ってて良かった。
「さっきの薬はまだあるか? 非常時に備えていくつか融通して欲しいのだが」
「分かりました。材料が揃い次第お渡しします。」
「頼んだぞ」
持ってた一個は説明を読む為に作ったもので、持っていたのは偶然だ。
材料も今は手持ちが無いし、収穫出来たら譲ろう。
「それにしても、突然倒れて驚きました。ミリル王女の回復魔法やポーションも効かないなんて、婚約することへの拒絶反応でも出たのかと思いました」
「そんなもの、ミゼルの為ならばと気と愛で抑え込んだわ」
「出たんですか」
「ああ、ミリル王女にも礼を言わねばならんな。治療を施してくれたのだろう?」
「そんな、ワタクシは何もお役に立てませんでしたわ。パシオン様の素晴らしいご友人のお陰ですわ!」
パシオンがミリルに話しを振った。
俺はこの隙にこっそり離れる。
元ルーネシアのドロップアイテムを回収しておく。
≪闇の欠片≫か。
何かに使えるといいな。
そういえば、コインはどこにいったんだろうか。
ここに落ちていないということは、爆散した時に一緒に飛び散ったんだと思うけど。
「パシオン様、コインはどこに行きました?」
「うむ。さっきから探させているんだがな。まだ見つからんのか?」
「はっ、まだ見つかっておりません!」
「ワタクシ達も探しますわ!」
おかしいな。
料理の中にでも飛び込んだんだろうか。
ミリルが声を上げ、ルインやその護衛も探し始めてくれた。
しかし、見つからない。
しまったな。
こんなことになるんなら≪目印≫をコインに付けておけば良かった。
そうしたら≪追跡≫でどこにあるかすぐに分かったのに。
後から言っても仕方ないな。
「タマ、強いコインの気配とか、分かったりしないか?」
「分かるよ! あそこ!」
タマが指を指した瞬間、視界に闇が広がった。
俺達を囲ったのは間違いない、以前にも見た≪闇のオーロラ≫だ。
衝撃波が俺達を襲う。
咄嗟にパシオンとミリル、付き添いの人に≪誇りの献身≫を掛けた。
騎士達は自力で頑張れ。
散らばってはいたが、オーロラ自体が部屋を窓側の二割程を分断するように現れたおかげで、全員こっち側にいる。
ルイン以外は。
どうやら、本命の敵はルインだったようだ。
「ウフフフフフフ、油断してくれてありがとう! おかげで手にすることが出来たわ! この、最強の、神滅の力を!」
ルインもまた、その姿を変えていく。
元ルーネシアとほとんど変わらない外見だ。
少しだけ、更に細い気もするけど誤差だ誤差。
まさかルインも≪魔の者≫だったとは。
貴族成りすまされ過ぎだろ。
大丈夫かこの国。
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