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255 理由と変転
しおりを挟む本当の理由?
婚約者候補と会うのが心細かったんじゃないのか?
ミゼル中心で生きてきたから女の人の扱いが分からないとかで。
それを言ったら俺もベッド中心で生きてきたから、女の人どころか人との関わり方すら自信無いけど。
……パシオンより酷くない?
そう考えると、俺が付き添っても力になれそうにないな。
「心細いっていうのは」
「嘘に決まっておるだろう。ミゼル以外の女に、何を気負う必要があるのだ」
パシオンはふんぞり返っている。
確かに心細いっていう態度じゃない。
よく考えると、そもそもパシオンが心細いなんて思うことあるんだろうか。
「でだ、今近くの部屋に婚約者の候補を待機させているわけだが、どうやら厄介なものが混じっているようなのだ」
「厄介なもの?」
「そうだ。これを見てくれ」
パシオンがテーブルの上に取り出したのは、コインに枠と鎖を付けたネックレス。
見覚えがある。
ミゼルの成人の儀式の時だったか。
ミゼルが持ってたものは突然乱入した魔王モドキに奪われた。
これは、パシオンが持っていた方だろう。
相変わらず、なんとも言えない迫力がある。
だけど、なんだこれ。
「震えてるー!」
「そうだ」
コインは微かに動いて、カタカタと小さな音を立てている。
なんだこれ。
「あの日、≪魔の者≫の襲撃があった時も、思い返せば微かに震えていたのだ」
「ということは」
「そうだ。すぐ近くに、≪魔の者≫が潜んでいる可能性が高い。そして今最も怪しいのは」
「婚約者候補」
「そういうことだ」
それで俺を呼んだのか。
コインを取り込んだ相手でも問題なく勝てるだろうし、戦うのは何も心配いらない。
だけどもしこれがイベントだったら。
行動次第では何も出来ず、パシオンが死ぬかもしれない。
気を付けておかないといけないな。
「よく気付きましたね。というか、そのコインって普段は仕舞ってるんじゃなかったですか?」
「これを見ながら成人の儀式を迎えた時のミゼルに想いを馳せるのが、ここ最近の日課なのだ」
「うわぁ……」
「貴様も一緒にやるか?」
「遠慮しておきます」
「遠慮などせずとも良い。私と貴様の仲だろう」
「ではお断りします」
行動が上級者過ぎる。
今回はそのお陰で異常に気付けたわけだから、すごい運というかなんというか。
事前の話は終わった。
タマにも一つお願いをしておいた。
これは保険だ。
何も起きないといいけど。
準備が整ったようだ。
遂に、パシオンの婚約者を決める会が行われる。
ここはパーティー部屋だ。
パシオン曰く小さ目の会場らしいが、部屋そのものとして見ると大きいと思う。
五十人くらいは余裕で入れそうだ。
いくつかの丸テーブルが並び、そこに料理が運ばれてくる。
メイドさん達の動きがやばい。
一瞬でセッティングが完了した。
なんだろう、ビュッフェ形式?
立食パーティーっていうんだっけ。
好きに料理を取って食べながら、好きに会話を楽しみつつ相手を決めるそうだ。
出汁巻玉子の提案でこういう形になったらしい。
俺とタマは邪魔にならないように、パシオンから少し離れた場所で待機となった。
護衛として何人かの騎士が部屋に配備されているし、出汁巻もパシオンのすぐ側に控えている。
料理も食べていいと言われたが、今はお腹いっぱいだ。
タマはテーブル一つを食べつくす勢いで食べ始めている。
失礼にならないかな?
パシオンがいいって言ったんだし、いいか。
婚約者候補が入場してきた。
まずは一人ずつパシオンに挨拶するようだ。
それぞれが綺麗なドレスに身を包み、付き添いらしい身なりのいい人と、護衛らしき人を連れている。
上手く行くといいんだけど。
「ナガマサ、ちょっとこっちへ来い」
「はい。タマ、ここで大人しく食べててくれ」
「はーい!」
挨拶が終わった辺りでパシオンに呼ばれた。
俺だけで良いみたいだから、タマは置いておく。
食べるのに夢中なのを邪魔しても悪いしな。
「この者はナガマサ。私の友だ。今宵は心細い私の為に付き添ってくれた」
「初めまして。ナガマサです」
頭を下げる。
挨拶ってこれでいいんだろうか。
貴族の挨拶って分からないぞ。
よく考えたら服もいつもの装備で大丈夫だったんだろうか。
「はじめまして。私はテトラボルト侯爵の娘、ルイン・テトラボルトと申します」
「私はルーシネア・アラバスター、アラバスター伯爵家の次女です」
「ワタクシは大魔導国ファブレイジの第二王女、ミリル・ファブレイジですわ! よろしくお願いしますわね!」
婚約者候補は三人。
三人共が挨拶を返してくれた。
三人共美人なNPCだ。
内一人は王女。
やっぱり王子の婚約者ともなると王女まで来るのか。
すごいな。
相手はパシオンなのに。
紹介したいだけだったようなので、終わったらそそくさとタマのいる場所まで戻る。
ああいう場は苦手だ。
もっとのんびり和やかな空気がいい。
最後の王女はテンションがあれだけど、他二人はなんか怖い。
王子の婚約者を狙って水面下のバトルが繰り広げられているんだろうか。
このまま何も起きないといいんだけど。
念の為、使えそうなスキルが無いか探しておこう。
しばらく時間が経過した時、事態が動いた。
俺の希望は通らなかったようだ。
「ぐ、うっ……!?」
「パシオン様!?」
「キャー!」
突然パシオンが苦しみ出した。
持っていたグラスが落下し、砕け散る。
喉を抑えて膝を付き、そのまま倒れこんだ。
「パシオン様!? パシオン様!?」
「≪ヒール≫! ≪キュアー≫! ……回復しませんわ!」
「パシオン様、しっかりしてください!」
「パシオン様!? いやぁぁぁぁ!!」
「ちょっと貴女達退いてくださらない!?」
「貴女こそ退きなさいよ!」
「そうよそうよ!」
「退いてくださいっす!」
「モジャー!」
「きゃあっ!?」
「なんですの!?」
「タマちゃんナイスっす!」
すごい騒ぎになっている。
タマが突っ込んでパシオンの周りの空間を空けてくれたようだ。
そこに出汁巻が駆け寄った。
俺も向かってはいるが、出汁巻が既にいるからなんとかなりそうだ。
しかし、グリーンポーションを飲ませた出汁巻は、更に焦ったような顔をしている。
「……回復しない!?」
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