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253 部屋数と義兄

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 食事を終えて、各自のんびり過ごしている。
 タマと葵は昨日買った≪荒野のマント≫を装備して、如何にかっこよく着こなせるかを競っている。
 葵はやっぱり片側だけに掛けている。
 装備的にも左右非対称の方が映えるだろうか。

 タマは普通に装備したり、腰に巻いてみたり。
 装備品はスロットさえ空いていれば、実際にどの部位に付けるかは自由なようだ。
 流石に頭から被るのはかっこよさとは違う気がする。
 可愛いお化けって感じだな。

 ミルキーは部屋の模様替えに行った。

 ≪モジャの家≫は隣と合体した結果、大きくなった。
 その代わり、家具とかは一度全て回収されてしまっっている。
 それを置き直すのも兼ねての事だ。

 合体して単純に部屋の数が増えただけかと思ったら、そうじゃなかった。
 リビングが一つになって広くなったように、二階の部屋も大きくなった。
 
 元々モジャの家にあった個室は、一階に二つ、二階に三つ。
 二階の部屋が少し広い。
 ミゼルが住んでいた隣の部屋も同じ数。
 それが合体して、一階は四つで二階は五つになった。

 階段が家の両側にあるから、それぞれを上がった外側に一つずつ。
 後は内側に三つ。
 中央に廊下が伸びていて、片側に一部屋、もう片側に二部屋となっている。
 この一部屋が結構大きい。

 ミルキーは俺の部屋やミゼルの部屋もコーディネートしてくれるらしい。
 一体どんな風になるんだろうか。
 もし足りないものがあれば、明日にでも買っておかないとな。
 ストーレの街もごった返すだろうし。

 ミゼルは俺と一緒にお茶を楽しんでいる。
 ミルキーを手伝おうとしたら、座っててくれと言われてこうなった。

 本当に家を出てくるとは思わなかった。
 王様は俺を婿にしたがっていたような気がする。
 パシオンとか、その辺りはどうなったんだろう。

「ミゼル、ちょっと聞いてもいい?」
「はい、どうなさいました?」
「俺のところに嫁いでくるのに、反対されなかった?」
「ええ、それでしたら心配ありませんわ」

 にっこりとミゼルが微笑む。
 一体どうなったらそうなったんだ。
 気になる。
 詳しく聞いてみるか。

「それってどういう――」
「後は私が説明してやろう!」

 バーン!! という凄まじい音を立てて扉が開かれた。
 何事かと思ったが、敵じゃなかった。
 タマも一歩を踏み出す寸前で止まっていた。
 危ない危ない。

「久しいな、我が友ナガマサ――いや、義弟おとうとよ」
「祝勝会の時にあったじゃないですか。……えっ、それでいいんですか?」

 びっくりした。
 まさかパシオンが俺を義理でも弟呼ばわりするとは。
 もっと泣き叫びながら、ミゼルに縋り付いて更に泣くと思ってた。
 連れ戻しに来たんじゃないなら何しに来たんだ。

「貴様は私を何だと思っているのだ」
「え、どシスコンのど変態ですかね」
「ダメ王子!」
「タマ、お口チャック」
「ジジジジジー……」
「よし」
「貴様らの素直な感想に感謝する。そこに直れ」

 思ったままに答えると、タマが乗っかって来た。
 流石にどストレート過ぎないか。
 ほら、怒った。

「ふふっ」
「おおミゼル、今日も可憐で美しいな」
「ありがとうございますお兄様」
「それで、一体何がどうなったんですか?」

 ミゼルの笑い声に反応して、パシオンの機嫌がすっかり良くなった。
 ちょろい。
 まぁ二人とも、どこまで考えて今の流れになったか分からないんだけど。
 ああ見えてパシオンも大人だから流してくれた可能性もある。
 多分。

 遠慮なく乗っかることにして、説明を求めた。
 パシオンがここにいることも含めて分からないことが多すぎる。

「よし、話してやろう。しかしまずは茶を持ってくるといい。酒でもいいぞ」
「はいはい、今用意しますよ」
「それでは私が準備いたしますわね」
「なに!? ナガマサ貴様、可愛いミゼルに働かせようというのか!」

 ミゼルの申し出に対して、パシオンのボルテージが急上昇。
 ナガマサ貴様ってなんか韻を踏んでてラップみたいだ。

 今の流れで俺に来るのがシスコンだって言うんだよな。

「パシオン様、ナガマサ様はこの家の主なのですから、妻である私がするのは当然ですわ」
「何もミゼルがしなくとも、使用人にやらせれば」
「ここはバーリルの一般家庭です。使用人を雇っているところなど、ありません。全て自分達でやるのがここでの常識ですわ」
「ぐぬぬ」
「気にせず説明して差し上げてくださいませ」
「ミゼルがそうまで言うのなら、仕方あるまい」

 あ、パシオンが折れた。
 相変わらずミゼルはパシオンにはっきりと言うな。
 いいことだ。

「今回の件だがな、我が王家はミゼルの意思を尊重し、降嫁を認めることにした。王籍からも離脱となる」
「……こうか? おうせき?」
「簡単に言えば、ミゼルが王族から離脱して貴様と結婚することを認める、ということだ。血縁はあるが、王族としての責任も義務も権利も、その全てがミゼルにとって関係のない話になる。公の場では、ほぼ他人として振る舞う事にもなるであろう」
「なるほど」

 やっぱりそうなるのか。
 あれだけ王族としての責任を自覚していたミゼルが、それを全て放棄した。
 不安しかないパシオンに全てを託して。

 これってすごい覚悟がいることなんじゃないのか?
 それを俺の為に……。
 嬉しいことではあるが、本当にそれで良かったのかと、思ってしまう。

「どうぞ」
「ありがとう」
「うむ、やはりミゼルの淹れた茶は最高級品だな」

 ミゼルが俺達の前にお茶を並べてくれた。
 そのまま俺の隣に腰を下ろした。

「実は私も、悩んだ末に諦めようと思っていましたわ」
「そうなの? それじゃあなんで……」
「お兄様のお陰なんです」
「パシオン様の?」
「なんだその疑うような眼は」
「いえなんでもないですよ」

 ミゼルが言うには、諦めようと思って城に戻ったところに、パシオンが現れた。
 そして、こう言ったそうだ。

「王家のことは心配するな。全て私が引き受ける。ミゼルはミゼルの幸せを掴め」

 と。
 あれだけ嫌がっていた婚約もすると宣言し、前々から申し入れのあった相手の中から候補を選出したそうだ。
 あのパシオンが!?
 ミゼル以外とは結婚しないなんて平然と言い放ちそうな、あのパシオンが!?

 思わずパシオンの方を見る。
 今度は誤魔化せないくらい驚いた顔をしているに違いない。
 それでも見ずにはいられない。
 それぐらい衝撃的だ。

「私だって、ミゼルのしたいようにさせてやるのが幸せなこともあると、学んだのだ。ミルキーのお陰でな」
「ミルキー様とパシオン様には感謝しています」

 まさかのミルキーのお陰だった。
 そういえば少し前にパシオンを言い負かしてたな。
 まさかそれがこういう結果になるとは。
 本人が聞いたらびっくりするんじゃないか?

「まぁそういう訳だ。ミゼルをよろしく頼むぞ」
「任せてください」
「うむ。……さて、私が来たのにはもう一つ用件があってな」
「なんですか?」
「至急で婚約者の候補数名と会うことになったのだが、付き添いを頼めないだろうか?」

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