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249 欠損と記憶
しおりを挟む外周をぐるっと周ってみた。
腕や脚がわさわさいたが、特に何かは起きなかった。
強いて言うなら、右腕と左脚がレアドロップっぽい装備を落としたのと、エリアで言うと四隅の小部屋には意味深なオブジェがあったくらいだろうか。
最初に俺が行った部屋には左脚。
そこから北の部屋には左腕。
西に行って右腕、南に下りて右脚。
オブジェは半分壁に埋まっていて、風景と化している。
そこらへんをうろついてる物と違ってかなりごつい。
大きいし、何よりかなり太くなっている。
長さは一・五倍、太さは三倍くらいありそうだ。
他のが長さに対して細すぎるのか?
これ絶対何かの仕掛けだろ。
中央に行ってみれば分かるかな。
「よし、中央に行ってみようか」
「はーい!」
群がってくる四肢を蹴散らしながら、部屋の角から伸びる通路を進む。
こいつら、ドロップが≪歴史の破片≫とレアしかないのか、というレベルで歴史の破片しか落とさない。
数もそれなりだから、結構な勢いで溜まっている。
少し歩くと、大きな部屋に到着した。
一先ず、部屋に溜まっていたモンスターを一掃する。
中央部には大きな円柱が設置してあって、床を這うコードがいっぱい繋がっている。
円柱はガラスのような、半透明の素材で出来ていて中が丸見えだ。
中には、ロボットのようなものが浮いている。
人型なんだろうけど、両手両足が無い。
まるで蛹みたいな印象を受けた。
予想してたとはいえ、なんか精神的にくるデザインだ。
俺にはあったが、実質このロボットと同じようなものだった。
「モジャマサ、だいじょーぶ?」
目の前にタマが現れた。
心配して顔を覗きこんだようだ。
もしかして、変な顔でもしてたんだろうか。
「あ、ああ、うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「それなら良かったモジャ」
「よしよし、タマは優しいな」
気を取り直して行こう。
円柱の中のロボットは、脚が無くても俺より二回り位大きい。
2mは越えてるな。
動く様子はないが、どうすればいいんだろう。
同じく中央部に設置されている操作パネルみたいなものが怪しい。
弄ってみるか。
「おお?」
「なにこれー?」
手を触れると、半透明のメッセージウインドウが現れた。
『起動実験を行う為には燃料が不足しています。素材を投入してください』
素材?
何のことだ?
文字を送ると、続きが表示される。
『歴史結晶 0/100』
≪歴史結晶≫というアイテムが必要なようだ。
破片ならあるんだけど結晶は持っていないと思う。
レアドロップか?
念の為ストレージを確認してみる。
やっぱりない。
メッセージが三件届いていた。
狩りをしてると気付くのが遅れるな。
一件目が届いてから、もう二時間くら経ってるぞ。
差出人は……運営とミルキー、モグラから。
届いた順に見てみるか。
運営からのメッセージは恐ろしい事が書いてありそうで、気になるからな。
内容は、変更点についてだった。
正式リリースが発表されてから一度あったものだ。
しかし、今回の変更点は中々やばそうだった。
フレンドリーファイヤ、同士討ちの解禁。
これまではパーティーメンバーに対しての攻撃ではダメージは発生しなかった。
それが、ダメージが発生するようになる。
考えなしに魔法や範囲攻撃を撃てば、味方を巻き込む恐れがある。
俺達の攻撃力は異常な程に高い。
万が一モグラやゴロウ、葵等を巻き込めば、手加減術を発動していなければ即死してもおかしくない。
立ち回りには注意しないといけないな。
タマにもしっかり言い聞かせておかないと。
タマは最強で殺意も高い。
多分大丈夫だとは思うけど、念の為だ。
理由は、ゲーム内のリアル性を重視しての変更と書かれているが、本当にそれだけだろうか?
VRゲームだからこそその辺りを追及するのは理解出来る。
昔やってたゲームもFFはありだった。
だが、ここは俺達にとってはゲームじゃない。
死んだら終わりであることを考えると、反響は大きそうだ。
俺達は第二の人生をここで生きている。
だからこそ、現実と同じように理不尽だって起きる。
文句を言ってもどうにもならない。
なら、これまで以上に気を付けるしかない。
ミルキーからは、不安になったから帰って来て欲しいという連絡だった。
探索は一旦切り上げて帰るか。
モグラの方も、FF解禁に関して何か思うところがあるようだ。
明日の葵のお別れ会の話に合わせて、気遣ってくれているような感じがする。
モグラにはお世話になってばかりだ。
恩を返そうとしているつもりだが、今一返せている気がしない。
一度清算しておかないとずるずる引きずってしまいそうだ。
こっちも考えておかないと。
「タマ、帰ろう」
「これと戦わないのー?」
タマの視線は、中央の動かないロボットに向いている。
とても残念そうだ。
「ごめんな、どうしたらいいのか分からない部分もあるし、ミルキーが不安がってるから今日は帰ろう」
「はーい! はやく帰ろ!」
「あっ、一人で先に行くんじゃない!」
タマに謝罪を兼ねてお願いすると、意見が百八十度反転した。
ミルキーのことを思ってくれたんだろう。
その場からタマの姿が消えて、通路の奥に一瞬現れてまた消える。
瞬間移動を繰り返して帰宅を開始したようだ。
突然すぎて反応が遅れてしまった。
慌てて追いかける。
「はやくはやく!」
「この上からは他のプレイヤーもいるし、普通に歩いて戻ろう。驚かせたらいけないからな」
「はーい」
≪ストーレ鉱山02≫へと戻る入口の前で、タマが足踏みしながら待っていた。
急ぐのは良いけど、少し落ち着かせないといけない。
≪忘却の実験場≫では他のプレイヤーの姿はなかったが、鉱山では結構見かけた。
02は二人、01では六人。
夕方に差し掛かっているが、まだいるかもしれない。
変に驚かせてそれが死因になったりしても嫌だし、普通に戻る。
慌てて走ってると、モンスターを擦り付けたり、逆に奪ってしまったりもあるかもしれないし。
他のプレイヤーがいる狩場では、マナーを守って過ごしたい。
02ではプレイヤーとすれ違う事はなかった。
01では、逆に何度もすれ違った。
十人以上いた気がする。
中にはPKも紛れ込んでいたから、さくっと返り討ちにした。
面倒だけど、放っておくわけにもいかない。
三人組みのPKはまとめて縄でぐるぐる巻きにして、担いで運んだ。
遭遇したモンスターの処理は全てタマにお任せだ。
普段でも何も言わなくてもほとんどタマが処理するから、いつもと一緒な気もする。
鉱山を出た俺達は、おろし金の背中に乗って飛び立った。
ストーレに寄り道して、城にPK達を預けた後、我が家へと帰った。
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