上 下
251 / 338

240 お見送りとエスコート

しおりを挟む

「お腹いっぱい!」
「私も……」
「二人とも、あんなに食べるからですよ」

 タマと葵は笑顔のままぐったりしている。
 脱力してるだけか?
 とても幸せそうだ。
 そんな二人をミルキーが小脇に抱えて立ち上がった。

 ミゼル主催の食事会はお開き。
 そろそろ帰ることにした。

 ミゼルの家での食事は、とても楽しかった。
 料理も美味しかった。
 それだけじゃない。
 皆笑顔で、本当に楽しかった。
 招いてくれたミゼルには感謝の気持ちでいっぱいだ。
 
 俺も立ち上がって、玄関でミルキーを待つ。
 両脇にタマと葵を抱えていても重たそうに見えない。
 ミルキーのStrも数万越えてる筈だしな。
 全く苦じゃないようだ。

 玄関から外へ。
 開け放した扉の前で、入口に向き直る。
 玄関の内側にはミゼルが立っている。

 背後に出汁巻とノーチェが控えているが、威圧感はない。
 護衛というよりは、総出でお見送りをしているような感じがする。 
 
「お招きいただき、ありがとうございました。とても楽しかったです」
「お料理もとても美味しかったです」
「美味しかった!」
「また食べたいです」

 ミゼルにお礼を言う。
 皆も続いた。
 
 ご飯の感想ばかりだな。
 って、そうか。
 食事に呼ばれて手料理を振る舞ってくれたんだから、そこに触れるべきなのか。

 失敗したか。
 かといって今から付け足すのも不自然だ。
 幸い、ミゼルは笑顔を浮かべてくれている。

「こちらこそ、とても楽しかったですわ。またお誘いしますので、いらしてくださいね」
「はい」
「是非行かせていただきます」
「タマもモジャを引きちぎってでも行くー!」
「引き千切る意味はあるのか?」
「ないよ!」
「何て奴だ」

 タマめ、俺の髪の毛への扱いが段々雑になってる気がする。
 この世界でも髪は引っ張ったら抜けるんだろうか。
 気にはなるけど試したくない。

 いつかPK相手にでも実験してみるか?
 タマのストロングパワーで引っ張っても抜けなければ、そういう仕様だと判別できる。

「ミルキー様」
「はい、どうされました?」
「少し、ナガマサ様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「私は構いませんよ」
「ありがとうございます」

 ミゼルがミルキーに断りを入れた。
 何だろう、何か手伝うことがあるんだろうか。
 男手だったら出汁巻がいるしなぁ。
 何か、討伐依頼とかだろうか。

「気にしないでください。ナガマサさん、私は先に帰ってますね」
「分かった、気を付けてね」
「ふふっ、すぐ隣ですから大丈夫ですよ。それではミゼル様、失礼します」
「ミゼル、出汁巻、ノーチェ、ばいばーい!」
「ごきげんよう」
「ドナドナドオオオオオォォォォオオォォナァァアァァァドオォォォナアアアァァァァァァアアアァァァ……」

 挨拶を終えたミルキーが先に帰宅した。
 タマと葵を抱えたままだ。
 ステータスを知ってるからおかしく見えないけど、傍目から見るとすごい絵面だ。
 装備が魔法系だから非力に見えるのに、中学生くらいの女の子を片手ずつで運んでるからな。

 非力そうなのに力持ち。
 ギャップですごい目立ちそう。
 家はすぐ隣だから、こういう時楽でいいね。

 ≪クレイジーフラワー≫はまた一瞬だけ音を出すのを許されたようだ。
 妙に耳に残る歌と共に葵ごと運ばれて、≪モジャの家≫へ吸い込まれていった。

「ナガマサ様」
「はい」
「少し、歩きませんか?」
「はい」

 ミゼルが歩き出す。
 慌てて続こうとして、足を止める。
 なんとなく振り返ってみると、いい笑顔の出汁巻がいた。

「護衛はいいんですか?」
「ナガマサさんがいれば平気っすよ」
「そういう問題なんですか?」
「そういう問題っす。ほらほら、ミゼル様がお待ちかねっすよ」

 出汁巻に言われて前に視線を戻すと、ミゼルがこっちを見ていた。
 立ち止まって、じっと見つめている。
 早く来いと言われているように感じる。

 釈然としないが、出汁巻に構ってる場合じゃなさそうだ。

「すみません、お待たせしました」
「大丈夫ですわ。丁度、思ったよりも暗かったので立ち止まったところですの。エスコートしていただけますか?」

 頭を下げると、ミゼルは気にしなくていいと言ってくれた。
 確かに暗い。

 今はもう21時を回っている。
 この村は年寄が多く、活発なのは朝早くから夕方くらいにかけてだ。
 夜は寝るのが早いからこの時間にはもうひっそりとした雰囲気になってしまう。

 以前は夜遅くまで露店を出していたプレイヤーもいたそうだ。
 今は住人達に気を遣って、遅くまで露店を出したり騒いだりしないよう、暗黙のルールになっているらしい。

 ここはストーレと違って街灯なんかもない。
 月と星、家から漏れる僅かな灯りだけでも俺は問題ないが、王女であるミゼルに何かあったら大変だ。

「はい」

 差し出された手を取った。
 白くて華奢な手だ。
 けど、エスコートってどうしたらいいんだろう?
 手を引いて歩くことなのか?
 そもそもどこへ行ったらいいんだ?

 経験が無ければ知識も無い。
 どうすればいいのかも分からない。
 仕方ない。
 恥を捨てるしかない。

「どちらへ参りましょう?」
「村の中をぐるっと一周、案内していただけますか?」
「分かりました」

 ミゼルの手を引いて歩く。
 早くなりすぎないよう、歩幅とペースを合わせる。

 最初はどうなることかと緊張したが、段々慣れてきた。
 ミゼルと他愛のない話をする内にリラックス出来たようだ。

「――ナガマサ様」
「はい」

 商店のおじさんの話題で盛り上がったところで、突然ミゼルが立ち止まった。
 名前を呼ばれたので、短く答える。

 身体ごとこっちへ向き直ったので手を離した。
 何か決心したような表情に見える。

「私との結婚のお話、考えて頂けたでしょうか?」
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...