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230 魔導機械と笑顔の仮面

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「まだ私の努力の結晶の提出は終わってませんよ!」
「じゃあこれが終わったら一度寝てくださいね」
「はーい、分かってますって」
「タマが寝かせてあげようか? 最近上手になったと思うよ!」
「あはは、こう見えても大人なんですから、ちゃんと一人で寝れますよー」

 純白猫は相変わらず呑気に笑っている。
 流してくれて良かった。
 タマは素振りをしながら言っていた。
 多分、寝かせるっていうのは気絶させるという意味だろう。

 PKで練習でもしたんだろうか。
 あまり根を詰めるようなら、タマに頼むのもありかもしれない。

「他に何があるんですか?」
「サブウエポンも作らないといけないので、≪魔導機械マジックギア≫の方もある程度練習しました。こっちは少しだけですが練習してたので、≪魔導躍進機マジックドライバー≫の方を優先はしましたが」

 葵の職業は≪魔導機械士≫。
 その≪魔導機械士≫のメイン武器は≪魔導機械≫という種別のものになる。
 正確には、ただの武器として使える≪魔導機械≫の機能をフルで発揮する為に≪魔導機械士≫になるらしい。

 防具にも専用装備があって、こっちは≪魔導躍進機≫と呼ぶらしい。

 これは≪魔導機械士≫と≪魔導機械技師≫にしか装備出来ない。
 ≪魔導機械≫に触れていると特殊な効果を発揮する。
 と、専用装備らしい仕様になっている。

 ロマンとかっこよさを感じる。
 純白猫が安価な≪魔導機械≫を沢山作って市場に流せば、≪魔導機械士≫も増えるんだろうか。
 偶然見かけて気に入った武器を購入。
 その武器で戦っていたら、特殊な職業が転職リストに現れる。

 うん、まるで何かの主人公のようだ。
 あくまでゲームだから、条件さえ知っていれば誰にでもチャンスはあるけど。
 自分だけ特別、ってのはそうそうないよな。

 ユニークスキルは多分例外ということで。

「というわけで、これが現時点で一番出来が良かった≪魔導機械≫です!」

 純白猫は両手を広げて動きを止めた。
 何かを取り出した様子もない。
 どこにあるんだ。

「えっと、透明な≪魔導機械≫なんですか?」
「そんなまさか。存在を否定はしませんが、今の私に作れるとは思えませんね! でも作れるなら作ってみたいですねー」
「作れたらかっこよさそうですね。じゃなくて、それならどこにあるんですか?」
「見て分からないですか?」

 もう一度よく見てみる。
 いつもの帽子にいつもの仮面。
 服装もいつもので、両手は空。
 特に何か装備してる風でもない。

「すみません、分からないです」
「しょうがないですねぇ。≪起動スタートアップ≫」

 純白猫がスキルを発動した。
 葵が習得しているのと同じスキルのようだ。

 純白猫の顔面に張り付いている≪笑顔の仮面≫の、表情を構成している三本の線が淡い光を放ちだした。
 それか!

「光ったー!」
「ふっふっふっ、お察しの通り、笑顔の仮面型魔導機械です!」
「すごーい! かっこいいー!」

 よく見たら三本の線は描いてあるんじゃなく、溝になっているようだ。
 葵の剣と同じように、≪起動≫を使用した仮面は溝の部分が光っている。
 純白猫がドヤ顔をしているように感じた。

「おーい、どうして固まってるんですか?」
「いえ、まさかそれだと思わなかったので」
「ふっふっふ、私の笑顔の仮面にかける情熱を舐めてはいけませんよ」
「ずっとそれを作ってたんですか?」
「そうしたかったんですけどね、流石に最初は普通の短剣型から始めましたよ」

 純白猫が言うには、最初は基本的で難易度も低めな短剣を作っていたそうだ。
 魔導機械の方は、少しとはいえ俺が依頼する前から練習していたとあって順調だった。
 難易度を上げようと思った。
 笑顔の仮面型の制作が開始された。
 ということらしい。

 発想がすごい飛躍してる気がしないでもない。
 しかし、好きなもので練習出来た方が、モチベーションも保ちやすいだろう。
 任せてるんだし、好きなようにしてもらえばいい。
 モチベーションが上がり過ぎて徹夜が続くようなら困るけど。

「見せてもらってもいいですか?」
「はい、いいですよ」
「あ、どうも」

 純白猫が仮面型魔導機械を外した。
 そのまま差し出される。
 何気に素顔を見たのは初めてかもしれない。

 普通に美人でびっくりした。
 どことなく狐っぽい雰囲気がある。
 いつもの笑顔とはかなり違う感じだな。

 仮面型魔導機械は、笑顔の仮面と見た目は大差ない。
 線で描かれている目と口が、溝になっているくらいだろうか。
 よーく見ると、薄ら光ってるのが分かる。
 葵の剣よりも光が弱いから気付かなかったんだな。

≪猫式仮面型魔導機械・笑顔≫
武器/盾/仮面/魔導機械 レア度:C 品質:D-
Def:3 Mdef:0
≪笑顔の仮面≫を模して作られた魔導機械。
盾に分類されるが、顔に装着することも可能。
投擲することで、離れた相手への攻撃手段にもなる。
装備している間、最大SP-20。
≪起動≫発動中Def+10、与える遠距離物理ダメージ+5%

「これ、装備してるとSP減るんですね」
「魔導機械は大体そんな感じの仕様ですね。≪起動≫を使った時の効果が大きい程、減るSPも多いようです」
「なるほど。それじゃあこの仮面の効果は」
「大したものじゃないですね。そこら辺は私の腕前が足りないせいです」
「これが作れる時点ですごいと思うんですけどね」
「ありがとうございます。いつか究極の笑顔の仮面型を作って見せますよ! ……その前に、葵ちゃん用の装備一式ですけどね」

 純白猫はニヤリと笑った後、慌てて誤魔化すような笑顔を浮かべた。
 いつも仮面を付けてるから分からなかったけど、表情がコロコロ変わって面白い。

「ありがとうございました」
「あ、どうも」

 笑顔の仮面を差し出すと、純白猫は受け取って装着した。
 うん、いつもの笑顔だ。

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