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228 木 二度寝と追加

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「ううん……朝か……?」
「おはよー! 起きるモジャ?」

 目を開けると、部屋がすっかり明るくなっていた。
 ベッドの縁に腰かけていたタマが俺の顔を覗きこんでくる。
 
 昨日は夜中に色々あって疲れた。
 今朝はゆっくり起きると話をしてあったから、起こそうとせずに確認してくれているようだ。

 ウインドウを開く。
 時間は朝6時。
 いつも起きてる時間だ。
 疲れてる筈なのに目が覚めるのは、しっかり休みたい時には困るな。

「もう少し寝るよ。タマもゆっくりしてていいんだぞ」
「んー、タマはおろし金と畑に行ってくるね!」
「そうか、気を付けて行ってくるんだぞ」
「はーい!」

 タマは元気よく返事をして、部屋を飛び出していった。
 いつも元気だ。
 日課の畑仕事をやっておいてくれるらしい。
 後でよく褒めてやらないといけないな。

 とりあえず二度寝しよう……。

 



「んん……もう10時か。沢山寝たな」

 ベッドから降りて伸びをする。
 固くなった筋肉が伸びて気持ちいい。
 本来の肉体はもうないのに、すごい再現度だ。

 このなんでもない動作ですら感動してしまう。
 伸びが出来るって、なんて素晴らしいんだろう。
 この世界に来て本当に良かった。

 部屋を出て、一階へ降りる。
 階段の下はリビングに繋がっている。
 ミルキーが隣のキッチンに立っているのが見えた。

「おはよう」
「あ、ナガマサさん、おはようございます」
「誰もいないね。寝すぎちゃったかな」
「タマちゃんは少し前に朝ごはんを食べて、どこかへ出かけて行きましたよ。葵ちゃんはまだ寝てると思います」
「なるほど」

 静かだと思ったら、タマはどこかへ出かけているらしい。
 少し前なら畑仕事は終わってるだろうから、遊びにでも行ったかな。

 葵は昨日頑張った。
 小規模とはいえ、PK集団に襲われて、リーダーであるコッカーと一騎討ちまでした。
 いくらある程度鍛えたと言っても、普通の女の子だ。
 精神的な疲労は計り知れない。
 ゆっくり休むべきだし、沢山労ってあげないといけない。

「ミルキーは何時に起きたの?」
「私は7時くらいですね。少し寝坊しちゃいました。あ、今朝ごはん用意しますね」
「ありがとう」

 ミルキーの用意した朝食を美味しく頂きながら、ミルキーと今日の予定を話し合った。
 そんなに予定がある訳でもないが、確認みたいなものだ。

 まずは畑の様子をちら見。
 タマが行ってくれたようだけど、自分の目で確認しておきたい。

 次に、純白猫の様子を見に行く。
 昨日ある程度の素材を預けたから、練習とスキルレベル上げをある程度している筈だ。
 葵とお別れする日までに間に合うか、確認をしておきたい。
 素材が足りないようだったら補充も必要だしな。

 予定としてはこのくらいだ。

 モグラからメッセージが届いていた。
 どうやら朝早くに俺からのメッセージを読んで、即座にストーレに飛んで帰ったそうだ。
 メンバーの一人に大反対されたけど、俺のことを信じて押し切ったんだとか。
 結局そのメンバーが裏切り者で、激闘を繰り広げたとも書いてあった。

 そいつは逃がしてしまったが、モグラもゴロウも無事帰還。
 PK側にも作戦の失敗は伝わっただろうから、大きな動きはないだろうとのことだ。
 それでも一応今日は厳戒態勢で警戒しておくそうだから、街は今日も平和だろう。

 本当にすごい人だ。
 激闘のこととか、また今度詳しく聞きたいな。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「ちょっと畑見てくるね」
「分かりました。すぐストーレに行けるよう準備しておきますね」
「いってきます」
「いってらっしゃい」

 畑へ向かう。
 いい天気だ。
 村は今日ものどかだな。

「キュル」
「あ、モジャだー!」

 畑へ着くと、おろし金とタマが出迎えてくれた。
 どこに行ったのかと思ったら、まだ畑に居たのか。
 一体何してたんだろうか。

「畑仕事してたのか?」
「んーん。あれ見てあれ!」
「うん?」

 タマが指を指したのは、≪モジャ畑≫の中央に生える樹の上部分。
 正確には、畑に埋まっている巨大なイカが背負った貝の中ほどから生えた樹の、葉が生い茂っている場所。

 そこには、いくつもの沈黙を表す吹き出しが見える。
 あれは一体なんだろうか。
 巨大イカこと≪ピンポン玉≫の側へ行ってみると、足や腕が見える。

 空中を蹴って更に近づくと、アイコンと名前が表示された。
 どうやらこれはプレイヤーらしい。
 その中には、昨日葵に負けたコッカーの名前もある。

 枝葉の中に突っ込んでみると、蔦のようなもので縛られたコッカーが居た。
 見張りなのか≪イチゴ細マッチョ≫と≪リンゴ細マッチョ≫の二体に抱きかかえられている。

「もご! もごごもごもごごー!」

 コッカーが必死に何かを訴えようとしているが、沈黙の状態異常のせいで意味不明だ。
 沈黙にかかると、言葉が封じられる。
 スキルも使えなくなるから、脱出出来ない訳だ。

「あっはっは、何言ってるかさっぱり分からないですね」
「もごー!」

 中々面白い絵面だった。
 半泣きだったけど、今日を合わせて五日間頑張って欲しい。

 しかし、他にも細マッチョ達に捕まってたプレイヤーは何なんだろうか。

 畑の柔らかい土に降り立つと、石華が歩いているのを見つけた。
 丁度いい。
 通訳してもらってあのプレイヤー達が何なのか、ピンポン玉に聞いてみよう。

 早速石華の近くまで一歩で移動する。

「おはよう石華」
『む、ご主人様ではないか、おはよう。どうかしたかのう?』
「ちょっとお願いがあって」
『何でも話すが良いのじゃ』

 石華は村の住人に頼まれて、家畜モンスターの様子を見ていたらしい。
 モンスターの気持ちを通訳することで状態の把握に一役買っているそうだ。
 すごい馴染んでるな。

 俺も通訳をお願いすると、快く引き受けてくれた。
 石華の通訳でピンポン玉から事情を聞いて、あのプレイヤー達の正体が判明した。

 あれは、PKプレイヤーキラーだった。
 多分、コッカーがどうにかして助けを呼んだんだろう。
 それで返り討ちにあって、ああなったと。

 合わせてタマも教えてくれた。
 タマとおろし金が畑仕事をしている時にも何人か来たらしい。
 それはタマが瞬殺して、同じように筋肉抱き枕の刑に処した。

 それが面白かったから、一旦家に帰って朝食を摂った後、他に獲物が来ないかとここで待機していたらしい。
 PK達の自業自得だから仕方ないな。
 コッカーと同じタイミングで解放したらいいだろう。

「おかげで色々分かったよ、ありがとう」
『なに、ご主人様の為ならこれくらいお安い御用なのじゃ。他に困ったことは無いかの?』
「ああ、もう大丈夫。助かったよ」
『ではわらわは行くのじゃ。他にも何件か周らなければならんからのう』
「うん、気を付けてな。タマ、おろし金、俺達も一旦帰ろうか。これからストーレの街に行くぞ」
「はーい!」
「キュル!」

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