上 下
235 / 338

226 逃走と仕切り直し

しおりを挟む

 二人は距離を取ってお互いに武器を構えた。
 葵は父親の形見でもある剣。
 見るからに強力そうで、かっこいい。
 正確には≪魔導機械≫というカテゴリに属するらしい。

 コッカーの方は……木の板?
 長さは120cmくらいで、幅は20cm無いくらいか。
 両端が丸くなっている。
 あれはどこかで見たことがある気がするけど、なんだったっけ。

「アイスの、棒?」
「当たり。僕の相棒だよ」

 葵の呟きにコッカーが答えた。

 なるほど。
 アイスの棒って、武器になるのか。
 一体どんな戦い方になるんだろう。
 見た目だけで判断すると剣なんだけど。

 カウントダウンが始まる。

 3、2、1、始まった。

「≪閃光弾フラッシュバン≫!!」
「っ!?」
「――!!」

 開始の合図と同時に、激しい光と音がコッカーから放たれた。
 目潰しのスキルか何かだろう。
 眩しいが、ステータスのお陰か俺達の目が潰れることはない。
 二人の姿もきちんと見えている。

 葵は影響があるのか、片腕で目を覆っている。
 咄嗟の反応の可能性もあるな。

 その隙を突いてコッカーが何かを口にした。
 激しい音に紛れて聞き取れなかった。

 スキルかと思ったが、違った。
 葵の頭上に、『Win!!』の文字が出現した。
 どうやら、コッカーが口にしたのは降参の言葉のようだ。

 万が一を考えて降参はありにしたが、裏目に出たようだ。
 多分、フィールドが解除されたと同時に逃げる気だろう。
 そうはさせない。
 転移スキルを発動する前にコッカーに≪目印≫を使用しておく。

「≪テレポート≫!」
「あっ……!?」
「あいつ逃げたー!!」

 コッカーの姿が消えた。
 光と音が収まり、腕を下ろした葵が呆然としている。

「ナガマサさん、逃げちゃいましたよ!」
「ぶっ殺そう!!」
「装備とお金を捨ててでも逃げたかったみたいだね。タマ、ちょっと落ち着いて」
「ぶっ半殺そう!!」
「よし」
「なんですかあの人、絶対に許せません!」
「大丈夫、なんとか間に合ったから」
「間に合った、ですか?」

 コッカーが降参したことで、形式的には葵の勝利だ。
 勝負前に設定していた報酬が葵に送られている。

 しかし、葵もミルキーも俺もタマも、誰一人として納得していない。
 まだ呆然としている葵の為にも、見逃すつもりはない。

「ちょっと迎えに行ってくるよ。その間にPKの人達を縛っておいてもらっていい?」
「分かりました」
「はーい!」

 葵はまだ立ったまま呆然としている。
 こっちも声をかけておかないと。

「葵ちゃん。あいつ連れてくるから、ちょっと待ってて」
「出来るの?」
「任せといて」
「お願い。あいつ、絶対許さない……!」
「その意気だよ。それじゃあ行ってくる」

 マップを開いてコッカーの現在地を確認する。
 ストーレの街だ。
 すぐ連れて来れるな。

 空中を踏みしめて、ストーレの街へ向かう。
 壁を越えて街の中へ。

「げぇ!?」

 一軒の宿へ入ろうとしていたコッカーを確保した。
 首根っこを摑まえて、葵のところへ連行する。

 数分経たずに戻ってこれた。
 葵の前に、すっかり大人しくなったコッカーを転がした。

「次真面目に戦わなかったら痛みでおかしくなるまで延々と攻撃し続けますからね」
「私にもやらせて下さい」
「タマも!」
「私も……!」

 コッカーへ脅しをかけておく。
 皆も乗っかって来た。
 よっぽど腹が立ったんだろう。
 ムッキーも全身を使って頷いている。
 混ざりたいようだ。

「わ、分かった。真面目に戦うから命だけは許してくれ」
「保証しますって」

 コッカーの気持ちも分からないでもない。
 葵との決闘とはいえ、背後には俺達が控えている。
 捕まった時点で勝とうが負けようが、どちらにせよ命の保証は無い。
 それなら全財産を捨ててでも逃げ出した方がマシだ。

 しかし、俺達からするとそれは侮辱以外の何物でもない。
 特に葵は、相当馬鹿にされた気分だろう。
 
 何にせよ、コッカーは判断を間違えた。
 それを言うなら俺達にちょっかいを出した時点で大間違いなんだが。
 幸せな第二の人生を邪魔するなら、容赦はしないからな。

 コッカーのメイン装備だけは返却して、決闘の申請からやり直しになった。
 装備が無い状態で勝負して、負けをそのせいにされても気分が悪い。
 正々堂々葵が勝たないと意味が無いからな。

 ちなみに、今回は降参は無しの設定にした。
 その代わり10分の制限時間が追加された。
 これで、長引くこともなく強制的に結果が決まる。

「あーくっそ、どんだけチートなんだよ。こうなったら思い切り八つ当たりしてやる。痛い目見ても僕を恨むんじゃないぞ」
「それはこっちの台詞。恨むなら自分を恨んでね……!」
「ふん、余裕ぶってるのも今の内だよ」

 仕切り直しのカウントダウンが、0になった。

「≪起動(スタートアップ)≫!」
「≪オーラブレード≫!」

 二人同時に駆け出し、二人同時にスキルを発動した。
 どちらもバフ効果を持つスキルだと思う。
 葵の剣に刻まれている溝が輝きを増し、右腕を覆う装備にも光の線が奔っている。

 コッカーの持つアイスの棒も薄らとした黄色い光に包まれた。
 炎のように揺らめいて、動きに合わせて尾を引いている。

 二人の距離は一瞬にして縮まり、葵の振るう剣とコッカーの相棒が激突した。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...