229 / 338
221 お祝いと初料理
しおりを挟む葵が謎の筋肉免許皆伝を受けたから、夜はお祝いをすることになった。
理由としては弱いかもしれない。
しかし、イベントの後はお祝いをするものだと、昔教わった。
お別れの近い葵とタマを楽しませたいというのもある。
今は夕方。
16時を過ぎたところだ。
俺とミルキーは、丁度訪ねてきたミゼルと出汁巻玉子と一緒に、四人でお祝いの準備をしている。
免許皆伝とはいえ、修行が終わったわけでもない。
葵は畑で≪ムッキー≫と鍛錬に励んでいる。
俺から見た葵の印象は、大人しくて引っ込み思案だけど、芯は強くて頑張り屋。
でもそれは、あくまでも一面でしかないんだろう。
大事な家族が死んだら、性格に変化があるのは身を以て経験してる。
モグラも、葵は生意気で元気いっぱいだったって言ってたし。
今は、モグラが保護者のようなことをしているらしい。
そのモグラから預かったということは、俺が保護者といっても過言じゃない。
タマとも仲良くしてくれているし、目一杯この村での暮らしを満喫してもらうつもりだ。
「さて、やるか」
茶色くて丸い、でこぼこした芋を一つ手に取る。
右手には、宿屋のおばちゃんから餞別でもらった包丁。
人生初の料理に挑戦だ。
勿論、ミルキーにしっかり教えてもらう。
最初から一人で出来るとは思えない。
頼るべきところは頼る。
その分の恩は、後から少しずつでも返せばいいんだ。
「キュル」
「ん?」
いつのまにか這って来ていたおろし金が足に頭をこすり付けてくる。
視線は俺に。
そしてジャガイモに。
食べたいのか?
こっそり差し出してみると、パクリと食べた。
可愛いやつめ。
あたらしいジャガイモを手に取る。
今度こそ挑戦開始だ。
まずはしっかり教えてもらわないと。
「ミルキー、これってどうしたらいいの?」
「ジャガイモはこんな感じで皮を剥いて、この窪んでる部分はこうやって、全部とっちゃってください。この部分が残ってると、≪毒状態≫になっちゃいますからね」
「はーい」
ミルキーの手によって、ジャガイモは一瞬にして綺麗に皮を剥かれた。
ありふれた食材だと思ってたのに、毒があるとか危険な食べ物だったんだな。
毒状態になると、数秒ごとにHPに割合ダメージが入る。
かかる確率と自然に消滅するまでの時間は、Vitに依存する。
俺達は大丈夫だろうけど、ミゼルと葵は怪しい。
特にミゼルはNPCだ。
ステータスを持っていない可能性がある。
俺の作った料理で毒殺されるとか悪夢でしかない。
丁寧に処理をしよう。
ミルキーが見せてくれたお手本通りに真似すれば大丈夫だ。
包丁を歪な丸い物体にあてる。
右手に力を込める。
――ズパンッ!
ジャガイモの半分が消し飛んだ。
おかしいな。
力を入れ過ぎたんだろうか。
もう少し慎重にしないといけない。
さぁ、もう一度だ。
――ザクッ!
ジャガイモが真っ二つになった。
おかしいな。
≪無刀両断≫は使ってない筈なのに。
「多分力が入り過ぎてますね」
「やっぱりそう思う? 気を付けてみる」
「頑張ってください。いくらでも失敗していいですからね」
「ありがとう」
何個か剥く内に、なんとか『剥く』ことが出来るようになってきた。
それでもまだ出汁巻に追いつけない。
一番近くの目標が、俺と同じく料理をしたことのない出汁巻だ。
見てろよ、すぐに追い越してやる。
「ミルキー、形が残るようになったよ!」
「リンゴの芯みたいになるんすけど」
「ふふっ、二人とも器用ですね」
俺が剥いたものは原型がある。
だけど大きさはかなり小さくなってしまっている。
縦横共に三分の一くらい?
出汁巻のジャガイモは、ガタガタして縦に細長い。
だけど俺よりも多く残っている。
まだ勝てないか。
俺はちょっとずつ上達してる。
どんどんいくぞ。
「おろし金ちゃん、食べる?」
「キュルル!」
俺達が剥いた皮なのか実なのか分からないものは、おろし金が食べてくれた。
食材が無駄にならなくて何よりだ。
「ミルキー様、こうでよろしいですか?」
「ミゼル様上手ですね。もうこんなに綺麗に剥けるなんて」
「ありがとうございます。お料理なんて初めてで、とても楽しいですわ」
最初の時点で俺より上手かったミゼルは、かなり上手くなっていた。
ミルキーが剥いたものと比べてもそこまで違わない。
なんて上達の早さなんだ。
初めてでこれってすごいな。
俺も頑張らないと。
出汁巻と競いながら、ミルキーに教わりながら、ミゼルと話しながら。
どんどん皮を剥く。
それだけじゃなく、野菜の切り方も教わった。
現実世界では一人で出来る事なんかほとんど無かったから、自分の力で何か出来るのは楽しい。
料理もずっと興味はあったから、このお祝いはいい機会になった。
感謝の意味も込めて、葵を沢山労おう。
あとは野菜をお裾分けしてくれた昭二と、お肉を持って来てくれたミゼルにも感謝しないといけない。
二人にはいつもお世話になってるし、お礼を考えておかないと。
今度欲しいものが無いか聞いてみよう。
装備の類なら作ることも出来るし。
和やかな時間が過ぎていく。
そんな平和な生活に横槍が入ったのは、お祝いを終えた俺達がすっかり寝静まった頃だった。
2
お気に入りに追加
1,255
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

4/4ー俺の親が自重しなかった結果チートな身体を得た。
ギン
ファンタジー
病気がちで子供時代の殆どを病院で過ごした黒鉄 倭人《クロガネ ワヒト》は人生の最後をそのまま病院にて終わらせる。
何故か先に異世界転生していた、自重しない親のおかげ?でチートな身体を得た主人公。
今度は多分、丈夫な身体でこの世界を楽しむ予定だ、異世界を異世界らしく生きて行きたい所だが、何せ親が先に来ているから。大体のことはもうお膳立てされている。そんな異世界を、自分のやりたい様に行動して行く。親父もハーレム作ったから。自分も作ろうかなとか思ってるとか、思ってないとか。
学園編、冒険者編、各種族編までは構想があるのでサクサク進める事を目標にしています。
そんなお話です。
2章のエピローグまでは1日1話程度の更新で進もうと思っています。
1日分で3000文字↑の量になります。
小説家になろうでも同じ小説で執筆中です。見やすい方でどうぞ。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる