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195 対面と保護者
しおりを挟む現れたのは、肩くらいまでの茶色い、少しフワフワした髪の毛の女の子。
たれ目がちで、少し痩せている。
頭の上には、音に反応して揺れる花のおもちゃが乗っかっている。
ちょっとびっくりした。
≪葵≫って聞いて男だと思ってた。
まさか女の子だとは。
しかも見た感じ、14歳くらいに見える。
タマと同じか少し上くらいだ。
俺の家で暮らすなんて話を大きくしてしまったのは、まずかったかもしれない。
でも、その提案が出た時にモグラから特に反対は無かった。
しかも、昨日の内に本人にも了承を得ているらしい。
だから男だと勝手に思ってた訳だけど。
「この子が葵。一週間お願いね。葵、この人達が一週間鍛えてくれるナガマサさん、タマちゃん、ミルキーさんだよ」
「よろしく」
「タマだよ! よろしくね!」
「よろしくね、葵ちゃん」
「よ、よろしわっ……!?」
タマが挨拶をしながら葵に飛びついた。
どうやら同年代に見える葵に懐いたようだ。
プレイヤーで同じくらいの子を見たことが無かったし、仲間を見つけて嬉しかったのかもしれない。
挨拶を返そうとしていた葵が驚いて困っている。
ダンシングフラワーはうねうねと踊っている。
なんだあれ。
昨日の宴会でモグラが言ってたのは、もしかしてあれか。
ということはあれが葵の相棒……。
確かに分かりやすい。
「タマ、葵ちゃんがびっくりしてるから程々にな」
「うん!」
「タマちゃん……」
「何ー?」
「えっと、よろしく……」
「よろしくー!」
「わわっ」
タマは葵を離して満面の笑みで返事した。
やはり気に入ったようだ。
葵が遠慮がちにタマに挨拶し、タマが笑顔のまま再度飛びついた。
葵はやっぱり慌てている。
だけどなんだろう、和む。
「ナガマサさん、なんだか保護者みたいな顔になってるよ」
「一週間とはいえ保護するんだから間違ってないと思います」
「はは、それじゃあ葵のことお願いね。オレ達も頑張ってくるから」
「はい、応援してます」
葵を預けたモグラは満足げに去って行った。
これからPK討伐隊と打ち合わせだそうだ。
プレイヤーキラー、通称PK。
PKは偶々今活発になっただけで、突然現れたわけじゃない。
前からPKとして存在していた。
PKのせいで葵の父親が亡くなっているし、俺やゴロウも以前襲われたことがある。
だけど、討伐隊が組まれたことは今まで無かったらしい。
理由は、推測でしかないけどそこまで的外れでもないと思う。
難しいことじゃない。
とても単純なことだ。
PKとは言っても、相手も人。
誰もが、人を殺したくないと思ってしまっただけだ。
誰かに任せてしまおう。
俺みたいに、そう思ったんじゃないだろうか。
直接襲われたならともかく、自分から殺しに行くのは覚悟がいる。
少なくとも俺には出来ない。
ずるいかもしれないけど、ただの一般人でありたいと思ってしまう。
チートみたいなステータスとスキルを持っていても、小心者なのは変わらないんだと実感してしまう。
モグラ達はすごい。
この一週間PKが活発になることに危機感を感じて、PK討伐に乗り出した。
そこまで出来る理由は分からない。
皆の為かもしれないし、自分の為かもしれない。
それは分からない。
だけど、そのどちらだとしても、俺にはとても出来ないことだ。
モグラを見送った俺達は、早速我が家へ移動することにした。
≪モジャの家≫で一緒に暮らすなら、育成も村の周辺でやればいいしな。
「それじゃあ家がある村まで移動するけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫」
「タマがついてるから怖くないよ!」
「うん……!」
モグラから葵のことを少し聞いている。
曰く、明るくて活発で生意気。
今の葵からはそんな感じはしない。
モグラは結構前からの知り合いみたいだし、俺達に慣れるまで少し時間がかかるのかもしれない。
父親が亡くなった影響、というのも有り得る。
「歩いて行くの……?」
「飛んでいくんだよ! ビューンって!」
タマと葵を眺めながらお城に向かって歩く。
二人はもう手を繋いでいる。
子供は仲良くなるのが早いって、どこかで聞いた気がする。
俺は子供の頃は友達何ていなかったけど。
それにしても、葵の背中に目がいってしまう。
そこに背負われているのは、立派な剣。
大剣という程じゃないが、両手剣に分類されるだろうそれは葵の身長と同じくらいの長さだ。
多分150cmくらい?
厚みのある、しっかりとした両刃の剣だ。
全体的に銀色だけど、仄かに青みがかった光沢がある。
刀身には幾何学的な溝が奔っていて、そこからも青い光が漏れ出ている。
明らかに魔術的な何かが施してある。
控えめに言ってすごくカッコイイ。
それを背負っているのは、初心者装備に身を包んだ中学生くらいの女の子。
これはゴロウが言っていたこともしっくりくる。
鴨がネギどころの話じゃない。
続いて頭の上に視線を向ける。
タマの声に反応して、ダンシングフラワーが躍っている。
葵の頭に固定でもされてるんだろうか。
気にせず歩いてる風なのに、全く不安定に見えない。
「やっぱり気になりますか?」
「ん、ああ、まぁね。やっぱり目立つよ」
「そうですね。話では聞きましたけど、実際に見てみるとすごい存在感です」
「ほんとにね。あんなのこっち来てから初めて見たし」
「ナガマサさんの剣も、性能では負けてないと思いますよ」
「いや、分からないよ。少なくとも俺の剣は踊らないし」
「え?」
「え?」
お互い不思議そうな顔をしてしまう。
会話が噛み合ってなかったらしい。
そんなこんなで、城の訓練場へとやって来た。
タマがおろし金を召喚する。
「キュルル!」
「わっ、なにこれ、可愛い……!」
「タマのペットのおろし金だよ! おろし金、葵ちゃんだよ!」
「キュル!」
「よ、よろしくね」
「キュルル!」
「わわっ」
葵はおろし金を見て目を輝かせた。
爬虫類大丈夫なようだ。
女の子は苦手なイメージがあったけど、そうでもないようだ。
ミルキーも≪オオカナヘビ≫の肉を食べても平気そうだったしな。
おろし金の方も葵を気に入ったらしく、勢いよく接近して頬ずりをしている。
葵は慌てているが、ほんのり笑顔だ。
嫌ではないらしい。
しかし、タマと行動が一緒だな。
ペットは飼い主に似るんだっけ。
「それじゃあおろし金、頼む」
「キュル!」
「わぁ……!」
おろし金が短く鳴いた。
一瞬でドラゴンモードへと変化する。
かっこいいドラゴンと化したおろし金に、葵は全身から楽しさとか喜び的なオーラを噴出している。
あくまでも俺のイメージだけど。
「かっこいいでしょ!」
「うん……!」
「さいきょーのタマのペットだからね!」
そしてタマが得意げだ。
可愛い奴め。
葵にはタマとセットでミルキーが抱きかかえるようにして、おろし金に乗ってもらった。
これでゴロウみたいに落ちる心配もない。
村まで安全運転で飛行し、無事に到着した。
俺は、乗るスペースが少ないから空中を蹴って付いて行った。
なんだとても切なかった。
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