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186 お土産話と大根(マッスル)

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 ……ん、寝てしまっていたようだ。
 時間は、20時になっていた。
 なんてこった、もう夜だ。

 ゆっくりとベッドから身体を起こす。
 なんとなくまだぼんやりする。

 珍しくタマは一緒にいなかったようだ。
 確か……島から帰ってきてすぐにベッドに倒れこんだ。
 そのまま寝てしまったらしく、記憶が全然無い。

 かろうじて、タマが元気に石華にハイタッチしに行ってたのは覚えてるんだけど。
 石華は首を傾げながらも応じていた。
 よく意味を分かって無かっただろうに、付き合いが良い。
 帰ってきての突然のハイタッチの意味ってなんだろうか。

 無事帰れてめでたいぜいえーい! みたいな?
 今度タマに聞いてみよう。

 よし、変なことを考えてたら段々意識がはっきりしてきた。
 ミルキーはもう起きてるかな。

 一階へ降りると、リビングにはみんな揃っていた。
 どうやら夕食後の団らん中だったようだ。

「おはよう。もう夜だけど」
「モジャだー! モジャは滋養強壮に良いと聞く。収穫だー!」
「俺のモジャにそんな効能が」
「私も初耳ですよ。おはようございます」
『おはよう。お疲れだったみたいじゃのう』
「キュルル!」
「ははは、ベッドに倒れこんだらそのまま寝ちゃったみたい。疲れてたのかな」
「私も帰ってから少し寝ちゃってました。起こそうと思ったんですけど、ぐっすり寝てたので起こすのも申し訳なかったので……」
「ああ、お蔭様でよく寝れたよ。ありがとう」

 それぞれと挨拶を交わす。
 ミルキーも力尽きてたようだ。
 あの島での探索は、精神的に来るものがあったからな。
 恐るべしマッスルア……フルーツアイランド。

『ほほう、一体どのような場所だったのじゃ?』
「聞きたいか。そうか、聞きたいか」
「ふふふふふふ」
『なんじゃその悪そうな顔は……』

 珍しく疲れた様子の俺達に、金剛が今日の狩場に興味を持った。
 苦手かどうかは分からないが、思わず笑みが零れてしまう。
 タマも便乗して意味深な笑顔を見せる。

『ミルキー、一体どういう――なんじゃその仮面は』
「ノーコメントを貫く覚悟の満面の笑みです」

 困惑した金剛がまともそうなミルキーへ助けを求めた。
 しかし、ミルキーは笑顔を貼り付けていた。
 あれは前に露店で買った≪笑顔の仮面≫だ。

 三本の線だけで描かれた満面の笑みは、何故かすごくホラーの気配がする。
 石華も若干引き気味だ。

『そ、そうか。ご主人様、聞かせてもらえるかのう?』
「≪三日月≫の伊達が教えてくれた≪フルーツアイランド≫ってところに行ったんだけど……」

 金剛へ今日あったことを話して聞かせる。
 お腹が空いたからミルキーの用意してくれた魚の塩焼きとパンを食べながら。
  
 ふんふんと興味深げに聞いてくれるから、ついついこっちもテンションが上がっていく。
 タマが二人になって金剛の両隣に座り出した。
 話を聞きたいらしい。
 しかも二倍。
 一緒に行ってただろうに。
 
 こうして夜は賑やかに更けていった。




「あっ、こんなところにモジャが落ちてる! 抜こう!」

 朝。
 タマの恐ろしい台詞で目が覚めた。

「頼むから抜かないでくれ」
「ブチブチブチブチィ」
「ひぃ」

 昨日は早めに寝たせいか、すっきりしている。
 タマのお陰かもしれないけど。

 時間は6時を回ったところだ。
 日課をこなさないとな。
 今日は試したいこともあるし。

「タマ、畑に行くぞー」
「はーい!」

 装備を整えて一階へ降りる。
 この世界は村だろうと町だろうとPKが出来る。
 だから外へ出る時はある程度装備を固めておくようにしている。
 薄着でうろつくなんて怖くて仕方がない。

 でも冒険用の装備で畑仕事っていうのもあれだから、良い素材で作業着作ろうかなぁ。
 ≪古代異界烏賊≫の皮くらいならすぐに取って来れるし。

「おろし金ー、畑行くよー!」
「キュル」

 ミルキーは今日はまだ寝ているらしい。
 昨日の探索は色々刺激的だったからな。
 ゆっくり眠らせておいてあげよう。
 リビングの床で寝ていたおろし金を起こして出発だ。
 
 畑に着くと日課の作業だ。
 雑草の如く生える結晶、雑晶をひたすら抜く。
 それが終われば宝石のような素材を砕いて粉末にする。
 そして撒く。

 これがうちの畑の肥料だ。
 普通じゃないらしいけど、結晶を纏った巨大なイカが埋まってる時点で普通じゃない。
 細かいことは気にしても仕方ない。 

 今日は宝石化したハーブと足の両方が収穫可能になっていた。
 ハーブは葉を摘めば良い。
 足の方はタマとおろし金に任せる。
 攻撃して破壊すればドロップアイテムが落ちる。
 これが烏賊の足の収穫だ。

 さて、今日はまだいくつかやることがある。
 まずは、一枚のコインを畑に登録する。
 モンスターを追加で畑に埋めるのだ。

 登録が完了すると、俺の前に一枚のコインが現れた。
 ハーブが植わっている辺りにコインを置くと、一体のモンスターが召喚される。

「マッスル!」
「あっ、大根だ!」
「キュル」

 昨日タマのお願いでテイムした≪マッスルドラゴラ≫だ。
 太い大根からボディビルダーを掘ったような姿に、頭の部分からは草が生えている。
 昨日は地面から引き抜いたらすごい大きな声で叫んでたけど、抜かれない限りは大丈夫なようだ。

 その存在に気付いたタマとカナヘビモードに戻ったおろし金が駆け寄ってきた。
 カナヘビの走る姿ってなんか可愛いよね。
 ダバダバしてる感じがする。
 そういえば、丁度ミルキーと会ってすぐの頃に大量のカナヘビに追いかけられたことがある。

 あの時は流石にそんなことを考えてる余裕は無かったな。
 着実に生活の基盤が整ってる気がする。
 つまり、第二の人生が上手くいってるってことだ。
 この調子で頑張るぞ。

 ≪マッスルドラゴラ≫の名前は≪大根≫に決まっていた。
 既に登録されている。
 大根?
 根菜つながりかな。
 
 
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