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185 粉砕と帰還
しおりを挟む二人のタマが暴れる中で、ミルキーも負けていない。
炎の槍が放たれる。
≪我らが道を行く≫と≪五体解放≫で数の方を100倍されて、マッスル達へ突き刺さる。
あれは多分下級の魔法で、レベルも1で放っているんだろう。
ダメージがさっきまでに比べて明らかに低い。
魔法は、スキルのレベルが上がっていくと基本的に威力も上がる。
放つ時に指定すれば調整が可能だ。
レベルが10になっていても、レベル1で撃つことも出来るらしい。
勿論レベルを下げれば威力も下がる。
メリットはある。
レベルが上がると威力は上がるが、大抵の場合詠唱とディレイも伸びてしまう。
ディレイはそんなに変わらないらしいが、詠唱時間は大きく違うらしい。
それを上手く必要なダメージ分のレベルで放つよう使い分けるのが、時には大事になると聞いた。
俺達はステータスが高すぎてもう詠唱時間は発生しない。
今重要なのは、与えるダメージを下げることだ。
ミルキーのIntは多分、俺とほとんど変わらない。
魔法をレベル1で放っても、きちんと一撃確定のダメージは出せている。
そしてあのダメージ量なら、一割反射されても死にはしない。
あくまでも単体攻撃だから、狙いをずらせば無駄に巻き込むことも無い。
うん、怒り狂ってるように見えてちゃんと冷静だ。
良かった。
おろし金はドラゴンモードで、目についたマッスル達を切り刻んでいる。
偶に降ってきたマッスルをそのまま空中で噛み砕いているのがすごく頼もしい。
二人と一匹……三人と一匹がマッスル達を相手してくれている内に、俺は≪始まりの筋肉大樹≫へと迫る。
諸悪の根源、悪魔の木を砕いてやる。
筋肉大樹がその太い腕で殴りかかってくる。
サイズがでかいから、腕も拳も全部がでかい。
すごい迫力だ。
だけど回避は問題ない。
≪五体解放≫の効果の一つで、俺達は一歩で空間を越えて歩くことが出来る。
しかも、空中も歩けるようになるおまけつきだ。
俺が踏み出した一歩は筋肉大樹の肩の上。
拳が空振りして筋肉大樹が戸惑っているのがなんとなく伝わってくる。
落下を終えていたマッスル達は全て殲滅されたらしい。
周囲では二人のタマとミルキーが空中を駆けまわり、おろし金が飛びまわっている。
落下してくるマッスルを撃墜してるようだ。
酷い。
≪始まりの筋肉大樹≫の傘のように広がった枝葉の部分から、熟れたマッスル達が落下する。
それを、三人と一匹が即座に粉砕していく。
まるでシューティングゲームだ。
落ちるマッスル達が空中で果汁と筋肉の欠片をまき散らして空中で爆散する光景は、中々に酷い。
まずは軽く。
肩に乗ったまま、筋肉大樹の幹を軽く小突く。
与えたダメージの数字がボロッと出る。
反射ダメージは特にないようだ。
次は全力で。
≪筋力上昇≫、≪気功法≫、≪シールドオーラ≫、≪真・六道踏破≫を発動する。
オーラが全身を包み、六色の光の球が俺の周囲を飛び周る。
最初の三つは、物理攻撃力を上げるスキル。
細かい条件や効果は違う。
でも簡単に説明するとそうなるだけだ。
全て100倍されてるからかなり上がる。
最後の≪六道踏破≫は、次に自分が放つ一撃のダメージを増大させるスキル。
六色の光る球は各ステータスに対応している。
つまり、ステータスの数値が多いほど威力が上がる。
全てのステータスが高いと恐ろしいことになる、まさに俺の為にあるスキルだ。
振り落とそうとする筋肉大樹の肩から空中へ瞬間移動する。
右肩から正面へ。
地面に足をつけて、左手に持った盾を引く。
六つの光る球体が盾と一つとなって、激しい光を放つ。
スキルを発動させて、盾の面を思い切り叩きつける。
格闘属性に殴打属性を併せ持つ盾専用攻撃スキル、≪シールドバッシュ≫だ。
スキルレベルは低いが、普通に100倍された後、格闘攻撃だから同じく100倍される。
つまり10000倍!
筋肉大樹が木端微塵に爆ぜた。
俺の頭上にMVPの文字が軽快なフォントで現れる。
全ての補正も合わせれば、筋肉大樹も一撃でこの通りだ。
ふぅ。
なんだかんだで俺も何かが溜まっていたようだ。
妙にスッキリした。
「お疲れ様です」
「おつかれさまー!」
「キュル!」
タマとミルキー、おろし金がやって来た。
みんな発散出来たようで、すっきりした顔をしている。
多分俺も同じような顔をしてるんだろう。
ドロップアイテムの確認だ。
筋肉大樹が最後に居た場所の中心部にいくつか落ちている。
どれどれ。
≪筋肉の魂≫と≪筋肉大樹の木片≫。
そして≪コイン:始まりの筋肉大樹≫。
コインのドロップ率おかしくない!?
MVPモンスターのコイン、これで何枚目だろう。
普通こんなに拾えないものだと思うんだけど。
まぁいいや。
拾えたからには何かに使おう。
他の素材も何かしらには使えるだろう。
マッスル達が共通して落とす≪筋肉の欠片≫も合わせて、マッスル☆タケダに見せたらきっと喜ぶだろうし。
使い道もきっと見つけてくれる。
「それじゃあ帰ろう」
「はーい!」
「はい」
「キュル!」
帰りも寄ってくるマッスル達を蹴散らし、植わってる植物を採取しながら船が泊まってる場所まで戻る。
最初に島へ上陸した地点には、大きな木が海へ迫り出している。
そこには船の姿があった。
帰ってきた実感が湧いてすごくホッとした。
島はすごく危険だったわけじゃない。
ただなんとなく、疲れた。
ここはあらゆる存在が濃すぎる。
通常モンスターからMVPボスまでは当然として、ドロップアイテムまで濃い。
まさか普通のフルーツが無いとは思わなかった。
どれもこれもがムキムキで、どれも腹筋が割れている。
フルーツの腹筋って何だ。
見た目はやばいけど、それでもフルーツには違いない。
沢山採れたから試しに齧ってみたけど、すごく美味しかった。
ミルキーが味と見た目のかけ離れ具合にすごく怒っていた程だ。
畑に植えられそうな物の捜索と、フルーツ集めという目的は達成した。
帰ろう。
港町と言わず一旦家に帰りたい。
それはみんな一緒だったようで、船着き場に到着した後はライリーに軽く挨拶だけして町の外へ。
町から少しだけ離れた後は、おろし金の背中へ乗って我が家へ飛び立った。
家へ到着した俺とミルキーは、各自ベッドへと倒れこんだ。
タマとおろし金は元気いっぱいだった。
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