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163 決意と進化
しおりを挟む畑仕事を終えて家に帰る途中、プレイヤーの集団を見かけた。
先頭にはムラマサがいる。
昨日家に押しかけてきてさんざんバカにしてくれた奴だ。
ということは、後ろにいるのは≪三日月≫のメンバーだろうか。
伊達政宗の姿はない。
ムラマサ達は俺達を気にした様子も無く、村の外へ向かって歩いて行く。
そっちの方向へ足を踏み出そうとしたタマの頭に手を置いて制止する。
「タマ、決闘までは三日月のプレイヤーや相棒を見かけても手出しは厳禁だ」
「えー」
「大丈夫。明日の決闘では思いきりやっていいからな」
「わかったモジャ」
「よしよし、えらいぞ」
「その代わりモジャのしりを四つに割ってやるー!」
「二つが限界だからやめてくれ」
「まだまだいけるモジャ」
タマとじゃれあいながら家路につく。
もうミルキーも起きてる頃合いだろう。
伊達からの返事も来ていたし、ゆっくり話し合わないといけない。
明日は全力で相手をする。
相手はトッププレイヤー集団で、どれだけ強いかも分からないけど、俺達の幸せな第二の人生を邪魔するなら敵だ。
いつぞやの時に決心した筈だ。
幸せな人生を邪魔する奴は敵。
蹴散らしてやる、と。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ただいまー!」
家に戻るとミルキーが出迎えてくれる。
朝食も用意してくれているようだ。
おいしいパンとおいしいスープ。
タマ、ミルキー、おろし金に金剛石華。
それが揃ってるこの場所は、もう俺の宝物だ。
負けても建物と畑を取られるだけ。
しかもお金は払ってくれるらしい。
それなら場所を移せばいいだけなのかもしれない。
それでもここは俺達の初めての家だ。
絶対に勝つ。
ルールを決める権利をあげたんだから、どれだけ不利になっても仕方ない。
負けても仕方ない。
潔く認めよう。
負けを認めた上で、相手がそうしたように、脅してでも奪い返す。
そのつもりだ。
朝食を食べた後に、明日のことについて作戦会議を開く。
雑草のごとく生えてくる雑晶を抜いている間に届いたメッセージには、こう書かれていた。
『人数が足りないのは盲点だった。他から助っ人を頼んでも足りない場合は、特別に相棒やテイムモンスターの参戦を認めよう。その代わり、一体で一枠だ』
あっさりと、相棒やテイムしたモンスターの参加が許可された。
「良かったですね。私も無責任なことを言ってしまったので、全力で頑張ります!」
「うん、頼むよ」
「メンバーは決まりですか?」
「そうだね。俺、タマ、ミルキー、おろし金、ピンポン玉、金剛、助っ人の出汁巻さんだ」
「勝ちましたね」
ミルキーの言う通り、これで勝ちはほぼ間違いない。
だけど油断はしてはいけない。
相手はトッププレイヤー集団。
特にあの伊達政宗は、どんなチートスキルを持ってるか分からないからな。
俺は自分だけが特別だとは思ってない。
俺がこんなおかしなステータスやスキルになってるなら、他にそうなってる人がいてもおかしくはない。
実際、昭二も≪封印の~≫というスキルを持っていたし。
あれが進化したら多分すごいことになる。
「確実に勝てるように順番はよく考えよう」
「そうですね。ここは、ナガマサさんが最後でしょうか」
「タマじゃないのか?」
俺が勝手に想像する強さランキングはこうだ。
一位タマ、二位俺、三位ミルキー、四位おろし金、五位ピンポン玉、六位出汁巻き玉子。
金剛の強さは未知数だから除外してある。
ピンポン玉より下だと思うけど、どうなんだろうか。
「リーダーだから、最後にドーンと構えてたらいいんですよ。私たちが片付けちゃいますから」
「タマも頑張るよ!」
「キュルル!」
『わらわも戦闘は本分ではないが、ご主人様の為ならば全力を出すと誓おう』
「皆、ありがとう」
みんなやる気は十分だ。
少しくらいの不利なら跳ね返すと思ってたけど、むしろ最高の状態だ。
ルールを訂正してくれた伊達には感謝をしないといけない。
馬鹿にされた分や変なちょっかいを出された分がほぼそのまま残ってるから、恩では返せないけどな。
俺達の勝利で返してあげよう。
その後は少しだけ狩りに行くことにした。
明日に備えて少しでもレベルを上げておくためだ。
文字通り全力で行くぞ。
その前に、しばらくしていなかったレベルアップの操作もきちんとしておく。
いつの間にか取得できるスキルが色々増えてて困る。
俺とタマとミルキーは、ユニークスキルは全て共有される。
俺の≪我らが道を行く≫の効果だ。
つまり、俺がとったスキルはミルキーやタマも使えるし、タマが取ったスキルも俺やミルキーも使える。
三人がそれぞれ別のスキルを取れば、三人分強化される訳だ。
引っ越しでバタバタしてた上に、のんびり狩りをするだけだったから忘れてた。
明日の決戦を前にポイントを余らせておく理由もないしな。
そこでふと、思い付いた。
もし俺とミルキーで同じユニークスキルが取得可能になってたとして、俺がそれを取得したとする。
ミルキー側の、同じスキルはどうなるんだろう。
消えているか、取得できるかのどっちかだとは思う。
もし取得できたらどうなる?
試してみたい。
「ミルキー、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「いいですよ。なんですか?」
ミルキーに思いついたことを説明する。
興味を持ってくれたようで快く了承してくれた。
俺が持ってるユニークスキルでミルキーの取得可能スキルにあるものを探す。
使い勝手が良くて消費ポイントの少ないものは……これだ。
「弾属性魔法にしよう」
「分りました。取得しますね」
ミルキーがウインドウを操作する。
そして取得。
『条件を満たしたので、≪弾属性魔法≫が≪真・弾属性魔法≫へと進化しました!』
「わっ、進化しましたよ!」
「やった、思った通りだ! タマ――」
「あいあいさー!」
『条件を満たしたので、≪真・弾属性魔法≫が≪極・弾属性魔法≫へと進化しました!』
上手くいった。
俺が取得しているスキルをミルキーが取得して進化。
タマが取得して更に進化。
性能はこれから試すとして、二段階進化したからにはかなり強化されてそうだ。
俺の持ってるスキルは基本的に、一回進化しただけでとんでもないことになってるからな。
期待出来そうだ。
ポイントに余裕があれば、サポート系のユニークスキルを進化させたい。
全員が取得可能になってるかどうかが問題だが、取得条件は緩和されてる筈だから多分大丈夫だろう。
出来る限りの事はしておかないとな。
出汁巻きを拉致して、≪輝きの大空洞≫へ。
一層にある、金剛が拠点にしていた城から更に移動する。
謁見の間にある光る球体に手を触れればあっという間に到着だ。
≪無明の城≫で、騎士狩りが始まる。
「騎士狩りだー!」
「うおー!」
「鏡は任せてくださいね!」
「俺も一応騎士なんすけど」
「大丈夫大丈夫。さ、狩ろう!」
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