167 / 338
160 論外の交渉
しおりを挟む選択肢はいくつかある。
1、無言でドアを閉める。
2、きっぱりと断る。
3、やんわりと断る。
1をしたところでしつこそうだな。
2や3も言葉が通じることが前提になるけど、なんとなく通じそうにない。
安い値段を提示してるのに、断られるかもしれないっていう感じが見えないからな。
かなりまけてもらって600K、+畑や拡張で500Kもかけた我が家を、何故100Kで売ってもらえると思うんだ。
少しは相場を調べてから来て欲しい。
勿論、売るつもりは全く無い。
俺の、俺達の大事な、初めての家だ。
いくら積まれたって頷くことは絶対にない。
自信満々で一応、俺の返答を待ってるムラマサを真っ直ぐ見る。
2でいこう。
「ここは大事な家なので絶対に売りません。他をあたってください」
「……は? お金が足りないのか? 仕方ない、じゃあ150Kでどうだ?」
「金額の問題じゃありません。なんと言われようと売るつもりはないです」
「それなら200Kでどうだ? 大金だろう!?」
きっぱりと断ると、ムラマサは値段のつり上げを始めた。
そうじゃない。
「売る気はありません。しつこいですよ」
「お前……!!」
段々と苛立ってきてるのが分かる。
しつこいは余計だったかな。
でも実際しつこいし、こっちだってイライラしてしまう。
そんな顔されたって売れないものは売れない。
「お前もプレイヤーなら私達≪三日月≫のことは知っているだろう?」
「ええ、まあ」
「それなら理解しているだろうが、三日月は未開のエリアを探索して、情報を他のプレイヤーに広めているんだぞ。地形や、出現するモンスターの詳細な情報だ。なら、私達に貢献するのが当然だろ?」
「はあ」
そういえばモグラがチラッと言っていた気がする。
三日月は積極的に誰も行ったことのない場所の攻略に乗り出しては、詳細な攻略情報を広めていると。
それだけ聞くとすごく立派な団体だ。
実際、大勢のプレイヤーが助かっているのも事実らしい。
だけど、狩場でのマナーはあまり良くない。
他のプレイヤーに対しての傲慢だったり高圧的な態度が目立つそうだ。
モグラみたいに自力で調べたり、未開の地に突撃するプレイヤーからはあまり好かれていないとか。
「それでも、俺にこの家を譲れというのは聞けません。空き家なら他にもあるんじゃないですか?」
「こんな村にあるボロ家自体に興味はない。それはここも同じだ」
「え?」
「マスターが欲しいのは、あの変なイカや宝石みたいなハーブが生えてる畑と、裏にある美しい城だ。買い取るからには、この村で寝泊りする際の宿くらいには使うだろうけどな」
「いくらなんでも失礼じゃ――タマ!!」
「っ!?」
余りにも腹立たしい言い分に文句を言おうとした。
が、家の中から飛び出してきたタマを抱えて止める。
いつになく怒っている。
こんなに怒ってるタマを見るのは、おろし金が馬鹿にされた時以来か?
「タマ達の家を馬鹿にするのは許さない!」
「なんだお前、私達とやろうっていうのか!?」
ムラマサはあまり動じていないようだ。
俺が止めたせいでタマの恐ろしさが分かってないんだな。
この子、殺る時は殺りかねないんだぞ?!
伸びきる寸前の拳はムラマサの顔面を直撃する軌道だったと思う。
寸止めの可能性もあったけど、それと同じくらい殺してしまう可能性もあったから、思わず止めてしまった。
やっぱり、殺人に対して忌避感があるからな。
ゲームとは言っても俺達にとっては第二の人生だ。
よほど悪意をもって攻撃された時以外は、殺すまでしたくない。
しかし、止めずにいて、よくやったとタマを褒めてやりたい気持ちも確かにある。
やるにしてもタマを止めたうえで俺がやるのが、大人としての責任だと思うけどな。
怒ったタマを見て逆に冷静になれた。
「タマちゃん!? ナガマサさん、どうしたんですか?」
「この人が失礼なことを言うからタマが怒っちゃってね。ちょっとお願いしていい?」
「はあ!?」
「分かりました。タマちゃん、あっちへ行こう」
「うー……」
タマを追いかけてミルキーもやって来た。
抑えているタマを預ける。
どれだけ怒っていてもタマは優しい。
止めようとする俺やミルキーを乱暴に振りほどいたりはしない。
やろうと思えば出来る筈なのにな。
「俺達はこの家を大事に思ってるんです。帰ってください」
「私達のマスターに逆らうとはいい度胸だな! 覚悟しておけよ!」
ムラマサは怒り心頭で帰って行った。
こっちだって怒ってるんだぞ。
タマが先に爆発したから冷静になれたし、まだあの段階じゃ怒鳴ったりしてなかっただろうけど。
タマには感謝しかない。
機嫌を直してもらって、あんな奴のことは忘れてしまおう。
こういう時って玄関に塩を撒くんだっけ?
塩はそれなりに高いらしいから、怨念だけ振りまいておこう。
普段通り過ごす内に、なんとかタマの機嫌が直った。
夕飯も食べたし、後はお風呂に入って寝るだけだ。
身体が汚れたりすることはほとんどない。
ゲームの世界ってすごい。
だけど、お湯に浸かるのは気持ちいいからお風呂へは入る。
一人でゆっくり湯船に浸かるなんて初めてだったから、毎日が楽しいしな。
そういうプレイヤーに向けての優しさなのか、この家には世界感を無視したお風呂が備え付けてあった。
ゲームの世界ってすごい。
そんなゆったりとした時間の中で、またしてもノックの音が響く。
うわぁ、これ絶対さっきの奴だ。
もしくは≪三日月≫の他のメンバーか。
またさっきのムラマサみたいなのだろうし、相手するの嫌だなぁ。
話通じないし。
売る気ありませんって言われたらそうですか、で終わる話じゃないのか?
タマもミルキーもさっきまで笑顔だったのに、微妙な顔になってしまった。
ミルキーだけ除け者にするわけにもいかないし、さっきのやりとりを説明してある。
思った通り、怒っていた。
俺やタマと同じようにこの家のことを大事に思ってくれてるってことで嬉しいが、出来れば巻き込みたくなかった。
それはそれでミルキーに失礼な気もするし、難しい。
どんどんとノックの音が大きくなっていく。
現実逃避してても仕方ないか。
ゆっくりと玄関へ向かう。
玄関に辿り着くまでの間で帰ってくれないかな。
0
お気に入りに追加
1,191
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった…
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる