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149 畑とタコ
しおりを挟む昨日は賑やかな夜だった。
出汁巻玉子の相棒はとんでもないことになってたな。
出来れば関わりたくない。
出汁巻はまだいいんだけど、下半身のあれは嫌すぎる。
正体を現したからかあのパンツ、ずっとパンツパンツ言ってたからな。
恐ろしい。
今日は、昨日に引き続いて心臓狩りだ。
≪ダイヤモンドクイーン≫に依頼されたのは、異次元に封印された大海魔の討伐。
その大海魔を呼び出す為に必要なのが≪宝石の心臓≫というドロップアイテム。
500個集めないといけないから、昨日一日じゃ達成できなかった。
今日は集めきって討伐まで終わらせたい。
昨日のドロップアイテムを売ったお金だけでも、結構な稼ぎになってるしな。
ああ、そういえば試したいことがあったんだ。
昨日とあることを思いついて、昨日の時点では上手くいった。
後は今日の実験次第だ。
うまくいくといいんだけど。
「モジャー! 朝モジャー!」
「おう、おはようタマ」
布団にこもったままゴロゴロしてたら、タマに見つかった。
もうちょっとだけうだうだしてようと思ったけど起きるとしよう。
ベッドから降りて装備を整える。
よし、準備完了だ。
畑に向かうとするか。
時間は朝6時。
朝日が眩しい。
今日もいい天気になりそうだ。
畑エリアに向かって歩いていると、ちらほら人の姿を見かける。
こんな時間から働き出してるのか、早いな。
俺は偶々目が覚めただけだからカウントしない。
「あらおはよう」
「おはようございます」
「おはよー!」
「タマちゃんは朝から元気だねぇ」
「タマはいつも元気だよ!」
出会ったおばあさんと挨拶を交わす。
このおばあさんはウチの近所に住むおばあちゃんだ。
引っ越しの挨拶で出会った。
タマにも優しくしてくれる、いいお婆ちゃんだ。
「畑にももう人が居る。農作業はやっぱり朝早くから始まるんだなぁ」
「モジャも植える?」
「モジャは植えない」
畑エリアに到着した。
ここにもそれなりに働いてる人の姿がある。
これからは俺も農家の仲間入りが出来る筈
楽しみだなぁ!
目の前には、俺達専用の畑が広がっている。
ここに来たのは、とあるものを植える為だ。
畑の管理ウインドウを呼び出す。
とりあえず選択画面を出して、っと。
お、いける。
思った通り出来るようだ。
そういえば土もいじれるんだったな。
せっかくだし耕してみるか。
道具は今度揃えるとして、今日はどうするかな。
「タマ、おろし金を呼んできてくれるか?」
「らじゃー!」
タマの姿が消える。
瞬間移動を駆使して呼びに行ってくれたらしい。
「ただいまー!」
「キュルル!」
十数秒で帰ってきた。
中学生くらいの女の子が、3mくらいの大きなカナヘビを頭上に掲げている姿はすごい光景だな。
「よし、頼むぞおろし金」
「キュルア!」
「タマもやるぞー!」
ドラゴンモードになったおろし金がうちの畑に入る。
そしてその立派な爪で土を切り裂いた。
おー、すごい勢いで耕してる。
傍目で見たら怪獣が暴れてるように見えなくもないが、これも立派な畑仕事だ。
タマも負けじとすごいスピードで畑を耕している。
素手で。
これはこれですごい。
俺も真似してみたら、素手でも案外耕せた。
爪の間に土が入らないのはこの世界のいいところだ。
でもやっぱり道具は欲しい。
二人と一匹で畑を耕していると、鎧と槍で武装した人がおぼつかない足取りで走ってきた。
何かと思えば、昭二だった。
「あー、やっぱりナガマサさんだったかぁ」
「あれ、昭二さん。おはようございます」
「おはよー!」
「キュルル」
昭二は、畑にドラゴンが出たと聞いて慌ててやって来たそうだ。
また迷惑をかけてしまったらしい。
「すみません、まさか騒ぎになるとは」
「いや、儂の方こそ移動専用かと思ってたんでな。改めて村の皆にはおろし金のことを話しとくけん。畑仕事まで手伝ってくれるたぁ、良い子だなぁ」
「キュルル」
許してもらえた上に、怖がられないようにしっかり話をしてくれるらしい。
良い人で良かった。
「それじゃ儂は行くよ。自分とこの畑も見にゃならんからのう」
「あ、すみません、ちょっとだけ教えてもらっていいですか?」
「なんじゃかいな?」
「畑で作物を育てようと思ったら、何をするのがいいですか?」
「そうかぁ、耕してたってことは何か育てるんじゃな。ナガマサさんらは畑は初めてか?」
「はい」
「それなら、肥料を撒くのが手っ取り早いのう」
「肥料ですか」
「土に混ぜてやると育ちが良くなるんじゃよ。また分からんことがあれば、何でも聞きんさい」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとー!」
昭二は槍を杖代わりにして去って行った。
迷惑をかけたが、色々教えてもらえて良かった。
「肥料か、何かあったかな」
「モジャ撒く?」
「撒かない」
ストレージを漁ってみる。
肥料になりそうなものがないかな。
装備や料理の買い溜めは除外。
素材系はどうだろうか。
肥料って鳥や牛の糞で出来てるんだっけ。
そういう栄養のありそうなものは持ってないな。
俺のストレージには、≪輝きの大空洞≫で得た宝石や結晶系の素材ぐらいしかない。
貝殻を砕いて撒くっていうのを何かで見たことがあるし、結晶を砕いて混ぜてみてもいいんじゃないか?
よし、そうしよう。
「おろし金、これを砕いてもらっていいか?」
「キュルル」
結晶系の素材をおろし金の口の中へ。
バリバリゴリン、ゴリゴリゴリゴゴゴゴゴゴ。
適当な袋に粉末になった結晶を戻してもらう。
無事に粉末になってから気付いたけど、唾液とかはないみたいだな。
流石ゲーム。
用意した粉末を畑に撒く。
そして再び耕す。
空気と土と粉末をよく混ぜ合わせる。
ふぅ、いい汗をかいた気分になった。
土のレベルは6になっている。
みんなで頑張った甲斐があったな。
それじゃあいよいよ植えるか。
昨日買ったハーブや、採集した植物を端の方へ植えていく。
だけどスペースはまだまだ余ってるし、今日のメインはこれからだ。
俺はとあるアイテムを取り出した。
それは≪コイン:貝烏賊飯蛸+≫だ。
+がついてることから分かるように、テイム済のコインだ。
ノンアクティブしかテイム出来ないから、本来は弱いモンスターしかテイム出来ない仕様だ。
だが、貝烏賊飯蛸はMVPモンスターでありながら、≪古代異界烏賊≫を呼び出すまでの短い時間は俺達に見向きもしない。
つまり、ノンアクティブだった。
そのことに気付いてテイムを試してみたら、上手くいったわけだ。
だけどまだ続きがある。
畑に植える物として、このコインを選択する。
さぁ、どうなるか。
畑の中央に、俺の頭くらいの大きさのタコが現れた。
キョロキョロと辺りの様子を窺っている。
無事に畑に植えることが出来たようだ。
普通に土の上にいるだけにしか見えないが、設定出来たということは成功だろう。
「おお、出来た。名前はどうしようかな」
「タマが付ける!」
「そうか、じゃあ任せた。何にする?」
「ピンポン玉!」
「今日からはお前はピンポン玉だ、よろしくな」
ピンポン玉は足を振って俺の声に反応した。
名前を付けてもらって喜んでいるようだ。
土に馴染んだのか、ピンポン玉は地面へ潜って行った。
試しておいてなんだけど、これどうなるんだろうな。
時間はもう8時か。
家に帰って心臓を狩る準備をしないと……相変わらず字面が悪い。
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