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119 ごり押しと爆発

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 確かに王様は、俺とミゼルを結婚させたくて仕方がないようだ。
 というか本当にちゃんと説明したんだろうな。
 悪い奴ではないんだが、あいつもいまいち信用出来ない。
 王様にどう話を切り出すか。

「ぐふっ」
「パシオンの生春巻きー」

 大きな布です巻きにされたパシオンが運ばれてきて、王様の隣に放り投げられた。
 扱いが雑でも一応親族席らしい。

 気絶したまま布で包まれてる状態は、果たして出席と言っていいのか謎だな。
 タマ、もしかしてお腹減ってるのか?
 ミゼルがちょっと笑ってるんだけど、この世界にも生春巻きはあるのかな。

「王様、すみませんが俺は、ミゼル様に結婚を申し込んだつもりはありません。あのネックレスは単に誕生日のお祝いで、そういう意味があると知らなかったんです」
「ふむ、どうやらそのようだな」

 王様は穏やかに頷いた。
 なんだ、普通に聞いてくれそうだ。
 やっぱりパシオンがシスコンを拗らせて何か勘違いをしただけなんじゃないか?

「なので結婚は――」
「ナガマサ殿、お主はミゼルのことが気に入らないというのか?」
「え?」
「ミゼルのことが気に入らないのかと、そう聞いておるのだが?」
「そんなことはありませんけど」

 一体どういう話の流れだ?
 気に入らないなんてことはないけど、そもそも余りよく知らない。
 何度かタマやパシオンと一緒に話はしてるから、はっきりものを言うけど優しい子だと思っているが、その程度だ。

「では結婚だな」
「はい?」

 王様の結論は実にシンプルだった。
 マイナス感情が無ければそれでいいのか。結婚ってそういうものなのか?

「ナンジ、ナガマサはぁ、ミゼルでんかをォ、ヤメるトキモぅ、すこヤ」
「いやいやいや、ちょっと待ってください!」
「オーゥ」

 俺が混乱してる間に喋り出した神父に待ったを掛けると、大げさに肩を竦められた。
 NPC達はみんな西洋風のキャラなのに、なんでこの神父だけアメリカンな片言で喋るんだよ。
 キャラ付なのか?

「不満がないのならいいだろう? せっかく城へ寄ったのだ、結婚していくといい」
「そんな夕食に招くくらいのテンションで結婚を勧めないでください」
「じゃあどうしろと言うのだ」
「結婚させようとするのをやめてください」

 この王様、見た目は威厳たっぷりの王様のテンプレみたいな感じなのに、中身はパシオンとそんなに変わらない気がする。
 ミゼルコンという意味ではなく、会話のテンションというか雰囲気がだ。

「お父様」

 ミゼルが王様へ声を掛けた。
 なんか威圧感がすごい。というか俺が来た時から既に不機嫌そうな顔をしていた気もするが、それが悪化している。
 というかもう怒ってないか?

「どうしたのだ、ミゼルよ」
「私やお兄様が申した通り、やはりナガマサ様は結婚の意志があってこのネックレスを下さったわけではないようですわ」
「そのようだが、事実は事実として利用しない手はないだろう」

 この王様、今利用ってはっきり言ったぞ。
 パシオンが言っていた、おろし金との繋がりを強くする為に結婚させたがってるって話は本当だったんだな。疑って悪かった。

「いい加減にしてくださいお父様!」
「おおっ?」
「ど、どうしたのだミゼルよ。ナガマサ殿との結婚は嫌なのか? さっきは乗り気だったではないか」

 ミゼルが爆発した。今まで聞いたことのない大声だ。
 びっくりして思わず変な声を出してしまった。
 王様も声に驚いたのか、それとも普段大人しいミゼルの態度に驚いたのか、狼狽えているように見える。
 ってなんてこと聞くんだこの王は。

「こんなの嫌に決まっています!」
「うっ」

 ミゼルの返答に、俺の精神的な部分が大きなダメージ。
 弱点な上にクリティカルヒットだ。

 よく知らない相手と結婚させられそうになったらそうもなるだろうけど、これって完全にとばっちりだよね。
 
 俺が何をしたって言うのか。
 ――事実上はプロポーズしたんだけど。
 ああ、なんてこった。
 普通に自業自得だった。

「ざまーみろー」
「もじゃーみろー」

 いつの間にか気絶から復帰していたパシオンが、俺に野次を飛ばしてくる。
 こいつ、すごく嬉しそうな顔をしてやがる。
 隣にはタマまでいて、よく分からないことを言っている。

「ナガマサ様が真剣に申し込んでくださるのなら喜んでお受けしますけれど、本人にその気がないのに私を口実にしようなどと、お父様は私を馬鹿にしているのですか!?」
「ぐふっ」
「そ、そういうわけではないぞ。しかし、儂は王家の為を思ってだな」

 俺が真剣だったらいいのか?
 よく知らない相手だから嫌だと言ったのかと思ったら、どうやら違うらしい。
 今度はパシオンがダメージを受けてがっくりと力尽きた。
 王様も、ミゼルの迫力に圧されてしどろもどろだ。

「ナガマサ様がその気は無いと仰っているのが分からないんですか? それでも押しつけようとされる私がどれだけ惨めか、お父様には分からないんですか? 人の心が無いんですか!? 恥を晒すなら私のではなく自分の恥を晒してはどうですかこの恥知らず!」
「み、ミゼルに嫌われてしまった……がくっ」

 畳み掛けるようなミゼルの噴火に、王様は両手と膝をついて項垂れてしまった。
 メンタル弱すぎないかこの男共は。
 王様は、王族なんだから王家の為に結婚するのは当たり前だ、くらいは言うかと思ったのにミゼルには甘いみたいだな。

「ナガマサ様、参りましょう」
「えっと、放っておいていいんですか?」
「馬鹿なお父様とお兄様など、捨ておけば良いのです」
「そうですか」

 ミゼルに促されて教会っぽい建物を出る。
 なんかすごく疲れた。
 城の門へ向かって歩きながらミゼルと話をした。
 勿論今回の件についてだ。

 男としては嬉しいことに、俺は政略結婚の相手として許容範囲だったようだ。
 守護竜扱いされてるおろし金の飼い主の持ち主(?)だし、あの魔王を倒したこともあって確かに王族としては取り込みたいだろうけど。
 その上で、ミゼルは俺の意思を尊重してくれたようだ。

 俺が思いつきで行動したばっかりに、変なことになってしまって申し訳ない。
 謝ると、気にしないで良いと笑ってくれた。

「本人にその気が無いのにお父様に押し売りされることを許せないのは、私の王女としての誇りの問題ですので」
「なるほど」
「ですから……いつかもう一度、本当の意味でスファレライトのネックレスを頂けるよう努力いたします」

 少し照れながら笑うミゼルの表情は、太陽に輝く黄色い宝石のようだった。

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