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113 仕返しと完全勝利
しおりを挟む俺の頭上に『Win!!』の文字が躍っている。
壁も消えて、野草のHPも回復している。
本人の意識は行方不明みたいだけどな。
死んではいないと思う。多分。
「おいなんだよさっきのスキル」
「俺も斬られたかと思った……」
「見たことないぜあんなの」
「野草って結構強いって話だよな!?」
「俺あのナガマサってプレイヤー見たことあるぞ! ワールドクエストがクリアされた日のパレードに、ミゼルちゃんのすぐ後ろの馬車に乗ってた!」
「マジか……。それじゃあワールドクエストをクリアした奴かもしれないのか?」
「あんまり強そうに見えないのに」
「モジャり大明神」
「でも今の見ただろ。あの野草がああまで一方的に負けるなんて、相当強いのは確かだ」
「おい今の誰だ」
プレイヤー達の声が聞こえてくる。
さっきまで聞こえなかったのはなんでだろうか。
っていうか今タマが混ざってなかったか?
しかも大昔のネットで流行ったネタのアレンジっぽい。
どうしてそんなもの知ってるんだ。
「ちょっとそこどいてもらえませんか!」
「どきなさいよ!」
「全員が戦うまで終わらないって話だろ」
「そうだそうだ! 相手が強かったら逃げるのか!?」
「ぐぅっ……!」
ミナモ達の方を見ると、女二人が逃げようとして野次馬にブロックされていた。
馬鹿だなぁ。
「次は誰ですか?」
「僕が相手をします。ミナモさん、孔雀さん、安心してください。さっきのはただのマグレですよ」
「ゆーじ君! あんな奴ぼこぼこにしちゃって!」
「もちろんそのつもりです」
ミナモが、ゆーじの宣言に元気を取り戻した。
その元気がどこまで続くか楽しみだ。
ゆーじに決闘の申請を贈る。
「……これは、設定がおかしくないですか?」
「ん? ビビってるんですか? さっき野草から受け取ったやつそのままですよ」
「……受けて立ちますよ、この卑怯者!」
なんで同じことをしてるだけなのに、俺が責められないといけないのか。
相手に対してするってことは、し返されても文句は言えない筈だ。
とはいえ、ゆーじは拒否や変更を要求することは出来ない。
野草が気絶したのを見れば、ペインフィルターが0に設定されてるのは明らかだしな。
そして二戦目が始まった。
「滅魔刃竜剣!!」
「うわあああああああああ……!!」
二戦目が終わった。
大ダメージを受けたゆーじも野草と同じように崩れ落ちた。
そして同じように気絶している。
もし痛みがダメージで決まるとしたら、どれくらい痛いんだろうな。
数字が9999999でカンストしてたんだけど。
多分表示の仕様で、実数値は更に越えてると思う。
「あと二人だな。で、どっちが先がいいですか?」
「孔雀、あんた行きなさいよ!」
「はぁ!? あんたが絡んだんだからあんたが責任とりなさいよ!」
「言っとくけど、どっちも何もせず終わらせる気は無いです。どっちが早いかの違いでしかないから、早く決めてください」
言い争いを始めた二人に俺の気持ちを伝えておく。
全員許すつもりは無い。
特にミナモは厳しくいくつもりだ。
順番はどちらでも良いが、それ以上急かさないのはわざとだ。
時間を掛けてもっと怯えてもらった方が楽しいからな。
「私は支援職なのよ! 一人で戦えるわけないじゃない!」
「そこの孔雀さんは?」
「わ、私は魔法職よ」
「じゃあ二人まとめてでいいですよ」
ミナモは確かに神官のような格好をしているが、一人で戦えない?
それならなんで野草は全員で戦うようなことを言ったんだ?
決闘の申請を贈る。
今回は設定を少しだけ変えてある。
参加人数の部分だけを、向こうが2になるようにした。
「レックスエテールナ!」
「ファイアジャベリン!」
俺の頭上で剣のエフェクトが光ったと思った瞬間、炎の槍が着弾した。
ダメージは2。
俺達はミルキーのスキルの効果で魔法耐性が100%だ。
だからどんな魔法も1ダメージしか食らわない。
それが2になってるってことは、あの剣か。
どうやらダメージを2倍にする支援魔法のようだ。
「ファイアジャベリン!」
次の直撃は1だった。
あの支援は直後の一回だけか。
孔雀の魔法攻撃を無視してミナモの方へゆっくり向かう。
「ちょ、ちょっと来ないでよ!」
「俺はすごく怒ってるんだ。覚悟しろよ」
「私は悪くないでしょ! 心配して言っただけなのにミルキーさんが――」
「そんなこと関係ない」
「はぁ!?」
「俺がお前の言動に怒ってるから、お前にぶつけるだけだ。お前が悪いかどうか何て、関係ない」
そう、もう誰が悪いとかっていう話じゃない。
俺がムカついてるから、怒ってるだけだ。
ここは現実世界とは違うんだ。PKするならともかく、決闘システムっていうルールに従ってる以上は、俺が止まる理由が無い。
ぶちかます理由は十分あるしな!
「気功法! 六道踏破!」
「うあああああ!!」
三度目にもなる二つのスキルを使用したところで、ミナモが殴りかかってきた。
相変わらず避けなくても全く痛くない。
が、割と様になってるところを見るに、こいつ前衛型だな。
しれっと戦えないみたいなこと言いやがって、とことんムカつくやつだ。
「滅魔刃竜剣!」
「びぎゅふ!?」
渾身の必殺剣でミナモは力尽きた。
やっぱり気絶してしまっている。
前の二人もそうだが、ゲームで良かったな。
現実だと色々漏らしてるぞ。
だが、まだ決着とはなっていない。
もう一人残ってるからだ。
「ひっ!?」
「孔雀さん、しばらく大人しくしててくれたら、なるべく優しく倒しますよ」
「――!!」
俺の提案に無言で頷いてくれた。
倒れているミナモに手を翳して≪無刀両断≫を発動する。
反応はないし、ヒットしたエフェクトや音も発生しない。
どうやら、HP1で倒れているプレイヤーにダメージは入らない仕様のようだ。
残念。
もし出来たら延々とスキルを撃ち込んでやろうとおもったのに。
「気功法! 六道踏破!」
「さ、さっき優しくって――!」
「あんた達にはこれで優しくしてる方なんですよ。滅魔刃竜剣!」
孔雀もきっちり仕留めたところで決闘が終了した。
あー、うん、結構スッキリした。
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