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97 シエルと採集依頼

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「それで、一体どうしたんですか?」

 酒場へと場所を移した俺達は、青年の話を聞いた。
 街の人々に比べて若干身なりの良い、この青年の名前はシエル・ホワイト。
 この街に住む貴族、ホワイト家の次男だという。

 貴族だというのに、このシエルという青年からは偉そうな態度を全く感じられない。
 パシオンとは大違いだ。

 それどころか、かなり腰が低く感じられる。
 まともそうだし、テンプレみたいな貴族ばかりではないようだ。
 パシオンのライバルみたいなやつはうざかったからな。
 魔王になるし最悪だった。
 おろし金の手でボコボコに出来たっていう点では、モンスターで良かったけど。

「実は僕、昔から小さい子と緑色のものが大好きなんですよ! それで、緑色の髪が綺麗なアルシエ・グリーンという女の子に出会って、この子に婿入りすれば僕の名前もグリーンになるし最高じゃんって思ったんです。だけど、肝心のアルシエちゃんに相手してもらえなくってですね……。ああ、あの美しい緑色の髪に埋もれたい! どうして僕の髪は白いんでしょうか!」

 まともじゃなかった。
 貴族はこんなのばっかりか!
 喜べパシオン、仲間だぞ。
 ミルキーも若干引いている。

「それで、プレゼントして気を引く為に宝石を探していたと?」
「そうです。今朝購入したミニクラウンもアルシエちゃんに渡す為に買ったんですが、拒否されてしまいました。もっと良いものでないとダメなんだと思います!」

 ダメなのはシエルの頭だと思うが気のせいか?
 でも顔は悪くないし貴族で金もあるだろうし、本当にプレゼントが気に入らなかっただけかもしれない。

「そのアルシエちゃんという方は、貴族なんですか?」
「はい。偶然にもこの街の貴族だったようです。ホワイト家とグリーン家は交流はなかったのですが、先日行われたパーティーにて一目惚れしました」

 その後延々とアルシエちゃんのことを語られた。
 長い。
 なんとか遮って依頼の話に戻した。

「結局、何が欲しいんですか?」
「あ、はい、すみません! 彼女の髪のように煌めく、素敵な緑色の宝石を持ってきていただければと思います」
「彼女の髪と同じようにっていうのはちょっと……約束出来るか分からないです」

 明らかに、シエルの緑色に対するこだわりは尋常じゃない。
 アルシエという女の子の髪に対しても、それは同じだろうことがひしひしと伝わってくる。
 そんな髪のようにって、納得させられる自信が無い。

 俺の弱気な発言に、シエルの顔がどんどん悲しげに崩壊していく。

「そんなぁ!? それじゃ駄目です! しっかり彼女の髪を観察してから出発してください!」
「えぇ……」
「今から見に行きましょう!」

 やばい、こいつはやばいやつだ。
 パシオン並の変な方向への熱意を感じる。
 そしてシエルは俺の腕をがっしりと掴んで歩き出した。
 振りほどけない。
 もしかしてクエストの強制移動か何かか!?

 どれだけ抵抗してもシエルの歩みを止めることは出来ず、グリーン家の屋敷の前まで来てしまった。
 簡易的な柵しかないからって、そこから敷地内を眺めてるのは不審者としか言えないんだけど。

 プレゼントはサプライズだから、ばれないようにとこういう形になった。
 タマとミルキーは離れたところで待機している。
 どうせなら一緒にいてほしい。

 しばらくそうしていて、アルシエの姿を見ることが出来た。
 確かに綺麗な緑色の髪をした少女だった。

 10歳くらいに見えるんだけど、これは大丈夫なのか?
 成人は16歳だったはずだからアウトな気はするが、中世風味の世界感なら問題ない、のか?

「ああ、アルシエちゃんは今日も可愛いなぁ。緑色の髪が太陽の光で輝いてもうギャラクスィ」

 こいつの存在はアウトだ。
 間違いない。
 アルシエと会ってる時のテンションは分からないが、今のこの気持ち悪い横顔を見てるとまともだとはどうしても思えない。

「もうばっちり確認出来たので行きましょう」
「えええ!? もっとアルシエちゃん成分を目から補給しないと、僕干からびちゃいますよ」
「いいから行きますよ!」
「ああぁ!?」

 いい加減キリが無いから、シエルを引きずって無理矢理離脱した。
 全く、とんでもない奴だ。
 この街の貴族のNPCを設定した奴はちょっと出て来い。
 ≪裂空指弾≫一発で許してやるから。

「それではよろしくお願いします!」
「それじゃあまた。すぐに拾えるかどうかは運だから祈っててください」
「またねー!」

 改めて報酬の話をした後にシエルと分かれた。
 緑色の宝石は多分ジュエルマン(緑)が落としてくれるだろう。
 今日の狩りで拾えるかどうかは運次第だが、多分大丈夫なはずだ。

 報酬はお金と、前払いとして≪ミニクラウン≫をもらった。
 今はタマの頭に乗せられていて、お陰様でタマが上機嫌だ。
 変な奴というか変態だったけど悪い奴ではないし、依頼は達成出来るよう頑張ろう。
 元々あの洞窟に行くつもりだったから、ついでみたいなものだしな。

 俺もミルキーも転職したわけだし、新しい職業のスキルとかも楽しみだ。
 解放スキルも進化した。
 レベルがどこまで上がるかな。
 さくさく上げてあの烏賊も瞬殺出来るくらいになれば安泰なはずだし、レベル上げ頑張ろう。

 ある程度レベルが上がったら、お金を稼いで拠点も買いたい。
 どんどん理想の生活が近づいてる気がする。
 第二の人生、のんびり楽しむぞー!

「結構時間経っちゃったし、おろし金に乗って飛んでいかない?」
「まだ12時なんですね。私の感覚だと15時くらいでした……」
「お、おう」

 ミルキーはシエルの相手が結構堪えたらしい。
 アルシエのことを語ってる時間が、多分三分の一くらいの体感速度だったに違いない。
 顔が死んでたからな。

「狩りの前に何か食べてから行く? プレイヤーの屋台なら元気も出るだろうし」
「そうします!」
「ご飯だー!」

 まずは腹ごしらえだな。
 のんびり行こう。

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