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86 穴と触手

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「いた――くはないな。ミルキー、大丈夫?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」

 衝撃自体はあったからついつい口から出そうになるけど、痛みもダメージもない。
 とりあえず立ち上がってミルキーに声を掛けるが、ミルキーはちゃんと足で着地していたようだ。
 ちょっと恥ずかしい。

 まさか地面が崩れるとは予想外だった。
 タマ達とも逸れてしまったし、どうしようか。

 備えてたはずなのに油断した側からこれだし、ああもう、嫌になるな。
 というか、≪解放の左脚≫の効果で俺達は空中を蹴ることが出来る。
 慌ててしまったせいでそれが出来ずに、こうして落ちてしまった。
 ≪解放の左脚≫の練習をしていた時のミルキーと同じことをしたわけだ。
 即死の罠とかだったら取り返しがつかなかった。
 もっと気を付けないと。

「ナガマサさん!」
「――はっ!?」

 ミルキーの大声で考えていたことが飛んでいく。
 なんか、混乱していた気がする。
 慌ててミルキーの方を見ると、両手をがっしりと掴まれた。いや、掴まれたというよりは、包み込まれた?

「私達はこうして無事ですし、大丈夫です。ゆっくり考えましょう」
「あ……うん、大丈夫、落ち着いた」
「本当ですか?」
「本当だよ。ありがとう」

 ちょっと突然のことで気が動転していたようだ。でももう大丈夫。
 とりあえず落ちてしまったものは仕方ないし、現状をしっかり把握することから始めよう。
 ……ふむふむ、ミルキーの手は柔らかいな。

「な、何してるんですか!?」
「あ、ごめん、つい」

 俺の手を握ってくれていたミルキーの手を、逆に握って触っていたら引っ込められてしまった。
 ついつい触ってしまった。
 女の子の手の感触なんて関わりがなかったもので、つい。

 現状把握からと言っても今はこんなことをしてる場合じゃない。
 早くタマと合流しないと、山が更地にならないか心配だ。

 エリアの名前は≪古の穴≫となっている。なんの情報もない。
 俺達が落ちてきたところを見上げてみるが。真っ暗だ。そんなに長く落ちた気はしないのに、光は一切見えない。

「ちょっと上を見てこようかな」
「気を付けてくださいね」
「ミルキーもね」

 ゲームだからか、真っ暗闇の中でも完全に真っ暗にはならない。
 三m先くらいまではかろうじて見える。
 が、それ以上は見えない。
 何か明かりが必要だ。
 ストレージの中から、山で木をなぎ倒した時に拾った木片を取り出す。
 これの先端に火弾を当ててみたら火がついてくれた。
 とりあえずこれで明かりになるな。

 地面を蹴って上に跳び上がる。そのまま空中を蹴って上へ上へ。
 松明を突き上げながら空中を駆けていると、すぐに松明の先端が天井にぶつかった。
 俺達が落ちてきたような穴はどこにも見当らない。横の方にも移動してみたけどやっぱりない。

 あれは本来の出入り口じゃなくて、たまたま破壊してしまったのがすぐに修復されたんだろうか。
 昔のゲームではよくあったらしい、壁を通り抜けてしまうバグみたいな感じで。
 一旦降りよう。

 ミルキーに報告をして、相談する。
 結果、歩いて出口を探すことになった。
 今俺達がいるの場所は少し開けている。上に空間がある以外にも、前後にトンネルのように人が通れそうな穴がある。
 普通に考えるとどちらかが地上に続いてるはずだ。

「うーん、二分の一ならとりあえずこっちに行ってみよう」
「はい」

 見た目で大きな違いはない。どちらのトンネルも高さは3m程で、横も3mくらいはあるだろう。
 ほぼ丸いから位置によっては多少狭くなってるけど。

 適当に選んだ方へ進んでみる。ミルキーは俺のすぐ後ろを歩いている。
 横並びでもいいんだけど剣を振るう邪魔にならないよう気を遣ってくれてるんだろう。
 ダメージはなくても通り抜けたりはせずに普通に当たるから、PT狩りをする時は狭い場所では位置取りに気を付けないといけない。

 しばらく歩いていると、坂道になった。下りだ。普通に考えるとこっちは地上には向かわないだろう。
 でもしばらくすれば上に向くかもしれない。もう少し様子を見よう。
 更に歩くと、目の前に壁が立ちはだかった。
 だけど行き止まりってわけじゃない。

 その壁と俺の間には、ぽっかりと穴が空いている。
 大きさは今通っているトンネルと同じくらい。
 真っ直ぐ下に向いている。底は松明を翳したくらいじゃ見えないくらい黒い。
 こっちは外れだったか。

「ごめん、こっちじゃなかったみたいだ。戻ろう」
「はい」

 今歩いてきた道を戻る。
 最初に落ちてきた場所を通り過ぎて、反対側のトンネルへ。

 こっちも他の場所と同じく岩盤を削り取って作られたように見える。
 歩きながら触ってみると、そこそこ硬そうだ。少なくとも柔らかい土じゃない。
 一体誰が作ったんだろうか。

 特に何かに遭遇するわけでもなかったが、そこに希望はなかった。
 下り坂になり始めた時点で嫌な予感はしてたんだ。でも一応分からないしと歩いてたんだけど、やっぱりダメだった。

 俺の前には、さっきほどではないが、下に向かっていく穴があった。さっきのが垂直だとすれば、こっちは80°くらいか?
 あんまり変わらないけど、垂直ではないのは確かだ。
 ミルキーが穴を覗き込んでいる。

「どうしようか?」
「私は、ナガマサさんについていきますよ」

 判断に困って聞いてみると、丁度満足したのかミルキーがこっちへ寄ってきた。
 うーん。
 肩越しに今通ってきた横穴の先を見つめてみる。
 最初の直感を信じてみよう。手間だけど、なんとなくそんな気がする。

「それじゃあ最初に選んだ方に――っ!」
「えっ」

 ミルキーに向き直ったと同時に地面を蹴る。無意識に焦ったのか、剣を抜く間も惜しいと感じて手に持った松明を突き出す。
 踏み出した先はミルキーの背後。≪解放の左脚≫による瞬間移動でミルキーと背中合わせになる。
 突き出した松明は、ミルキーに迫っていた結晶のような質感の触手を弾き返して大きな音を立てた。

「きゃあっ!?」
「大丈夫!?」 
「だ、大丈夫です。何があったんですか?」

 大きな音に驚いたミルキーの悲鳴が響く。触手は大きくのけ反りながらも、下へ延びる穴の中へと吸い込まれていく。
 また飛び出てくるかもしれないから穴から目が離せない。

「とりあえず、一旦落ちてきた場所まで戻ろう」
「わかりました」

 穴を見つめたまま、先にミルキーをトンネルの中へ。
 さっきのは一体なんだったんだろうか。

 ただの木片とはいえ、全力で突いたのに砕け散らなかったということは、ただの雑魚ではなさそうだ。
 背後からの奇襲を警戒しつつ、俺達が落ちてきた地点まで撤退した。

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