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67 三枚目のコイン

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「ぐおおおおお!!!」

 ビキビキと音をたててヴェルスの身体が盛り上がっていく。
 なんのコインかは分からないけど、あれはかなりやばい感じがする。
 直接戦うことが出来るなら俺とタマで倒せるかもしれないが、それでも相当な被害が出そうだ。
 立場上騎士達も逃げないだろうし。

 「ぎははははは! 力が、力が溢れてくる!」

 すっかり姿が変わったヴェルスが嬉しそうに吠えている。
 4mくらいで身体全体がすっかり逞しくなった。
 細かった身体も立派な筋肉ダルマになってるとか、変わり過ぎだ。
 黒いオーラというか、電気みたいなものが表面をバチバチしてるのは単なるエフェクトか?

「うぐ……!」
「ミゼル!!」
「さぁて、パシオン、こいつの命が惜しければ出してもらいましょうか、貴様の持つコインもぉ」
「ぬ」

 ヴェルスはミゼルの首を鷲掴みにして、半分持ち上げてしまっている。
 苦しそうに必死にもがいているがミゼルの力では振りほどけないようだ。
 パシオンにもコインを要求してきた。
 完全に脅迫だ。
 というかコインってどういうことだ、まだあるのか?

「パシオン、あのコインを持ってるのか?」
「儀式には続きがある。その為に私も持たされていたのだ。≪闇の者≫の力が封じられたコインのうち、一枚を」

 まだ同じようなものがあったのか。
 そしてあいつはそれも狙ってると。
 あのコインは俺の持つ≪滅魔神竜コンヴィーク≫と同格に見えた。
 それを吸収した時点で、あいつに勝てる存在はそういないだろう。

「うー!」
「貴様らを殺して奪うのは容易いが、――大人しく寄越せばミゼルは無事に返してあげましょう」

 俺達を舐めてるならどうして解除して襲ってこないのか。
 今、唸っているタマの方をちらっと見なかった?

「分かった、渡す。渡すからミゼルには手を出さないでくれ」
「ダメです、お兄様……ああっ!?」
「まどろっこしい! コインは通るようにしてある。さっさとこっちに寄越せ!!」

 パシオンは心配しすぎて、今にも崩壊しそうな顔になっている。
 くそ、どうにかならないのか。
 このままコインを渡しても無事に済むかは分からない。
 ヴェルスも口調が乱暴になってきてるし時間もない。
 今も、パシオンを止めようとしたミゼルの脚を掴んで持ち上げてしまった。
 コインを渡すしか……コイン?

「パシオン様、コインを俺に預けてくれませんか?」
「なんだと? ナガマサ! 貴様、ミゼルがどうなっても良いとでも言」
「必ず助けます! ……だから、信じてください」
「――分かった。貴様の出鱈目な力を……いや、私の友を信じるとしよう」
「どうした、早くしろ!!」

『称号≪王族の友人≫を獲得しました』

 何か見慣れないメッセージが出たけど今は後回しだ。
 パシオンからコインを受け取る。

≪封印されたコイン≫
イベントアイテム
魔力の封じられたコインに更に封印を施した物。
二重の封印を受けても尚、強力な力を感じる。

 確かに同じようなものらしい。
 ボスクラスが何匹かいたんだろうな。

「ヴェルス、今からコインを渡す」
「ぐふふふふ、神滅のコインを二つも得ることが出来るとは、待った甲斐があった!」
「ほらよ。受け取れ!」

 ヴェルスのにやけた面に向かって一枚のコインを放り投げる。
 もちろん全力だ。

「この世界は俺様のもごぶぇっ!?」
「うぐっ、げほっ……けほっ」

 奴の言った通りコインは何の抵抗もなくあっさりと黒いオーロラを通り抜けて、ヴェルスのにやけ面に命中。
 貫通はしなかったが、大きく吹き飛ばすことに成功した。
 ミゼルも解放されて地面に投げ出され、その場で咳き込んでいる。
 
「めいちゅー!!」
「おいおい、すげぇ威力だな」
「相変わらずとんでもないですね」
「今だ! 逃げるのだミゼル!」
「ぐ……よくもダメージを与えてくれたな。しかし、この程度の攻撃では俺様を倒すことは出来ん! 二枚目のコインさえ手に入れば貴様ら等、敵ではない!」

 ヴェルスはすぐに瓦礫の中から這い出してきた。
 ただコインをぶつけただけだと威力が足りなかったらしい。
 それでも3割くらいHPが減ってるように見えるんだけどな。
 
「そのコインをよく見てみろ」
「コインがどうしぐっ!?」

 ヴェルスが顔面にめり込んでいたコインを摘まみ出したところで召喚する。
 俺の呼びかけに応じたおろし金が現れ、ヴェルスの顔にその角を突き立てた。
 俺が投げたのは≪封印されたコイン≫ではない。
 タマの下でエボリュート鎧カナヘビにまで成長した、おろし金のコインだ!
 さっき貶された恨みを百倍にして返してやれ!

「貴様ぁ、小賢しい真似をっ! トカゲ風情がぁ!!」
「いけー! おろし金ー!」
「キュルアッ!」

 ヴェルスが怒り狂っている。
 あと一歩のところでの不意打ちだからな。そうだろうそうだろう。
 もっと腹を立てろ。
 俺達の怒りはこんなものじゃないからな。
 タマの応援を受けて、おろし金の攻撃に熱が入る。

「所詮トカゲ程度、俺様の敵ではない!」

 しかし、流石に厳しいか。
 飛び退いて距離を取ったおろし金は、金属片を発射しての遠距離攻撃で攻めることにしたようだ。
 角での一撃があまり通じてなくて不利を悟ったんだろう。

 しかし、おろし金の攻撃はほぼ全て撃ち落されていて直撃はない。
 反対にヴェルスの闇属性魔法みたいなものも撃ち落してはいるが、全てではない。
 段々とおろし金の装甲が剥がれ、欠けていく。

 それでも、おろし金は一歩も引かない。
 金属の槍を発射し、角でヴェルスの攻撃を弾く。

「おお、おろし金が我々の為に戦ってくれている」
「何故逃げないのだ」
「ミゼル様をお守りしているのだ!」
「なんと、なんと気高い……!」
「おろし金ー! 頑張ってくれー!」

 おろし金の背後にはミゼルが動けないでいた。
 さっき脚を掴まれた時に負傷したのかもしれない。
 俺達は動けないし、ミゼルも逃げられない。
 そんな状況でおろし金は、ヴェルスを倒すことを選んだ。
 それなら俺は、全力でサポートしてやるだけだ。

「ナガマサさん、おろし金ちゃんが!」
「大丈夫、なんとかなる」
「まさか、あれを使うのか?」

 ミルキーに短く答えて、一枚のコインを取り出した。
 マッスル☆タケダはこのコインの存在を知っている。
 すぐに俺が何をしようとしているのか察したようだ。

「ふはは、雑魚がぁっ!!」
「ギュウッ」

 おろし金が思い切り殴られて、地面に叩きつけられる。
 それでも怯むことなく、追撃の拳を刃のように変質した長い尻尾を叩きつけて迎撃した。
 ヴェルスの身体ごと弾いて距離が空く。
 今の一撃で自慢の尻尾は砕かれてしまった。
 だが、今がチャンス。

「死ねぃ!」
「おろし金! 受け取れ! 裂空指弾!」


 ヴェルスが発射しようとしている闇を凝縮したような球体に向けて、≪滅魔神竜コンヴィーク≫のコインを指で思い切り弾く。
 スキルも合わせて威力を上げる。
 本来の指弾はオーロラで阻まれたが、少しは推進力にはなったはずだ。

「ぐぬぉ!?」
「キュル!」

 コインはまるで流星のように輝いて闇色の球体を貫いた。
 ついでにヴェルスの右腕を粉砕したところで弾かれて、宙を舞った。

 動揺しているヴェルスを後目におろし金が飛び上がり、空中で見事に口でキャッチした。
 おろし金の身体が光を放ち、光に包まれていく。
 さあ、思い切りやってやれ、おろし金!

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