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58 騎士団の帰還
しおりを挟むストーレの森04からストーレフィールド05まで戻ってきた。
そこからは待機していた馬車に乗って運ばれていく。
いやぁ、今日はハードだったと思う。
出汁巻も含めて、騎士達は全員ぐったりしていた。
馬車を見て安心から倒れこんで動けなくなった騎士達をタマと手分けして馬車に放り込むくらいには、死屍累々って感じだった。
あの激戦の後、ここまで歩いてきただけでも十分すごい。
時刻は17時を過ぎた辺りか。
暗くなる前に森を出られて良かった。
ストーレの森04を抜けるまではタマとおろし金が大活躍だった。
そんなに多くなかったが、寄ってくるモンスターを文字通り千切っては投げ千切っては投げ。
パシオンも引くくらいの蹂躙劇を繰り広げていた。
でもおろし金の成長を促す為か、タマの攻撃は控えめだった。
おろし金は散歩から帰ってきた時点で五mを越えていたように思う。
基準が無いから正確じゃないけど、大きくなっているのは確かだ。
そんな成長著しいおろし金は武者クワガタも苦にしない。
足軽クガワタごと蹴散らして素材を食べていた。
なんか腕の辺りにクワガタの顎みたいな刃が生えてるのも、成長の証だろう。
ストーレの森04から01まで到達した時点でおろし金は帰還させた。
アクティブモンスターがほとんどいないからな。
そして今は草原を走る馬車に揺られて帰る途中。
同乗しているのは出汁巻玉子と騎士二名。
三人とも横になったまま動かない。
生きてはいる。
「ナガマサさん、ありがとうございました」
「え?」
出汁巻玉子が何かを振り絞るように突然お礼を言った。
何事かと思って聞き返してみても返事はない。
今ので限界のようだ。
馬車に放り込んだことに対してのお礼だろうか。
暇つぶしに馬車の外を眺めることにした。
草原には初心者達の姿がある。
夜までの最後の追い込みもあるだろう。
心なしか、混み方がマシになっている気がする。
俺はこの辺りで狩りをすることはもうほとんどないだろうけど、やっぱり初心者の多さは気になっていた。
24倍の速さなのにこんなにタイミングが被るのも不思議だな。
ぼーっとしてる内に城へと到着した。
お出迎えはマッスル☆タケダとミゼル、ジャルージだった。
馬車から降りたパシオンがミゼルの元へ突進しようとしたところで、ジャルージが前に出て遮った。
あいつ、媚を売りたいのか死にたいのかどっちなんだ?
「パシオン様、よくぞ戻られました。ご無事で何よりです」
「ジャルージ、貴様には今日一日、城中の掃除を命じていたはずだが――もう終わったのか?」
「魔の森へと出向かれたパシオン様のことを思うと、居てもたってもいられず……」
「掃除に戻れ。明日も追加だ」
「パ、パシオン様!?」
「何か文句があるのか? これ以上ミゼルとの再会を邪魔するのであれば、これから一生地下牢の掃除をして暮らすことになるが、それでも良ければ言ってみるがよい」
「……はっ、それでは失礼します」
ジャルージは悔しそうに口を噤むと、引き下がって行った。
付き合いは長いんだろうしパシオンの怒る事くらい分かるだろうに。今のは俺でも分かるぞ。
バカなのか?
バカなんだろうなきっと。
「ミゼル! 今戻ったぞ!」
「おかえりなさいませ、お兄様。ご無事そうで何よりです。騎士団の方々は」
「無論、全員無事である。騎士団の者の心配までしてくれるとは、ミゼルには慈愛の女神が宿っているに違いない!」
「無事、ですか? とてもそうは見えないのですが……」
ミゼルはパシオンの飛躍した発想にはノータッチだ。
もう慣れてしまったか、相手をするのが面倒なんだろう。
そして困惑している。
それはまぁこの光景を見ればな。
騎士団の面々は満身創痍だ。
城の兵士や騎士達に肩を借りて中へ入っていく者も多い。
誰もろくに喋らないし、何人か死んでてもおかしくない空気ではある。
「しっかりしろー! 死ぬなー!」
ちなみに、今の元気いっぱいの台詞は騎士を運ぶお手伝いをしているタマのものだ。
屈強な男達を三人まとめて担いでいる。
「本当に皆さん無事ですよ。ただちょっと疲れてしまっただけで」
「まあ。ナガマサ様がそう仰るなら本当に大丈夫なのでしょうね」
「何故私の言葉では信用しないのだ」
仕方ないのでフォローにまわった。
信じてもらえないのも不憫だからな。
だけど何か不満げに睨まれた。
それはきっと普段の行いのせいじゃないか?
パシオンはミゼルに任せておこう。
こっちはタケダにも挨拶をしておかないと。
「よう、無事だったか」
「はい。俺はほとんど何もしていませんが」
「怪我がないのが一番だろ」
嬉しいことを言ってくれる。
でももっともだな。
これからも安全第一でいこう。
「で、素材は採れたのか?」
「はい、ばっちり倒して捥ぎ取って来ましたよ」
目的である将軍クワガタの甲殻はドロップしてくれた
出汁巻と騎士達の奮闘の成果だ。
もしこれで落とさなかったらまた明日行かないといけなかったし、拾えてよかった。
「ようし、それならここからは俺の仕事だな」
「任せたぞ、マッスル☆タケダよ」
「おう」
タケダは張り切っているようだ。
職人の顔だ。
そしてミゼルに逃げられたパシオンがこっちに来た。
キメ顔してるけど情けないぞパシオン。
ま、確かに俺の仕事はこれで終わり。
後はタケダがミゼルの為の装備を作るだけだ。
「それで、どのくらいで出来上がる予定だ?」
「準備は万端だからな。明日の夕方には出来上がるだろうさ」
「そうか。では明後日のミゼルの誕生日に間に合うな」
明後日って、マジかこいつ。
詳しく聞いたところによると、記念すべきミゼルの成人の儀式に相応しいとパシオンが納得出来る衣装が見つからなくて、ギリギリになってしまったそうだ。
拘るのはいいんだけど遅れたら意味ないんじゃないか、と思う。
でもずっと探し回ってたお陰でタマの装備を見つけて、こうして納得のいくものが作れる状態にまでなったんだから、人生って分からないな。
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