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57 騎士団vs将軍
しおりを挟む奥の手を見せた出汁巻は、二人の騎士のサポートがあるとしても見事に将軍クワガタの猛攻を凌いでいる。
ダメージを与えるのは火力担当の騎士に任せて、抑え込むことに専念出来ているのも大きいんだろう。
受け流したりするスキルとかもあるかもしれない。
ドヤ顔で説明してくれたパシオンによれば、あの状態は身体能力が飛躍的に向上するらしい。
ただ、制限時間があって五分しかもたないんだとか。
五分で残りのHPを削り切れるんだろうか。
時間との戦いだな。
騎馬武者クワガタは起き上がる前にきっちり仕留めてある。
具足クワガタの方も、マフィーがきっちり仕留めてくれている。
あの人も有能だよな。
さすが精鋭。
どうして団長はあんななのか。
ついでにいうと副団長もやばい。
強いし気さくないい人なんだけど、絵面がやばい。
今も激しく動き回りながら戦っている。
全裸?
股間の部分は光が張り付いたようになってて確認出来ないが、全裸にしか見えない。
勿論確認したい訳じゃないぞ。
本当に、よくみんな真面目な顔して戦っていられるよな。
もし出汁巻とパーティーを組んでて、突然あの格好になったらまともに狩りなんて出来る気がしない。
「マジカルスラッシュ!」
あの光る猥褻物のことは忘れよう。
新しく取得したスキルの試し撃ちだ。
これは魔法攻撃力を剣に上乗せして攻撃するアクティブスキルだ。
剣は靄のような、半透明の炎のようなものを纏っている。
これが魔法攻撃力か?
突っ込んで来ていたソードビートルは粉々に砕け散った。
魔法っぽい部分も一緒に霧散した。
これだけだと少し強い攻撃をするだけのスキルのように思える。
次だ。
「マジカルスラッシュ!」
新しく現れた遠くの位置にいるクワガタ弓兵を狙って剣を振るう。
剣に纏われていた魔力の炎が三日月型の斬撃になって飛んでいく。
軌道は真っ直ぐだけど、その速さは結構なものだと思う。
クワガタ弓兵は上下に分かれて倒れた。
周辺のモンスターももうほとんどいないな。
さっきからチラホラとしか寄って来てないし。
なんでだろうね。
「もう一息だぞ! ふんばれ!」
将軍クワガタの攻撃は激しい。
大きな刀による直接攻撃も鋭いし、地属性魔法らしい攻撃の頻度も多い。
今も空中に出現した大量の礫が出汁巻達を襲う。
出汁巻は直撃する礫だけを剣で弾いて、距離を詰めていく。
二人の騎士は盾を構えてどうにか凌ぐ。
減ったHPは支援担当が即座に回復させていく。
回復魔法は便利だ。
それでもやっぱり強敵と戦うのはしんどいんだろう。
騎士達の顔は疲労が濃い。
それでも出汁巻を一人で戦わせることはない。
前衛の二人は出汁巻に続いて、将軍クワガタの攻撃の嵐へ飛び込んでいく。
後衛の騎士達も、それぞれの役割を精一杯果たそうと全力を尽くしている。
やっぱり仲間っていいな。
俺も仲間と全力で、この世界を生きていきたいと、本気で思う。
……感傷に浸ってないで、今は出来る事をしよう。
他のモンスターの迎撃は……もうソードビートルが一匹しかいない。
今はマフィー一人で十分そうだ。
仕方ないからアイテム拾いを手伝おう。
そこら中にアイテムが散らばってしまっているが、しばらく放っておくと消えるらしいし。
尖った三角の破片を手に取る。
≪欠けた矢じり≫か。
これはクワガタ弓兵のドロップかな。
将軍クワガタのHPバーはもうほとんど無い。
どのモンスターもバーの長さは一定なせいで、最大HP次第で減り方が全く違う。
だから残りが無いように見えるあのバーも、数字にすれば残ってるんだろう。
「しまっ……!」
集中が途切れたのか、騎士の一人がミスをしたらしい。
将軍クワガタの魔法の一撃で体が流れていく。
踏ん張ろうとしているがあれはまずそうだ。
将軍クワガタの刀が迫る。
出汁巻に弾かれた直後だっていうのに驚きの回転だ。
もう一人の騎士は地属性魔法攻撃の雨で動けない。
火力チームが威力よりも連打を重視して、短い詠唱の魔法を連続して当てているが、まだHPは削り切れない。
そして、怯むこともない。
三人の連携で将軍クワガタを抑え込めていたが、今は出汁巻じゃなくとも一人欠けたらまずい。
他の騎士も満身創痍で交代出来るか怪しいし、出来るにしても今の攻撃速度なら走り寄る前にもう一人落とされてもおかしくはない。
それを分かっているかのように、将軍クワガタもこの隙を逃すまいとしているように見える。
「気を抜くな!」
「あっ……」
将軍クワガタの攻撃に出汁巻が強引に割って入る。
そして力任せに剣を叩きつけて弾き返した。
タイミング的にそうせざるを得なかったんだろう。
そうなれば出汁巻は隙を晒すことになる。
硬直した一瞬を狙って、再び刃が迫る。
手に持っていたアイテムを親指で思い切り弾いた。
欠けた矢じりは将軍クワガタの振るう刀の腹に命中してくれた。
振り下ろされた刀は、地面を割った。
出汁巻の身体は無事だ。
割れているのは尻だけで済んだようだ。
「ソニックスラッシュ!」
硬直が解けたらしい出汁巻のスキルが将軍クワガタを捉えた。
動きの止まった将軍クワガタは、そのまま後ろへ倒れた。同時に、出汁巻の頭上にMVPの文字がデカデカと踊る。
相変わらずポップなフォントとSEだ。
なんとか犠牲者を出すこともなく将軍クワガタの討伐に成功した。
最後はひやっとしたけど、良かった。
もし矢じりが上手く当たらなかったら瞬間移動キックをキメるしかなかったからな、ちゃんと当たって本当に良かった。
あれなら騎士団の人達も気にしないだろうし。
敵対してくるんじゃないならなるべく人間関係は波風立てたくない。
「将軍クワガタの甲殻を回収しました!」
「うむ。皆の者、よくぞ戦った。だがここはまだ敵地だ。気を抜くなよ、撤収だ!」
アイテム回収班の報告を受けたパシオンが宣言する。
帰るまでが遠足ですってやつだな。
しかしこの満身創痍の状態で帰還か。
出汁巻もスキルの反動らしくぐったりしてるし、大丈夫か?
ちなみに今はパンツ一枚の姿だ。
「ただいまー!」
「キュルル!」
「おかえり。帰るぞー」
「おー!」
タイミングよくタマとおろし金が戻ってきた。
もう目的は達成したんだし、少しくらい出しゃばっても良い筈だ。
「ナガマサよ、頼みがあるのだが良いか?」
「あ、はい」
「帰路につくわけだが、この有様だ。護衛を頼めぬか?」
「お受けします」
「タマさいきょーだからしっかり守るぞー!」
考えていたことを先に頼まれてしまった。
断る理由はない。
先陣をタマとおろし金に任せて、俺達は城へ向けて歩き出した。
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