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54 黄色いパンツとシリアスブレイカー
しおりを挟む「よく戦ったな貴様ら! 半数ずつ交代で休め!」
出汁巻が大声で告げると、騎士達は指示に従って動き出す。
半分は休憩し、半分は敵が寄ってきた際の迎撃を担当するようだ。
事前に役割が決めてあったのか動きがスムーズだ。
出汁巻玉子はパンツ一丁のままだ。
真っ黄色のトランクス。
森の中でその色は浮いてるぞ。
「いやあ、ほんとに数が多いすね。武者クワガタがあれだけいっぺんに来るときついっす」
「見苦しかったかもしれんが、あれでも我が騎士団の精鋭達だ。許してやってくれ」
「はあ」
出汁巻が俺とパシオンの方へやって来た。
パンツ一丁のままだ。
パシオンが俺の様子を見て何か勘違いしてる。
見苦しいのは、今俺の目の前にいる出汁巻玉子の出汁巻玉子だよ。
群がってくるモンスターが出汁巻玉子の活躍によって殲滅されたところで、一先ず周囲に敵はいなくなった。
そこで騎士達の消耗が思ったよりも激しかった為、パシオン一行は一度休憩を挟むことにした。
休憩をするにしてもまたいつモンスターに囲まれるか分からないから、最大限の警戒をしての上だ。
斥候2名も警戒にあたっているらしい。
残り1名は引き続き前回の目撃箇所へ向かっている。
タマは散歩に行ってくると元気よく宣言した後、おろし金に乗って森の中へ消えていった。
特に危険はないだろう。
唯一心配と言えば将軍クワガタを倒してしまわないかという点だけが心配だ。
近づかないよう、万が一見つけても手出ししないよう念を押したから大丈夫だとは思うけど。
「出汁巻さん、服着ないんですか?」
いつまで経っても服を着ようとしない出汁巻に、思わず聞いてしまった。
出汁巻玉子は特に気にした様子もない。
「ああ、この森は思ったよりやばそうだからこのままで行こうかと。オレのユニークスキルで服を着ていない程強化されるんすよ」
「ああ、さっきパシオンさんから聞きましたね……」
「これこそがやつのユニークスキル、裸の騎士様よ!」
いつからこのスタイルなのか知らないが、2か月近くこうだとしたら今更気にならないか?
パシオンはちょっと黙っててくれ。
何度も言わなくていいしそのドヤ顔もしなくていい。
「なんで本気で戦う時はこの格好なんすよ。オレが選んだ相棒(パートナー)も関係してると思うんすけど」
「相棒? その剣じゃないんですか?」
出汁巻はごつくて強そうな剣を使っている。
変なオーラまで出てるし相棒かと思ってたんだが、変態みたいな恰好で戦うことに何か関係してるとは思えない。
「オレの相棒はこれっすよ」
出汁巻が指示したのは、出汁巻が履いているパンツだった。
マジか。
「え? 相棒ってパンツなんですか?」
「相棒選ぶ時に目の前にパンツ落ちてて、試しに履いてみたらなんかすげー履き心地良くって。気付いたらこの格好で草原にいたんすよ」
相棒候補は沢山ある。
俺の時も俺とシステムのNPCがいる空間をぐるっと囲うように積み上げられていた。
出汁巻も同じだったが、何故かパンツが目の前に落ちていたらしい。
そしてそれを履いたら相棒が決定したと。
状況は違うけどなんか俺とタマみたい……いや、なんでもない。
全く似てない。
一緒じゃない。
「もっと相性が良くて格好いい相棒が良かった、ってそん時は泣きそうだったっす」
気持ちは分かると言いたいが、そもそも落ちてるパンツをとりあえず履くのが俺からしたらすごいことだ。
まさに最高の相性だったようにしか思えない。
「それで出汁巻玉子よ、今の感じで将軍クワガタを討伐出来ると思うか?」
「そうっすねぇ……。ナガマサさん、将軍クワガタの取り巻きは武者クワガタ6匹っすよね?」
「確かそうだったと思います」
タマが戦っていた時に呼び出していたのは6体で間違いなかった。
あの時はタマの攻撃ですぐ全滅してたけど、普通に考えたらかなりの強敵だよな。
「他のモンスター次第っすね。将軍クワガタだけならなんとかなると思うんすけど、さっきと同じくらい集まられたら正直きついっす」
「ふむ……」
出汁巻の意見にパシオンは考え込む。
ただでさえ厄介な武者クワガタ6体に将軍クワガタだからな。
出汁巻一人で抑え切れる数でもないだろう。
「止むを得んな。ナガマサよ、将軍クワガタとその取り巻き以外の相手を頼めるか?」
「分かりました」
パシオンから俺へのヘルプが来た。
ずっと見てるだけっていうのもなんだし、むしろ良かった。
将軍クワガタとその取り巻き以外なら、本来の目的の達成にも影響がない。
それ以上のことをわざわざここまで来ているパシオンが求めることは、絶対にないはずだ。多分。
「これで周囲のモンスターへの備えは出来た。護衛と索敵班を残して、全員で将軍クワガタへ挑むか?」
本当なら手出しさせたくなかったんだろうけど、死ぬよりはいいもんな。
そのくらいの手伝いならいくらでもする。
「お待ちください!」
よく通る声が森の中で響いた。
何事だ?
俺達の方に近づいてくるのは、女の人?
よく見たらさっき単独でクワガタ弓兵を倒して周っていたスタイリッシュな騎士だ。
「一体どうした?」
騎士が相手だから出汁巻は威厳のある口調だ。
だけど相変わらず相棒であるパンツ一丁だ。
威厳なんか全く感じられない。
「お願いがございます。どうか、露払いの役目に私も加えてください。ご客人にだけ担わせるのは騎士の名折れにございます」
「出汁巻よ、どう思うか?」
「この者は速さを活かした戦闘を得意としており、足を止めて大勢と戦うよりも動き回って各個に撃破する方が向いています。確かに、そちらに割いた方がより戦果を期待出来るでしょう」
「そうか。では貴様はナガマサと共に周囲のモンスターを撃破し、将軍クワガタと戦闘中の者へ近づけるな」
「はっ!」
きっと彼女なりに葛藤とか意地とかプライドとかあったんだろう。
だけど出汁巻のせいで話が全然頭に入ってこない。
よくみんな真面目なテンションを維持出来るよな。
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