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50 シスコンバカと王女ミゼル
しおりを挟む打ち合わせを終えた俺達は、早速ストーレの森へと出発することになった。
というか他の人達は準備万端で待機してるらしい。
パシオンは王族らしいからそういうのに抵抗はないんだろうけど俺は一般庶民だ。
恐縮してしまうから早く行こう。
マッスル☆タケダも出発を見送ってくれるようだ。
俺とタマとタケダ、パシオンに出汁巻玉子の5人で歩いていると、パシオンが立ち止まった。
そして突然右に折れて行った。
ここは真っ直ぐじゃなかったっけ。
俺の記憶違いかな。
「ミィィィゼェル! 今日も美しくも可憐だな!」
「御機嫌よう、お兄様。今日は誰にも迷惑をかけてはいないでしょうね?」
どうやら、パシオンの最愛の妹がいたから寄って行ったようだ。
騎士の皆さんを待たせている筈なのに全く気にした様子はない。
あれだけ妹妹うるさいし、相当なシスコンなんだろうな。
ミゼルの容姿は確かに整っている。
透き通るような金髪に、小さな顔。目は大きく、人形みたいに整っている。
俺の主観だと、少し幼さが残る美人系って感じだ。
アニメとかだと、凛々しい感じの中学生キャラみたいな。
装飾の少ない黄色いドレスがよく似合っている。
「うむ、勿論だとも。そもそもこの世の誰もが、ミゼルの為ならば何事も苦にはならんさ」
「そんなことを考えているのはお兄様だけです。迷惑でしかありません」
無茶苦茶を言ってるパシオンに対して、ミゼルは真っ向から切って捨てた。
強い。
あんなのが兄だと鍛えられそうだしな。
しかもミゼルは一番付き纏われてそうだし。
「心配するな、我が最愛の妹よ。今日は少し珍しい素材を採りに行ってくるだけだ。あの者達も同行するが、冒険者には正式に依頼も出したぞ」
パシオンが誇らしげに俺達を指し示す。
ミゼルの視線がこっちに向いた。
うん、間違いなく美人だ。パシオンが大事にしたくなる気持ちも分かる。
ミゼルはそのままこっちへ来た。
パシオンも追いかけてくる。なんか犬みたいだ。
「はじめまして、ミゼルと申します」
「はじめまして。冒険者のナガマサです」
「タマだよ!」
「マッスル☆タケダだ」
ミゼルの挨拶はなんかアニメとかでしか見たことのない、スカートの端をつまむやつだ。
名前なんて知らない。
王族と交流したこともないし、とりあえず出来るだけ丁寧に挨拶を返す。
失礼じゃないといいんだけど。
タマとタケダはいつも通りだ。
失礼じゃないといいんだけど!
「皆様、もしかしてお兄様に無理矢理従わされているのではありませんか……?」
「えっ?」
「一体どうしたんだ、いきなり?」
ミゼルはどこか思い詰めたように聞いてきた。
というか近い。
動揺して上手く返せなかった。
俺には上半身を逸らすので精一杯だ。
タケダが聞いてくれる。
空気の読める、有難い筋肉だ。
「お兄様はよく私の為と言いながら、街行く人に意味不明な暴論を吹っ掛けては無理矢理言う事をきかせようとするのです。あなた方もそうではないのかと思いまして……」
ミゼルが恥ずかしそうに兄の愚行を語る。
俯いてしまって可哀そうだ。
こんな確認なんて、恥ずかしくてしたくないだろうに。
それでも確認しているのはきっと俺達の為だ。
優しいんだろうな。
「正式に依頼を出したと言っているではないか」
「お兄様は黙っていてください」
「はい」
パシオンが若干不服そうに口を挟むが、ミゼルに叱られて素直に口を閉ざしてしまった。
仕方ないな。
あの言動を見てたら普通はそうとしか思えない。
完全に自業自得だ。
今回は本当に違うから、助け舟を出さないといけないのが癪なくらいだ。
「最初は無茶苦茶を言ってましたけど、本当に依頼をされて、それを自分の意思で承諾してここに来ましたよ」
「ああ、そうだな。きちんと報酬の話もしてある」
「お兄様が正式に依頼……本当なのですか?」
「はい」
「ああ」
説明しても更に念を押される。
それでも事実だから、仕方なく肯定する。
パシオンも根は悪い奴じゃなかったしな。
出汁巻玉子はパシオンの騎士団の副団長という立場だからか、直立不動のまま一切喋らない。
もし邪魔でもしたらパシオンに物理的にクビにされそうだもんな。
騎士団勤めも大変そうだ。
「それなら良かったですわ。……お兄様のことをよろしくお願いします」
「あ、いえ、大したことは出来ませんので」
「タマは大したことあるぞー!」
今回の依頼はあくまでもお手伝いだ。
あんなシスコンバカをよろしく頼まれても困る。
タマ、今は張り合わなくていいから。
「あら、貴女のその鎧……」
「なに?」
ミゼルがタマに目を向けた。
その視線が鎧へ吸い込まれていくのが、見ていてよく分かった。
「とっても素敵ですわね。まるで心が洗われるような、綺麗な力を感ます……。私もそんな鎧が似合うような素敵な淑女になりたいですわ」
そして溜息混じりに感想を呟いた。
目がうっとりしている。
よっぽど気に入ったらしい。
それくらい≪聖少女の鎧≫の出来はいいからな。恐るべし、マッスル☆タケダ。
「すごいでしょー! でも大丈夫、ミゼルにもおなむぐぐっ」
「ミゼル様、ご心配頂いてありがとうございました。でもお兄さんはちょっとだけ、本当にちょっとだけまともになってきてるので大丈夫ですよ! ほらほらパシオン様、急がないと馬車が出てしまいますよ!」
「むぐみぐぐー!」
余計な事を言いそうになったタマの口を押えて妨害する。
危なかった!
パシオンからは今回のプレゼントは内緒でと言われてるのに、バラしてしまうところだった。
早口で適当な事を捲くし立てて、タマを抱えたまま馬車の待つ外へと走る。
タマは口を抑えられたまま何か喋っている。
手を振っているしミゼルに挨拶をしてるんだろう。
「私がここにいるというのに何故馬車が出るのだ、せっかちな奴め。まぁ良い、気持ちが逸っているのは確かだ。ではミゼル、少し出掛けてくる」
「はい。お気をつけて」
誤魔化すように出口へと急いだ俺達は、そのまま用意されていた馬車へと乗り込んだ。
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