上 下
51 / 338

50 シスコンバカと王女ミゼル

しおりを挟む

 打ち合わせを終えた俺達は、早速ストーレの森へと出発することになった。
 というか他の人達は準備万端で待機してるらしい。
 パシオンは王族らしいからそういうのに抵抗はないんだろうけど俺は一般庶民だ。
 恐縮してしまうから早く行こう。

 マッスル☆タケダも出発を見送ってくれるようだ。
 俺とタマとタケダ、パシオンに出汁巻玉子の5人で歩いていると、パシオンが立ち止まった。
 そして突然右に折れて行った。
 ここは真っ直ぐじゃなかったっけ。
 俺の記憶違いかな。

「ミィィィゼェル! 今日も美しくも可憐だな!」
「御機嫌よう、お兄様。今日は誰にも迷惑をかけてはいないでしょうね?」

 どうやら、パシオンの最愛の妹がいたから寄って行ったようだ。
 騎士の皆さんを待たせている筈なのに全く気にした様子はない。
 あれだけ妹妹うるさいし、相当なシスコンなんだろうな。

 ミゼルの容姿は確かに整っている。
 透き通るような金髪に、小さな顔。目は大きく、人形みたいに整っている。
 俺の主観だと、少し幼さが残る美人系って感じだ。

 アニメとかだと、凛々しい感じの中学生キャラみたいな。
 装飾の少ない黄色いドレスがよく似合っている。

「うむ、勿論だとも。そもそもこの世の誰もが、ミゼルの為ならば何事も苦にはならんさ」
「そんなことを考えているのはお兄様だけです。迷惑でしかありません」

 無茶苦茶を言ってるパシオンに対して、ミゼルは真っ向から切って捨てた。
 強い。
 あんなのが兄だと鍛えられそうだしな。
 しかもミゼルは一番付き纏われてそうだし。

「心配するな、我が最愛の妹よ。今日は少し珍しい素材を採りに行ってくるだけだ。あの者達も同行するが、冒険者には正式に依頼も出したぞ」

 パシオンが誇らしげに俺達を指し示す。
 ミゼルの視線がこっちに向いた。

 うん、間違いなく美人だ。パシオンが大事にしたくなる気持ちも分かる。
 ミゼルはそのままこっちへ来た。
 パシオンも追いかけてくる。なんか犬みたいだ。

「はじめまして、ミゼルと申します」
「はじめまして。冒険者のナガマサです」
「タマだよ!」
「マッスル☆タケダだ」

 ミゼルの挨拶はなんかアニメとかでしか見たことのない、スカートの端をつまむやつだ。
 名前なんて知らない。
 王族と交流したこともないし、とりあえず出来るだけ丁寧に挨拶を返す。
 失礼じゃないといいんだけど。
 タマとタケダはいつも通りだ。
 失礼じゃないといいんだけど!

「皆様、もしかしてお兄様に無理矢理従わされているのではありませんか……?」
「えっ?」
「一体どうしたんだ、いきなり?」

 ミゼルはどこか思い詰めたように聞いてきた。
 というか近い。
 動揺して上手く返せなかった。
 俺には上半身を逸らすので精一杯だ。
 タケダが聞いてくれる。
 空気の読める、有難い筋肉だ。

「お兄様はよく私の為と言いながら、街行く人に意味不明な暴論を吹っ掛けては無理矢理言う事をきかせようとするのです。あなた方もそうではないのかと思いまして……」

 ミゼルが恥ずかしそうに兄の愚行を語る。
 俯いてしまって可哀そうだ。
 こんな確認なんて、恥ずかしくてしたくないだろうに。
 それでも確認しているのはきっと俺達の為だ。
 優しいんだろうな。

「正式に依頼を出したと言っているではないか」
「お兄様は黙っていてください」
「はい」

 パシオンが若干不服そうに口を挟むが、ミゼルに叱られて素直に口を閉ざしてしまった。
 仕方ないな。
 あの言動を見てたら普通はそうとしか思えない。
 完全に自業自得だ。
 今回は本当に違うから、助け舟を出さないといけないのが癪なくらいだ。

「最初は無茶苦茶を言ってましたけど、本当に依頼をされて、それを自分の意思で承諾してここに来ましたよ」
「ああ、そうだな。きちんと報酬の話もしてある」
「お兄様が正式に依頼……本当なのですか?」
「はい」
「ああ」

 説明しても更に念を押される。
 それでも事実だから、仕方なく肯定する。
 パシオンも根は悪い奴じゃなかったしな。

 出汁巻玉子はパシオンの騎士団の副団長という立場だからか、直立不動のまま一切喋らない。
 もし邪魔でもしたらパシオンに物理的にクビにされそうだもんな。
 騎士団勤めも大変そうだ。

「それなら良かったですわ。……お兄様のことをよろしくお願いします」
「あ、いえ、大したことは出来ませんので」
「タマは大したことあるぞー!」

 今回の依頼はあくまでもお手伝いだ。
 あんなシスコンバカをよろしく頼まれても困る。
 タマ、今は張り合わなくていいから。

「あら、貴女のその鎧……」
「なに?」

 ミゼルがタマに目を向けた。
 その視線が鎧へ吸い込まれていくのが、見ていてよく分かった。

「とっても素敵ですわね。まるで心が洗われるような、綺麗な力を感ます……。私もそんな鎧が似合うような素敵な淑女になりたいですわ」

 そして溜息混じりに感想を呟いた。
 目がうっとりしている。
 よっぽど気に入ったらしい。
 それくらい≪聖少女の鎧≫の出来はいいからな。恐るべし、マッスル☆タケダ。

「すごいでしょー! でも大丈夫、ミゼルにもおなむぐぐっ」
「ミゼル様、ご心配頂いてありがとうございました。でもお兄さんはちょっとだけ、本当にちょっとだけまともになってきてるので大丈夫ですよ! ほらほらパシオン様、急がないと馬車が出てしまいますよ!」
「むぐみぐぐー!」

 余計な事を言いそうになったタマの口を押えて妨害する。
 危なかった!
 パシオンからは今回のプレゼントは内緒でと言われてるのに、バラしてしまうところだった。
 早口で適当な事を捲くし立てて、タマを抱えたまま馬車の待つ外へと走る。
 タマは口を抑えられたまま何か喋っている。
 手を振っているしミゼルに挨拶をしてるんだろう。

「私がここにいるというのに何故馬車が出るのだ、せっかちな奴め。まぁ良い、気持ちが逸っているのは確かだ。ではミゼル、少し出掛けてくる」
「はい。お気をつけて」

 誤魔化すように出口へと急いだ俺達は、そのまま用意されていた馬車へと乗り込んだ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

処理中です...