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48 クエストの始まり

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 朝だ。
 今日は10時にマッスル☆タケダの露店の前で待ち合わせだ。
 バカだけど悪い奴ではなさそうなイケメンと、いつものムキムキのおじさんと。
 華がないのはこの際気にしないでおこう。
 一体どんな展開が待ってるのかな。

「よし、ご飯を食べたら出発だぞタマ!」
「ごはん! 食べるぞー!」

 いつも通りご機嫌なタマと一階へ。
 この宿もそこそこ長くなるから、おばちゃんと若干仲良くなった。
 1日100cの個室を連続で使う客は有難いそうだ。
 こちらこそ美味しい朝食付きで泊めてもらって有難いことだ。

 拠点を用意できるまでは、なるべくここを利用するつもりではある。
 憧れのマイハウス。
 一体いくらくらいするのかな。
 安定して稼げるようになってきたら、段々と収入を増やして貯金しないといけない。

 何はともあれ、朝ごはんだ。
 食べておかないと頭が働かないらしいからな。
 ここに来る前はほとんど食べてなかった気もする。
 生きるのが億劫だったから、それは仕方がない。
 これからは違う。
 毎日三食きちんと食べるぞ!

「おいしい! こんどウサギ狩りに行きたいもじゃ!」
「いいぞ。白耳兎から肉ってドロップするのかな」

 今は食事が楽しくて仕方ないからな。
 こんなに楽しいのに、しかも栄養まで取れる。
 食事って素晴らしいな。
 ちなみに肉を手に入れる為には、専用のスキルか装備が必要らしいとおばちゃんが教えてくれた。
 どこかに売ってないか今度探してみよう。

 さて、食べ終わったら忘れ物が無いか確認してタケダのところへ向かおう。
 俺はいつもの装備。
 旅人の服の上にオオカナヘビの皮鎧。
 腰には鞘に納めたエボリュートソード。

 足軽クワガタの小盾はストレージにしまってある。左腕に固定する方式だから街中では邪魔になる。
 装備しようと思えばすぐに出来るから、狩場に移動する直前でも問題ない。
 本当は街中でも装備してたいけどね。
 かっこいいし、雰囲気が出る。

 タマは昨日タケダから受け取った≪聖少女の鎧≫を装備した。
 何度見ても素晴らしいデザインだ。
 パシオンが一目見て妹に着せたくなる気持ちも分からんでもないくらいに素晴らしい。
 名前はタケダの趣味と聞いた。

 この鎧にはマッスル☆タケダの銘は入っていない。
 どうしてか聞いたら、余りにも出来が良すぎてマッスル☆タケダの名前を刻むのが勿体ない気がしたそうだ。
 それを聞いた時、だったらそんな名前を付けるなよと思ってしまった。
 タケダにピッタリだとは思うんだけどね。

「おはようございます」
「おはまっするー!」
「おはよう。タマちゃんもおはマッスル!」

 待ち合わせの場所に到着した。
 時間は10時まで後20分ってところだが、タケダも既に待っていた。
 今日は露店を出していないせいで新鮮な気分だ。
 タマとタケダの挨拶はいつものことなので気にしない。
 楽しいんならそれが一番だしな。

「ちょっと早かったですか」
「何があるか分からんからな。遅れるよりはいいだろう」

 早くても何も困ったことにはならないが、遅れるとクエストの発生や進行に支障を来すかもしれない。
 それなら多少早くくるのが安全だ。
 ゲームだし身体が重いとか足が動かないとかないから、待ち合わせも苦じゃないし。

「そういえばモグラさんからは返事ありました?」
「ああ、ついさっき届いたぞ」

 今回のクエストに巻き込まれた俺とタケダは、あまりゲームに詳しくない。
 そこで、ゲームに詳しくてこういうクエストにも詳しいだろうモグラに援軍を頼むことに決めた。
 昨日は居合わせなかったから、タケダの方からメッセージで誘ってもらっていた。
 その返事がさっき届いたらしい。

 さっきってことは、昨日はやっぱりあの後寝てたのかな。
 モグラならこの手の話にはすぐに飛びつきそうだし、起きてすぐに返事を出したのがさっきのような気がする。

「死ぬほど参加したいが、パシオンが何をしでかすか分からないから断念するそうだ。見知らぬ奴を警戒してクエストが途絶えても申し訳ない、ということらしいぞ」
「そうですか」

 モグラの言い分は理解出来た。
 実際あのパシオンはかなり短絡的と言うか、思考が行動に直結してそうなイメージだ。
 モグラを見た瞬間に激昂して帰るか襲い掛かって来ても、おかしくないと思えてしまう程に。

 ただ、あのタマの鎧に対する執着を見てるとそう簡単に諦めるとも思えない。
 モグラの一人や二人、気にせず話を進めてくれるんじゃないか。
 モグラがそう考えるなら無理強いはしないけど。
 俺だって、自分のせいでクエストが消えると思ったら遠慮してしまいそうだし。

「ただ、面白そうだからパシオンやミゼルという名前の人物について調べてみるそうだ」

 態度や格好からして貴族っぽい感じがする。
 異世界ものの小説なんかだと定番だし。

「お?」
「おお」
「馬だー!」

 なんて話をしていると、一台の馬車が俺達の横で止まった。
 御者に扉を開けてもらって降りてきたのは、パシオンだ。
 やっぱりか。

「やあ、揃っているな」
「おはようございます」
「がるるるるる」

 一応挨拶をしてみたが、タマは威嚇。
 タケダに至っては軽く目礼で済ませた。
 パシオンも挨拶してこなかったしいいのか?
 そもそもパシオンも特に気にしてないようだしいいか。

「早速詳細を話し合って決めたいのだが、ここではなんだ。乗れ。一緒に来るが良い」

 それだけ言ってパシオンはさっさと馬車に乗ってしまう。
 え、それだけ?
 それだけの説明で皆が皆馬車に乗ってくれると思ってるのか!?
 ここでじっと待ってたら、どうなるんだろうか。
 タケダも動かないのは何か思う所があるのかな。

「どうした、早く乗れ」
「まさか、突然装備を強奪しようとしてたのを忘れたわけじゃないだろうな? ろくな説明も無しに、馬車なんかに乗れるか」

 タケダがもっともなことを言う。
 気さくなおじさんかと思ったら、意外と礼儀に厳しいらしい。

「ふむ。分かった」

 少し考え込んだパシオンは馬車から降りて簡単に説明をしてくれた。
 なんだ、やっぱりバカなだけで素直な奴じゃないか。

 パシオンが言うには今回俺に依頼するのは、≪聖少女の鎧≫の主な素材となる≪将軍クワガタの甲殻≫の入手の手伝い。
 パシオンの持つ戦力で討伐に向かうが、実際に素材を入手した実績を鑑みて、俺にサポートやアドバイスを頼みたいということだった。

 これから移動するのはパシオンの家だそうだ。
 罠の可能性が無いとは言い切れないけど、それを言い出したらキリがないし、何も出来ない。

 パシオンの鎧作成にかける情熱は本物だと思うし、きっと大丈夫だろう。
 タケダも納得したようだ。
 タケダの場合、説明もしない態度が気に入らないだけに見えたけど実際はどうなんだろうか。

「それで、昨日の護衛は今日はいないのか?」
「ジャルージには屋敷の掃除を命じた故、今日は留守番だ。案ずることはない」
「そうかい」

 馬車に乗った後、タケダは昨日タマに切りかかってパシオンにこっぴどく叱られていた男について聞いていた。
 やっぱり腹を立ててたのか。
 俺もむかついてたしな。
 掃除で留守番とはざまーみろだ。
 もし見かけたら煽ってやろう。

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