40 / 338
39 モグラとゴロウ
しおりを挟むなんとなく歩いていると、脇道が気になった。
そっちの方にもぽつぽつと露店が出ているようだ。
よし、今日は露店を見てまわろう。
狩り狩り言ってないで、のんびり過ごす日があってもいいはずだ。
午前中にたっぷり狩りしてきたしな。
「タマ、お店を見てまわろう」
「モジャあるかな?」
「モジャはないんじゃないかな……」
こっちの方に店を出してるのは大体プレイヤーのようだ。
商品を覗いてみると、なんだかあまり見ないようなものが並んでいる。
大通り沿いだと普通の装備や回復薬、後は食べ物なんかがメインっぽい。
ここにある露店は、一部の職業の人にしか需要が無さそうな装備品、後は用途不明な道具だったりを売ってる。
そこそこ高いけど、自分で作ったんだろうか。
「だーかーら、そうじゃなくって……あれ、こんなところで会うなんて奇遇だね」
露店の一つを覗きこんだところで声を掛けられた。
頭を上げてみると、なんとモグラだった。
いつもの戦士っぽい装備じゃなくラフな服装だ。
隣には怪しげな男性が座っている。
「よっ、モグラ!」
「モグラさんじゃないですか。こんにちは、こんなところでどうしたんですか?」
「よっ。昨日言ってた友達の手伝いだよ。商人のゴロウ」
「はじめまして、ゴロウです」
「こっちは冒険者のナガマサさん。まだ数日しか経ってないのにもう初心者脱してそうな有望株だよ」
モグラが隣の男を紹介してくれた。
ゴロウというらしい。
とりあえず会釈。
「そんなことないですよ。モグラさんにはいつも助けてもらってます。ナガマサです。よろしくおねがいします」
「よろしく」
「よろしくなごろー!」
「あ。こっちは俺の相棒のタマです」
「よろしくタマちゃん」
しかしモグラが商売とは、あまりイメージ出来なかった。
そのせいで声をかけられるまで気付かなかったし。
「手伝いにしては何かもめてたみたいですけど、どうかしたんですか?」
「それがさぁ、聞いてよナガマサさん」
大きなため息と共にモグラが語り出したのはゴロウの愚痴だった。
「大体さぁ、転売するにしても買ってきた値段より高く売らないと儲けにならないでしょ」
「そうなんだけどつい相場より高く買っちゃってて……安くしないと売れないし」
「相場より高いものを買うな!」
とか、
「ゴロウちゃん、低級回復薬作って」
「じゃあ1個10cでいいよ」
「ん? 材料で15cくらいしなかったっけ?」
「するけど?」
「自分で採ってきたの?」
「そこで仕入れてきたよ。大体1個あたり16cで」
「ああああああもう!」
といった感じらしい。
「だからゴロウちゃんはいつも金欠でね、ほっとけないのよ」
「素寒貧カーニバルだぜい」
「もっと真面目に考えような……!」
「はい」
呆れ気味のモグラに、冗談なのか本気なのか真顔のゴロウ。
モグラに凄まれて即答してるし、多分冗談だったんだろう。
割と余裕あるよね?
「んで、今日は一緒に店番して色々教えてたってわけ」
「なるほど。でもモグラさんがこういうことするイメージなかったんですけど」
「ああ、昔やってたゲームでは商人系のクラスで金稼ぎプレイに勤しんでたこともあるからね」
商売っていうとイメージしにくいが、金稼ぎって言うと確かにしっくりくる。
サングラスはいつもつけてるから、後は派手なシャツが似合いそうだ。
「そこまで壊滅的だと逆にゴロウさんを冒険者にした方が早いんじゃないですか?」
「ゴロウちゃんが商人がしたいって聞かないんだよ」
「そうなんですか? 楽しいですよ、冒険者」
商人が楽しいって気持ちも理解できる。
それならそれで仕方ないけどとりあえず誘ってはみよう。
突っぱねられるのも分かってるんだけどね。
「うーん……」
難しい顔をしているやっぱりダメか。
「冒険者はいいぞ!」
「冒険者も気になってきた」
「あれ?」
「こいつ……!」
と思ってたら意外なことを言いだした。
タマの説得(?)のおかげだろうか。
でもこれでうまくいけばモグラの苦労も減るだろうし。
だから抑えるんだモグラさん。その剣を抜いてはいけない。
「ゴロウさんのレベルっておいくつなんですか?」
「基本が15で職業は合成師の11ですね。ステータスはDex極振りなんで戦闘はほとんどしたことないです」
聞いたこと無い職業だけど一応商人の括りになるらしい。
戦闘もしなくてどうやってレベルを上げてるのかと思ったら、生産活動でも経験値は入るそうだ。
「装備はあるんですか?」
「防具は最低限度のものなら商人ギルドからもらってるよ」
「武器はお古で良ければ短剣があるからそれで大丈夫」
生憎提供出来るような装備はない。
けどモグラのお古でなんとかするようだ。
あ、そうだ。
「とりあえずこれでも装備しておきます?」
足軽クワガタの小盾を外してそのままゴロウに差し出す。
とりあえず付けてたけど、ゴロウが危なくない場所ならいらないような気がするからな。
絶対俺よりゴロウが装備した方がいいだろう。
「でもこれってナガマサさんの分じゃないんですか?」
「俺はそこそこレベルが上がってるんで大丈夫ですよ。ゴロウさんの安全を第一でいきましょう」
「では有難く。ありがとうございます」
ゴロウは小盾を受け取るとモグラに差し出した。
「ごめんモグラさん、付けて」
「ったくしょうがないなぁ。ストレージから装備したらいいのに」
「雰囲気って大事じゃない?」
「まあね」
なんだかんだ仲が良さそうだ。
でもどこに行くんだろう。
「どこに行きます?」
「というかナガマサさん、装備貸してくれたりしてもしかして付き合ってくれるの?」
「はい、丁度予定も空いてますし。一人だと何かあった時に困りますからね」
「おー、ありがとうナガマサさん」
「いえいえ」
「しかし場所はなー、この周りの初心者向けのMAPは人がいっぱいなんだよねぇ」
確かに、ストーレの街の隣のMAPは夜以外は初心者で溢れかえっている。
狙われていないモンスターはほぼいないと言ってもいい。
俺が狩っていたオオカナヘビも、初心者以外が狙って狩っているのを見かけた。
「森の方は武者クワガタが怖いし……」
「そいつならさっき倒したよ!」
「「え?」」
おお、みんなの視線が痛い。
俺じゃないよ。
おろし金が倒したんだよ。
説明するからちょっと待って。
10
お気に入りに追加
1,205
あなたにおすすめの小説
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる