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13 初転職と挑戦者
しおりを挟む「今ので職業レベルが10になったのかな?」
「はい、お蔭様で。これで転職が出来るんですよね」
そう、転職。
ノービスで職業レベルが10以上で行うことが出来る。
このゲームではより上位の職業に就くことで、より強力な、様々なスキルを取得することが出来る。
あえて転職せずにノービスの職業スキルをもう少し揃える人もいるらしいが、レベル10からは極端に上がりづらいらしいからさっさと転職することに決めている。
ちなみに、転職条件に達してもジョブレベルを上げることが出来るのはノービスだけだそうだ。
10で転職出来るのに、30まで上げることが出来るらしい。
「そうだね。それじゃあさっそく転職しに行く?」
「はい。転職も冒険者ギルドでしたよね?」
「そうだよ。よし、じゃあ行こう」
こうして俺達は再び冒険者ギルドへとやって来た。
相変わらずそれなりに冒険者達の姿が見える。
冒険者でも全員がプレイヤーというわけでもない。
そもそもこの世界のNPCって、どの程度自由に会話が出来るんだろうか。
まだそんなに関わってないから機会があれば話をしてみよう。
「冒険者ギルドストーレ支部へようこそ。ご用件はなんでしょうか?」
「職業レベルが10になったので転職したいんですが」
「転職ですね。それではご案内いたします」
受付のお姉さんに転職したいことを伝えると、お姉さんがベルを鳴らした。
すると奥からまた別のお姉さんが現れて一礼した。
この人について行けということらしい。転職担当かな?
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。どんな職業になるか楽しみに待ってるよ」
付き添ってくれていたモグラに声をかけて転職担当のお姉さんについていく。
案内されたのは小部屋だった。
部屋の中心には大きなクリスタルみたいな感じのものが、どでんと設置されている。
台座から浮いているのに縦に直立してるのは、ファンタジーっぽい見事な絵面だ。
傍らには操作パネルみたいな設備も見える。
「それでは中央のクリスタルに手を翳してください」
「はい」
お姉さんが操作パネルの前に陣取った。
言われるままに近づいて、クリスタルに手を翳す。
「それでは素質を読み取って転職可能な職業を判定します」
いよいよ転職だ。一体どんな職業が出るんだろうか。
ステータスも適当だしスキルも結構一貫性が無い。
それだけ選択肢が増えるといいんだけど。どうなんだろうか。
「これは……」
待っていると、お姉さんの困ったような呟きが聞こえてきた。
「どうかしましたか?」
「その、少々お待ちください」
お姉さんは誤魔化すような微妙な笑顔で一言だけ答えて、部屋を出ていってしまった。
え、なに、何が起きたの。
多分数分くらいでお姉さんは戻ってきた。
その後ろには初めて見るおじさんも一緒だ。
一体誰だろう。
何かあったのか?
「こちらの方です」
「うむ」
お姉さんはおじさんを誘導して、操作パネルの方へ戻った。
おじさんは俺と対面する位置までやってきた。
「はじめまして。私はこのストーレ支部の支部長、フロンです」
「はじめまして、ナガマサです」
挨拶に挨拶を返す。
フロンは見た目普通のおじさんだ。
よくある荒くれ者、って感じの支部長ではないらしい。
どこの支部でもこんな感じなんだろうか。
問題は、支部長なんていう立場のある人が何故呼ばれてきたのかということだ。
ちなみにプレイヤーを示すカーソルはないから、お姉さんと同じNPCだ。
「驚かせてしまったかもしれませんが、大したことではありません。ナガマサさんの転職可能な職業が少しばかり特殊だったので、説明の為に呼ばれたのです」
特殊?
説明?
どういうこと?
「リリィ、一覧を」
「はい」
フロンの指示を受けたお姉さんが操作パネルをいじると、俺の前に半透明のウインドウが表示された。
転職担当のお姉さんの名前はリリィというらしい。
長いオレンジ色の髪を後ろで一つに結んでいる、美人さんだ。
身長が高く、すらっとしていてモデルみたいだ。
……今はそれどころじゃなかった。
これが転職可能なリストらしい。
なるほど、確かに異様だ。聞いてた話と違う。
転職可能な職業は、その時点でのステータスとスキルによって資質が判断されて、算出される。
モグラに聞いた話では、このゲームの職業は結構な数用意されている。だからどれだけ特化させても二つか三つは引っかかるとのことだった。
俺の転職可能な職業リストはどうか。
そこにあったのは≪挑戦者(チャレンジャー)≫の文字。
なんと一つしかない。
「その挑戦者という職業は……古代の文献に残されているだけの、非常に特殊な職業なのです。文献によれば、己自身の力のみで挑む者、とされていますが詳細は不明です」
挑戦者の詳細を見てみると、確かに同じようなことが書いてある。
≪挑戦者≫
職業/一次職
己の力を信じ、挑み続ける者。
秀でた分野は無く、それ故に制限も無い。
思うままに我がままに、どこまでも行ける者。
「ナガマサさんのスキルを拝見するに、職業スキルが一つもない状態なのでそれが転職の条件なのではと推測しております」
「はあ」
なるほど。
この挑戦者の転職条件は職業スキルの未取得なのか。
でもノービスの職業スキルは普通に取得してるんだけど……って、もしかして封印スキルで≪使用不能≫になってるスキルは無いのと同じ扱いなのかも?
スキル一覧でも文字がグレーになってるし、そうなのかもしれない。
「なので職業スキルを取得されれば挑戦者の転職条件から外れて、普通通りの転職が出来ると思われます。挑戦者は何分詳細不明の職業なので、充分なサポートが出来ず、責任も持てません。なのでその説明と確認の為に、支部長である私が出向いた次第です」
つまり『挑戦者はよく分からないから説明出来ないし、責任も持てない援助もない。それでもその職業を選ぶなら自己責任な』ってことか。
どうしようか。
まぁほぼ答えは出てるんだけど。
これが俺の資質だっていうならそれでいい。
他の人と同じようなことしてても面白くないしね。
普通が幸せなのはもちろん分かるんだけど。
「分かりました。でも大丈夫です。俺は挑戦者に転職します」
「かしこまりました」
俺の答えを聞いたフロンは数歩下がる。
俺の視界には選択肢。
≪挑戦者≫へ転職しますか?
はい
いいえ
もちろん『はい』だ。
俺の身体が光に包まれる。
それも一瞬のことで、すぐに収まった。
全身がぴかっと光っただけっぽい。
何はともあれ、無事にノービスを卒業出来た。
めでたいめでたい。
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