上 下
13 / 338

13 初転職と挑戦者

しおりを挟む

「今ので職業レベルが10になったのかな?」
「はい、お蔭様で。これで転職が出来るんですよね」

 そう、転職。
 ノービスで職業レベルが10以上で行うことが出来る。
 このゲームではより上位の職業に就くことで、より強力な、様々なスキルを取得することが出来る。
 あえて転職せずにノービスの職業スキルをもう少し揃える人もいるらしいが、レベル10からは極端に上がりづらいらしいからさっさと転職することに決めている。

 ちなみに、転職条件に達してもジョブレベルを上げることが出来るのはノービスだけだそうだ。
 10で転職出来るのに、30まで上げることが出来るらしい。

「そうだね。それじゃあさっそく転職しに行く?」
「はい。転職も冒険者ギルドでしたよね?」
「そうだよ。よし、じゃあ行こう」

 こうして俺達は再び冒険者ギルドへとやって来た。
 相変わらずそれなりに冒険者達の姿が見える。
 冒険者でも全員がプレイヤーというわけでもない。

 そもそもこの世界のNPCって、どの程度自由に会話が出来るんだろうか。
 まだそんなに関わってないから機会があれば話をしてみよう。

「冒険者ギルドストーレ支部へようこそ。ご用件はなんでしょうか?」
「職業レベルが10になったので転職したいんですが」
「転職ですね。それではご案内いたします」

 受付のお姉さんに転職したいことを伝えると、お姉さんがベルを鳴らした。
 すると奥からまた別のお姉さんが現れて一礼した。
 この人について行けということらしい。転職担当かな?

「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。どんな職業になるか楽しみに待ってるよ」 

 付き添ってくれていたモグラに声をかけて転職担当のお姉さんについていく。
 案内されたのは小部屋だった。

 部屋の中心には大きなクリスタルみたいな感じのものが、どでんと設置されている。
 台座から浮いているのに縦に直立してるのは、ファンタジーっぽい見事な絵面だ。
 傍らには操作パネルみたいな設備も見える。

「それでは中央のクリスタルに手を翳してください」
「はい」

 お姉さんが操作パネルの前に陣取った。
 言われるままに近づいて、クリスタルに手を翳す。

「それでは素質を読み取って転職可能な職業を判定します」

 いよいよ転職だ。一体どんな職業が出るんだろうか。
 ステータスも適当だしスキルも結構一貫性が無い。
 それだけ選択肢が増えるといいんだけど。どうなんだろうか。

「これは……」

 待っていると、お姉さんの困ったような呟きが聞こえてきた。

「どうかしましたか?」
「その、少々お待ちください」

 お姉さんは誤魔化すような微妙な笑顔で一言だけ答えて、部屋を出ていってしまった。
 え、なに、何が起きたの。

 多分数分くらいでお姉さんは戻ってきた。
 その後ろには初めて見るおじさんも一緒だ。

 一体誰だろう。
 何かあったのか?

「こちらの方です」
「うむ」

 お姉さんはおじさんを誘導して、操作パネルの方へ戻った。
 おじさんは俺と対面する位置までやってきた。

「はじめまして。私はこのストーレ支部の支部長、フロンです」
「はじめまして、ナガマサです」

 挨拶に挨拶を返す。
 フロンは見た目普通のおじさんだ。
 よくある荒くれ者、って感じの支部長ではないらしい。
 どこの支部でもこんな感じなんだろうか。

 問題は、支部長なんていう立場のある人が何故呼ばれてきたのかということだ。
 ちなみにプレイヤーを示すカーソルはないから、お姉さんと同じNPCだ。

「驚かせてしまったかもしれませんが、大したことではありません。ナガマサさんの転職可能な職業が少しばかり特殊だったので、説明の為に呼ばれたのです」

 特殊?
 説明?
 どういうこと?

「リリィ、一覧を」
「はい」

 フロンの指示を受けたお姉さんが操作パネルをいじると、俺の前に半透明のウインドウが表示された。
 転職担当のお姉さんの名前はリリィというらしい。
 長いオレンジ色の髪を後ろで一つに結んでいる、美人さんだ。
 身長が高く、すらっとしていてモデルみたいだ。

 ……今はそれどころじゃなかった。
 これが転職可能なリストらしい。
 なるほど、確かに異様だ。聞いてた話と違う。

 転職可能な職業は、その時点でのステータスとスキルによって資質が判断されて、算出される。
 モグラに聞いた話では、このゲームの職業は結構な数用意されている。だからどれだけ特化させても二つか三つは引っかかるとのことだった。

 俺の転職可能な職業リストはどうか。
 そこにあったのは≪挑戦者(チャレンジャー)≫の文字。
 なんと一つしかない。

「その挑戦者という職業は……古代の文献に残されているだけの、非常に特殊な職業なのです。文献によれば、己自身の力のみで挑む者、とされていますが詳細は不明です」

 挑戦者の詳細を見てみると、確かに同じようなことが書いてある。

≪挑戦者≫
職業/一次職
己の力を信じ、挑み続ける者。
秀でた分野は無く、それ故に制限も無い。
思うままに我がままに、どこまでも行ける者。

「ナガマサさんのスキルを拝見するに、職業スキルが一つもない状態なのでそれが転職の条件なのではと推測しております」
「はあ」

 なるほど。
 この挑戦者の転職条件は職業スキルの未取得なのか。
 
 でもノービスの職業スキルは普通に取得してるんだけど……って、もしかして封印スキルで≪使用不能≫になってるスキルは無いのと同じ扱いなのかも?
 スキル一覧でも文字がグレーになってるし、そうなのかもしれない。

「なので職業スキルを取得されれば挑戦者の転職条件から外れて、普通通りの転職が出来ると思われます。挑戦者は何分詳細不明の職業なので、充分なサポートが出来ず、責任も持てません。なのでその説明と確認の為に、支部長である私が出向いた次第です」

 つまり『挑戦者はよく分からないから説明出来ないし、責任も持てない援助もない。それでもその職業を選ぶなら自己責任な』ってことか。

 どうしようか。
 まぁほぼ答えは出てるんだけど。

 これが俺の資質だっていうならそれでいい。
 他の人と同じようなことしてても面白くないしね。
 普通が幸せなのはもちろん分かるんだけど。

「分かりました。でも大丈夫です。俺は挑戦者に転職します」
「かしこまりました」

 俺の答えを聞いたフロンは数歩下がる。
 俺の視界には選択肢。

≪挑戦者≫へ転職しますか?
はい
いいえ

 もちろん『はい』だ。
 俺の身体が光に包まれる。
 それも一瞬のことで、すぐに収まった。

 全身がぴかっと光っただけっぽい。
 何はともあれ、無事にノービスを卒業出来た。
 めでたいめでたい。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...