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第4章

1. 孔雀団頭領登場

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「その孔雀団のアジトってさ、何か目印とかあるのかな。旗が掲げてあるとかさ」
「まさか。こんな山奥にアジトを構えるくらいだ。わざわざ人目につくような事をすると思えない」
「そうだよな~。でもどうやって探すんだ? 何も聞いてないぜ」

 朱璃をおんぶして歩き始めてから、もう小1時間たっている。
 1本道なのでとにかくひたすら歩いているのだが、どんどん山奥に入って来ている状態だ。

 一瞬の気配に2人の間に緊張が走った。
 桃弥は死角になりそうな木陰に素早く朱璃を隠した。爆睡中なのでちょっとやそっとでは起きそうにない。
「殺気に気づかないのは減点だぞ」
  桃弥がそっと上着をかけてから朱璃の頭を撫でた。

 朱璃が起きていたら「普通の女子高生が殺気とか分かるはずないがな」と突っ込んでいるだろうが生憎あいにく夢の中でわんこ蕎麦を食べていた。
「まだまだ食べれます」

「ぷっ いい根性してるぜ」
「孔雀団ならいいが、でなければ朱璃だけは逃す」
「わかってる」
  自分たちを置いて朱璃が逃げるはず無いのは、今までの行動パターンから予測がつく。なので起こさず隠したのだ。

 やがて、現れた集団は数十人。孔雀団が表向きは商団であると聞いていたかが、その雰囲気や、出で立ちからして盗賊としか思えない。
 しかもその隙のなさからも豪傑揃いだという事が伝わってくる。
 全神経を集中させて身構えた2人の前にゆっくりと歩み寄ってきた男がいた。

「は、派手……」
 景雪が孔雀といった理由で一目で分かった。

 赤を基調に金銀の刺繍が入った着物は丈が長く、ふわりと華麗に広がっている。よく見ると何枚もの色の違う着物を重ね合わせていて赤から紫へ変化する色の調和は見事だった。
 そして幾多もの宝石を散りばめた薄絹の上着を羽織る姿を、2人はいつしか息を呑むように見つめていた。
 あまりに凄すぎて目を反らす事が出来なかったという方が正しいかも知れない。
 そして、何より信じられないのは、そのとんでもない着物が似合っていた事だった。
 着物に目を奪われてしまいがちだが、彼の外見もそれに負けていなかった。腰ほどまである髪は輝く白銀。前髪のほんの一房が薄紫色で、綺麗に編み込まれ後ろに銀色の組紐で括られていた。莉己までとは言わないが綺麗で整った顔立ちで、少し垂れ目な切れ長の目元のほくろがその雰囲気を、甘くしている。

 しかし、内側から送られてくる覇気は殺気すら含んでいて、彼がただの派手好きな商人ではない事を十分に知らしめた。

「孔雀団頭領、飛天殿か」
「そうや」
「私は白桜雅だ。まずは、無断で領地に入り、橋を壊してしまった非礼を詫びたい。すまなかった」
「……」

  表情一つ変えない飛天に対して、桜雅も丁寧ではあっても、一歩も譲らぬ気迫で、真正面から向かっていった。
「虫が良すぎると承知の上で、そなたに力を貸して頂きたくやってきた。話を聴いてはもらえぬか」
「前王の第三公子ともあろうお方が、こんな盗賊まがいの商団に何用があるんですかね」

 飛天を取り巻く空気が少し緩んだ事がわかり、桜雅たちは内心ホッとした。商人たちの情報網は、半端じゃ無いと聞いている。ましてや只の商団ではない彼等は恐らく桜雅達の事も正確に把握しているだろう。
 桜雅は慎重に言葉を選んだ。

「私の臣が今、力を借りれるのは飛天殿しかいないと判断したのだ。正直言って私はあなたの事をよく知らないが、彼等のことは心から信用している。だからあなたにお願いにきた」

 飛天の顔にほんの一瞬影が差したが、それに気付く者はいなかった。

「その臣下が何を弟皇子殿に言うたか知りませんけど、俺が自分らを助ける義理はありません。むしろ
あんたらを近衛隊に差し出した方が、懸賞金貰えて得やと思うんやけど」

 飛天の無礼な言い分に桃弥の剣を握る手に力が入りり、事の成り行きを見守っていた飛天の部下達の不穏な空気が濃くなった。

  しかし、桜雅が桃弥を目だけで制した。
「確かにその通りだ。しかし、私たちも此処で捕まる訳にはいかない。取引をしては貰えないか」

 飛天の表情は全く読めないが、桜雅は先を続けた。
「どうすれば力を貸してくれるのだ。何を望む?」

 飛天が皮肉めいた笑いを見せた。
「皇子殿のお力で、金も名誉も自由自在って訳ですか。ありがたいな~」

 桜雅は内心失敗したと感じた。飛天と言う男は、権力や身分に対してむしろ嫌悪感を持っている側の人間だと確信したからだ。たとえ桜雅がそれをかさに協力を強制する気がなくても、弟皇子という立場はどうしようもない。

 桜雅は飛天の気分を害してしまった事を悔やみ、焦った。飛天の協力なしに光州への関を抜けることは出来ない。
「言い方が悪かったなら謝る。すまなかった。私は自分の立場を利用してあなたに協力させたり、命令する気は全くないのだ」

 やはり飛天は無表情で重苦しい空気は変わらない。桜雅は言葉を続けた。

「王の毒殺未遂は孫家の陰謀だ。この私も含め王族に対する謀反なのだ。この謀反を止めなければ祗国が傾く。今、蘭雅王無くして祗国の未来はない。そうなれば、大勢の民、そなたら商人も困るのではないか。どうか力を貸してほしい」

「力説してくれて悪いんやけど、断る。俺らには何の関係も無いことや。リスクを背負う義務も義理もないねん。でもまぁ、わざわざ皇子殿がこんな怪しい商団を苦労して尋ねてくれはったんやし、近衛隊に引き渡すのは止めとくわ。悪いけど、早く出て行ってくれへんか。あんたら追って部隊がすぐにそこまで来てるっての言う情報もあるし、巻き込まれたら迷惑や」

 口を挟む隙を与えないと早口でそう言い切った飛天の整った顔からは、もう何の感情も読み取れなかった。先程見せた嫌悪感ですら、もう見えない。

「……」
 ここであきらめる訳にはいかない桜雅が必死で頭を回転させた、その時だった。

 大きな欠伸をしながら、朱璃がひょこひょこ右足をかばう様にびっこを引きながら現れた。
「あの、馬鹿っ」
 桜雅も桃弥も焦りに焦った。何というタイミングの悪さだ。
 案の定、男達の殺気が朱璃にも向けられた。桃弥が飛んでいって朱璃を背に隠す様に庇う。

「桃弥? おはよう~。ごめんなーー私どんくらい寝てたー? 」
 2人とも目を剥く。起きてすぐであっても、強面の男たちに囲まれているこの状況に気が付き、空気を読んで欲しかった。

「なになに~?どうしたん~?あっ桜雅?」
 2人の心境も知らずに緊張の欠片も無い声で、桃弥の背中からひょっこり顔を出した。
「ばっ!」
 桃弥が慌てて頭を押さえつけ、桜雅が朱璃を睨んだ。

「あ、れ? もしかしてやばい事なってる?」
 2人が溜息と同時に肩を落とした。

 朱璃の頭がやっと再稼働し始め状況把握しようとした。
 自分達と対面している男達からの殺気。桜雅と話をしていると思われる人間との間には不穏な空気。
 それにしても、なんちゅう派手な衣装や。重そうやなー襟元が着物に似てるなー。それに銀髪長髪って……
 あれ? こういう感じに豪華な人見た事ある?

「朱璃ちゃん?」
 先に気がついたのは飛天の方だった。
「……天さん? うわっ やっぱり天さんや」
 朱璃が飛天の側に駆け寄り頭を下げた。
「先日はありがとうございました」
 先程までの飛天の凍った空気が激変した。
「んーや。大した事してへんって。それよか、やっぱり足痛めとったんやな。大丈夫か?」
「はいっ。大丈夫です。この位で済んだのは天さん達のおかげです」
 無邪気な笑顔を見せる朱璃に、飛天も優しい笑みをうかべている。

 突然の出来事に桜雅達も言葉が出ず成り行きを見守るしかなかった。

「こんな所で天さんにお会いできるとは思いませんでした。……もしかして」
 やっと自分の置かれている立場に気がついたのだろう。飛天と桜雅を交互に見つめた。
 桜雅も我に返り、朱璃を守ろうと手を伸ばそうとしたときだった。

「もしかして、天さん達も霊霊芝狩りですかっ? この辺凄いですねー。 私始めて見て、もうびっくりしました。 ほらっ こんな大きなのが採れたんです。 これって相場で幾らで位になります? 卸値でも相当しますよね」

 大事に腰袋から霊霊芝取り出して、やや興奮した面持ちで飛天に見せる朱璃の行動に、桜雅も桃弥もひっくり返りそうになっていた。

 一方、流石の飛天も驚きを隠せなかった。桜雅達が朱璃を守ろうとしている事からも、朱璃が桜雅たちの連れだと言うこと間違い無いだろう。女連れとは聞いてなかったが……お付きの童が1人、なるほどこれか。
  キノコを持って懐っこい笑顔を浮かべる朱璃とさっきから百面相している若者2人を飛天は面白そうに見つめるのだった。

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