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32話 私はアイリに教えられる

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 騎士学校へアプローチの件は兄様にお任せしてしまった。
 馬車が寮に着いた時には私もだいぶ落ち着いていた。
 兄様に優しく撫でられていた私は、恥ずかしさのあまり、まともに兄様の顔を見ることが出来きずに馬車を降りた。
 顔を赤くしていると思う。
 兄様に甘えてしまった。
 しかも思いっきり。
 兄様はスーパー変態シスコンなのに。 

 兄様は何事も無かった様に穏やかだった。
 いつもの兄様。
 きっと兄様は私が何者でも兄様で在ってくれる。
 だから私も何があっても兄様の妹だ。



「ただいまアイリ。遅くなってしまってごめんなさい」

「お姉さまお帰りなさい」

 私は笑顔で出迎えてくれたアイリを見た瞬間、余りに愛おしくて抱きしめてしまった。
 そして自分が思い違いしていたと気付かされた。
 いつもは苦しいと訴えるアイリが今日に限り、静かに抱きしめられるままでいてくれる。
 感づかれてしまったかしら。
 こんなじゃ、お姉ちゃん失格ね。

 「アイリありがとう」

 「どういたしまして」

 ふふふ、アイリに教えられるなんてね。
 アイリはやっぱり可愛い。
 可愛い可愛い私の妹。
 その可愛さは右肩上がりで留まることを知らない。
 私が何者かなんて、アイリが可愛いと言う事実に比べればどうということはなかったのだ。
 私は私が何者であれ、アイリの夢の実現の為に邁進出来ればそれでいい。

 「アイリ!可愛いわ」

 私は堪えきれずににまたアイリを抱きしめた。
 はぁ、アイリは柔らかくいい匂いだ。とっても落ち着く。

 「お姉様。苦しーよ。ギブギブ!」

 私はアイリを開放した。
 アイリから見ても元の私に戻ったみたいね。
 妹分補充完了、お姉ちゃんはもうフルパワーで働けるわ。

「アイリったらそんな言葉どこで覚えたの?」

「フェオレちゃんだよ」

 フィオレちゃんはアイリ達のバンドの作詞兼オルガン担当の娘。

「フェオレちゃんは表現が上手ね」

「うん、凄いよね」

 そんな会話をしながら、姉妹の時間をとっても濃厚に過ごしたのだった。

 その日の夜、私はベッドに入ったものの寝付けずにいたので、兄様がしようとしていた事を整理する事にした。
 
 兄様の口ぶりからすると、あのレストランには王太子殿下もお忍びでよく訪れる、という事よね。
 殿下は今年18歳。
 兄様達からみれば騎士学校の2学年後輩で、今年騎士学校の最高学年になるのかな。
 因みにシャルやアイリは今年13歳で5歳差。
 シャルが18歳で学園卒業、成人を持ってからの婚礼とすると、その時殿下は23歳、国王に即位するにちょうど適齢と思う。
 
 兄様は殿下に働き掛け、王家よりの口添えを頂こうとしているに違いない。
 殿下としてもシャルと会う機会が持てるのは喜ぶべき事のはずよね。
 であれば、ここは私よりも兄様の方が適任かしら。
 後でいっぱい妹分の補充を要求されてしまうだろうけど、ふふふ、別に交換条件でなくても兄様の要求くらい応じるのにね。
 私は兄様の妹ですから。
 
 この件をトレーニ様に頼まないで済むなら、その方がいいかな。
 もし、トレーニ様が私に好意を寄せてくれているとしても、私は直ぐに応える事は出来ない。
 私にはアイリの夢の実現するという夢があるもの。
 それに、私はトレーニ様の事をどうも異性として意識できていない。
 私にとってトレーニ様はあくまで兄様のご友人。
 そんな私がトレーニ様のご好意を利用するのは気が引けるという思いもある。
 何より、兄様が暴走する様が容易に目に浮かぶ。
 きっと、兄様は決闘を申し込むに違いない。
 そうなったら私はいつまで経っても結婚出来ないかもしれないわね。
 兄様はとってもお強いので。

 ふふふ、本当に困った兄様ね。


ーーーーーーーーーーーーーーー

 
「今日は皆さんに重要な伝達事項があります」

 壁越しに控室にも聞こえる教師の声。
 今日は夏季休暇後、最初の登校日である。

 私とアイリは長い夏季休暇を久しぶりの実家でゆっくり過ごしたのは言うまでもないけど、私は新学期が始まるのが待ち遠しくて堪らなかった。
 
 私は兄様から、騎士学校の協力を取り付けられたと休暇に入る前に聞かされていたのだ。
 厳密には騎士学校の学生さん達がお客さんになっくれるだけで無く、招待客もいるとの事だった。
 兄様やトレーニ様も招待されているらしい。
 騎士学校の生徒さんがお客さんにとして活動成果を見てくれるなら皆張り切るわよね。

 そして、今日遂に学園から生徒に向けて正式に公表された。
 お姉ちゃん夏季休暇の間、何度アイリに言ってしまいそうになったことか。
 どうも私ったら秘密にするのが苦手みたいね。
 それも、本日この時まで。
 
 各学年の教室では学園祭開催についてと、その趣旨や規則等が説明されている。
 この学園祭が課外活動の発表の場で在る事、それはつまり聖女に相応しいかの評価に影響を与える事である。
 その点を明確に生徒に説明した。
 

ーーーーーーーーーーーーーーー


「とんでもない事になっちゃったね」

「でも、発表の場所を与えられた事には素直に感謝だわ」

 放課後の練習も終わって、学園祭をどうするかを皆と話し合っていた。
 もうすっかり練習後のティータイムも定番に。
 皆、私の特製クッキーと飴を喜んでくれるのは嬉しい限りである。

 因みに私は力を使い、皆の練習時の音は練習場から漏れない様にしている
 だから、5人が作った歌の素晴らしさが学園祭当日まで外に漏れることはない。
 なんと言っても最初に大きな衝撃を与えることが肝心、感動が薄れない様にしないとね。
 この世界には無かった音楽の新しい可能性と言っても過言ではないのだ。

「発表会するならもう何曲か新曲あった方がいいかな?」

「あと2ヶ月では難しいわね。どう?フィオレ」

「2ヶ月では難しいと思う。曲が出来ても練習時間がないもの」

「そーだよ。まだこの曲だって完全とは言えないじゃん」

 そう言ったのはベース担当、リースちゃん。

「折角のデビュー曲になるのだ。まずはそれを完璧にした方がいい」 
 
 硬派な口調なのはドラム担当、ディジーちゃん。

「そうかーそうだよね。」

「そろそろバンド名も決めないとよね」

 ふふふ、お姉ちゃん真剣なアイリが見れて嬉しいわ。
 私としてはこうしたらって案はあるけれど、それを言うのはやっぱ無粋だよね。
 こんなにも皆一生懸命。
 5人だけのチームなのだから5人で全て決めた方がいいわ。
 
 お替りのお茶の準備をしながら、しっかり学生生活を青春している5人の姿を見て、羨ましく、そして懐かしくも思うのだった。
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