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16話 私とアイリの初登校

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 聖女養成学校、通称 聖女学園の新年度が始まった。
 今日はその第1日目。
 この1日でアイリの学園内の立場が決まってしまうだろう。

 アイリは自分からグイグイ出ていくタイプではない。
 だからアイリを対等に扱い、周りに強く出れる友人が必要だ。
 私は学園生活自体送った事はない。
 しかし、前世の王宮仕えの聖女生活での経験や事前の情報収集(主に読書による知識)より集団の中での立ち位置は重要なことを知っていた。
 そして、アイリの友人候補には事前に今年の新入生名簿に目を通し目星をつけていた。
 ちなみに騎士養成学校の名簿も頭に叩き込んである。

 朝早く、日の出前に私は起きる。
 身支度をし、寮の厨房に向かった。
 学園には食堂があり、お弁当を作る必要はない。
 また朝食、夕食も寮で出るので私が作る必要はない。
 しかし私は寮に入ったその日の内に厨房の使用許可を貰っていた。
 全てはアイリの為である。
 アイリの食事に下手に口出しすると周囲の反感を買うだろう。
 だから、厨房を借りる理由は別のことだ。

 私は厨房での用事を済ますとアイリの部屋に入った。
 アイリはスヤスヤ寝ている。
 私はアイリを起こさない様に力を使い、一応この部屋から音を消した。
 少しだけカーテンから光が差し込む様にする。
 アイリが心地良い朝を迎える事ができる様にしてあげたい。
 果たして、アイリは徐々に目が覚めて行く。
 私は窓の側にいてアイリの目覚めを見守る。
 やがて自然にアイリの目が開く。
 私はもう少しだけ光が差し込む様かといって眩しくない様にカーテンを調整し少しだけ窓を開ける。
 力を使い、いい香りのする風をアイリに向かって吹かせる。
 徐々に覚醒していくアイリ。
 私はアイリの側に行くとアイリの頭を優しく撫でる。
 アイリは背伸びをしてから半身を起こす。
 アイリは少しボーッとして、やがて私の胸に抱きつき、私の胸に顔を埋めてくる。
 私はアイリを撫でながらアイリに静かに優しく挨拶する。

「お早うアイリ」

 まだ少し寝ぼけているアイリは私に頬ずりしながら

「お姉様~」

 と、猫なで声で甘えてくる。

<アイリ!いつも可愛いけど今日も最上級に可愛いわ!! お姉ちゃん幸せ過ぎ!!>

 やがてアイリは完全に目が覚める。
 そして恥ずかしそうに言うのだ。

「お姉様、お早う」

<ぐふふ! アイリ、ギガかわゆす!>

 実家の時と同じ朝を過ごせる事に私は幸せを感じていた。

「朝食までもう少し時間あるから お着替えとお支度すませましょう?それとも直前まで寝ている?」

「起きるからお支度手伝って~」

 アイリは甘えてくる。

「勿論よ。アイリ。 お姉ちゃんアイリのお世話をするの大好きよ。お姉ちゃんはその為についてきたんですもの。今日は大事な日。完璧に仕上げましょう」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 校舎に入ると多くの入学生がいる。
 そんな中でもアイリは人目を引いている。
 なんというかオーラが違う。
 お姉ちゃん鼻が高いわ。
 尚、教室にメイドが入ることは許されず、
 隣の控え室で待機しなければならない。
 人見知りのアイリが進んで人の輪に入れるかは私の腕にかかっている。

 今年の入学生で中心になるだろう人物は分かっている。
 控え室にわざと最後に入り、入り口で力を使った。
 すると控え室に集まったメイド達の頭上に
 彼女たちの名前が表示される。
 私は聖女学園生徒名簿でメイド達の名前も覚えた。
 彼女たちは貴重な情報源であり、(利害はあるだうが)場合によっては支援者になってくれる。
 さて、お目当ての人物は………

 いた!

 私は真っ先にそのメイドさんに近づく。

「失礼致します。 恐れ入りますがラーゼフォン公爵家ご令嬢シャーロット様お付きのエマ様ございますね。 私はユニスリー辺境伯家令嬢アイリス様のお付きでリリーと申します」

私はそう言って深々とお辞儀をした。

「これはご丁寧に。ユニスリー家と言うとひょっとして?」

「はい、アイリス様のお兄様はダンベルハワー様でございます」

「やはり!」

 騒つく周囲のメイド達。
 兄様の人気を利用するのは気が進まなかったが、これでメイドたちはアイリと敵対しないように各令嬢に働きかけるだろう。

「そ、それで何かご用でしょうか?」

「はい、シャーロット様におかれましては王太子様とのご婚約おめでとうございます。アイリス様が直接お話ししたいと申されたのですが教室でお話しかけるのは失礼にあたるのではと心配しておりましたので、僭越ながら私の方からお願いに上がりました。エマ様のお口添えを頂ければと思いまして」

 再び深々とお辞儀をする。

「お丁寧にありがとうございます。一番にご挨拶に来られるとは、アイリス様は見る目がございます。シャーロット様には私の方からも口添え致します」

 私の態度に気を良くしたエマは口利きを約束してくれた。

「ありがとう御座います。シャーロット様は将来の国母になられるお方。一番にご挨拶申し上げるのは当然で御座います。エマ様のご厚情、アイリ様、ダンベル様にもお伝え致します」

 その言葉にゴクリと喉を鳴らすエマ嬢。
 残念ながら貴族令嬢が多いこの学園。
 権力と派閥の論理が働くのは致し方がない事。
 アイリを守る為、お姉ちゃんは利用できるものは利用するわ。
 二人が友人関係になれればアイリの立場は安泰。
 重要なのは対等の友人であることだ。

「それで、ダン様のついて宜しかったら教えていただけませんか?」

 私はニッコリ微笑み、エマとの友好を深めるために兄の幼少期の話を始めたのだった。

 さて、吉と出るか凶と出るか。
 神のみぞ知る。である。
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