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5話 裏方達の会話

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 天上界、それは世界を創った神と天使達の住まう場所である。
 ここから世界の維持管理を行うのが神様の仕事。
 天使達は神様の指示のもと、手足となって動くのが仕事だ。
 しかし現在世界は平和の真っ只中。
 この世界はあまり手がかからない位に成熟してきている。
 世界の維持管理は大天使達に任せて問題なかった。
 したがって神様は最近はすこぶる暇だ。

「ふぁー! この世界も順調に育ってきたねぇ」

 最近は独り言も増えた。
 ここ1000年ですっかり怠惰になった自覚もある。

 神が暇なのは 星も人間界も太平の世ということ。

「いいことなのは分っているんだけどね」

 如何にもな神殿でふんぞり返って椅子に座るのも疲れるし、飽きたので現在は雲の上で寝転がって、下界をボーっと眺めている。

「酒で酔える人間が羨ましいよ」

 ほろ酔い気分で1000年程うたた寝できればどんなにいいことか。
 そんなことを考えていると。
 天使が一人こちらにやってくる。

「神様。こちらっすか 探しましたよ」

「ミッチェル君か。丁度いい。話し相手にでもなってくれないか」

「はあ、まぁいいっすけど」

「退屈で仕方なくてね。あと神様なんて他人行儀だな。君と僕との仲だ、名前で呼んでくれ給えよ」

「無茶言わないでくださいっす。神様のご尊名はそれだけで力があるから呼んだ瞬間、爆裂するっす!」

「ははは! そうだったね。ちょっと想像したよ ひでぶ! とか言って爆裂したところ」

「ヒドイっすね」

「いや、済まないね。すっかり忘れていたよ。しかし呼ばれることすら叶わない名前なんて無いのと同じだねぇ」

「呼んでもらえなくても名前が在ることに意味があるッス」

「まぁねぇ。ところでなんで君はサングラスなんてしてるんだい? 黒を通り越して暗黒じゃないか」

「そりゃ、神様の御尊体が眩しすぎるからっすよ。なかなか似合ってるっしょ」

「赤ちゃんがサングラスして似合うと思うかい?」

「これでも大天使っすよ?あとそういう姿にしたのは神様っす!」

「それもそうだったねぇ。いやはや懐かしい。君たちを生み出したころは、この星は煮えたぎるマグマだったねえ」

「そうだったっすね。思えばあの頃から人使いが荒かったっすね」

「そりゃ、私が楽するために君たち生み出したんだから当然じゃないの」

「ヒドイ話っす!そうだ、忘れるところだったっす。きいて下さいっすよ。私が担当してる転生者の娘知ってるっすよね?」

「ああ、リリエナスタ君か。もちろんだとも。僕が直接関わったんだからね」

「なんで、【成就】の力を与えたっすか?力を無駄使いし過ぎっす」

「そりゃ 彼女が慈愛属性だったからさ。実際前世では大聖女になったじゃないか。君もその頃からの担当だろうに」

「前世の時は雨ばっかり降らせてた気がするっす。おかげで雨を降らせるのは天使の中で自分の右に出るものはいないっす」

「そうだったねえ。ああ思い出した、聖女として王宮に招かれる前に失恋した男に雨を降らせただろう。あれは傑作だった」

「ああ、あれッスか。あんな雲一つ無い晴天で今すぐ雨を振らせて欲しいと願われても困るっす。必死でかき集めて来たんすから」

 現象には当然順番がある、雨を降らすためには雨雲が必要だ。
 水蒸気から雲を作るには時間がかかる。
 だから天使ミッチェルは必死に雨雲を集めたのだ。

「ははは! 男を中心に半径10mだけ雨って、そりゃむしろ呪いでしょ」

 そうなのだ、あの時、失恋男の周囲にだけ雨が降った。
 雨にうたれたい気分だ!などと言ったのが、失恋男の運の尽きなのである。

「あの時の男の泣きそうな顔は忘れられないね」

「その状況を作った自分としては何も言えないっす。てか話が逸れたから戻すッス。今生ではもっとヒドイっす。なんで大天使12階の中でも第3階の自分が3歳児の夜泣きを未然に防ぐ為にずっと見張ってないといけないっすか!」

 そうなのである。
 リリーの願いを叶える力は 天使達の努力によって成り立っているのだ。
 リリーが力を使う時、見えないが天使たちが願いの実現の為に
 働いていた。

「部下の天使達に任せればいいじゃないの」

「未来予知ができる部下がいないっす。だからお願いっす、神様!できれば優秀な部下つけて下さいっす」

 未来予知はかなり高位の天使の力が必要なようだ。

「なんだ、それが目的か。そうだねえ、ルコーとキャペンを回そうか。あとで僕から伝えておこう」

「おお!中天使1位と2位の!ありがたいっす!神様、どうしてそんなにあの娘絡みだと気前がいいスか?」

「あの娘は私の娘みたいなもんだからねー」

「え?」

「いや、つながりはないよ?異界から呼んだ娘だからね」

「そ、そうすか。そうゆうことにしとくっす」

「変に勘ぐらないでくれよ」

「そうえば、あの娘の家って転生者ばかりなのは何故っす?」

「世界に新しい可能性を与えたくてね。面白いだろう?」

「今の所、揃いも揃って、3歳児を甘やかすだけっすけどね」

「3歳ならそろそろ 覚醒してもいい頃だけど」

「おや、神様ご存知なかったっすか?アイリスは〝無垢な魂〟っすよ?」

「あれ? そうなの?」

「ほんとにご存知なかったんすね」

「そうか!ついにこの世界にも無垢な魂が!苦節46億年、感慨深いねえ」

 無垢な魂、それは何の色にも染まっていない魂。
 そして自分の染まりたい色に染まるのだという。
 初めこそ無垢なる故に何も持たないが自分の道を定めた時、他の追随を許さない領域にまで達し、世界を変革すると言われている。
 そしてその誕生は、神様ですら関知できぬ世界の真なる奇跡なのである。

「リリエナスタ君の妹として生まれたのは、行幸だ。悪い方向には育たないだろう」

「勇者でも賢者でも聖女でもイイっすけどね」

「そうだなあ、それじゃあ大魔王でも用意しようか?」

「冗談はやめてほしいっす。せっかく世界がここまで育ったっすよ?」

「ははは! 冗談冗談。あれは私では生めないよ。魔が生まれるのは世界の淀みからだからね。そんなの放置してたら、僕の管理能力疑われちゃうよ。管理職はつらいねー」

「?」

 しかしその言葉はミッチェルには理解出来なかった。
 神の事情は天使に伝わることは無い。
 そう作られている。

「まあ、しばらくは注視しようじゃないか。ミッチェルくんも夜泣きの見張りを頑張ってくれ給え」

「とほほッス」

 神様は上機嫌だ。

「ルコーとキャペンの件忘れないで下さいっすよ」

「おっけー牧場」

 どこまでも軽い神様だった。
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