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初恋

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「お、おはようござい、ます」

「?ああ、おはよう。どうした、そんなに顔を真っ赤にさせて」

ジョルジュさんの顔を見ると、なんだか頬がぽかぽかする。

端正な顔が近づき、私の額に手を当てると、「熱はない様だな」と呟くジョルジュさん。こんなに熱いのに私、病気じゃないんだ。

やっぱり、呪いか。でも、解呪する方法なんてわからないし。

顔近いし、鼓動は早くなる一方だし、ジョルジュさんの前だと意識して言葉が出てこない。

「顔、近い、です」

「あ、ああ。すまない。だが、本当に大丈夫か?いつにも増して調子が悪そうだ。もし体調が悪いなら無理せず保健室に行け」

――ドキ。

ああ、また心臓の脈が大きく波打つ。彼に心配される度、ジョルジュさんのことを考えずにいられなくなる。

どうしよう。ずっとこの調子だと、ジョルジュさんとまともな会話が出来っこない。それだと困る。この人は私の話を聞いてくれる唯一の人なのに。

人間でいうところのお友達の関係。私はずっとお友達なんていなかったし、せっかくできたお友達に嫌われたくない。

この呪いのことを口に出したら、きっと彼に心配させてしまう。

「……だ、い、じょうぶ、です」

ドキ、ドキ、ドキ、ドキ――。

彼に近づきすぎないように手で制し、ゆっくりと校舎に足を進める。彼は心配そうに私の隣に付き添うが、本当に心配しなくていい。

ずっと隣にいられると緊張でどうにかなってしまいそうだ。

彼から距離を取るべく小走りで校舎の中へと入る。背後から制止の声が聞こえたが知らないフリをした。

ああ、こんな調子では授業どころかまともに日常生活を送れない。

私は、どうしたらいいのか。無意識のうちに教室に荷物を置いて、中庭の方へと向かった。


…………。

――中庭の庭園裏。

そこは人面犬が根城にしているさびれた物置小屋があった。

人面犬はジョルジュさんの鶴の一声で学校で飼うことになった野良犬、という扱いでジョルジュさんの責任の元でここで生活するようになった。

私の存在に気づくと、のびーっと背筋を伸ばし、気だるそうにこちらをみた。

「お前がここに来るなんて珍しいな。どうしたんだ――って、顔色悪いな」

「聞いて、人面犬。私、呪いをかけられたかもしれない」

「はぁ?」

今は人の顔じゃないので定かではないが、きっと人の顔のままだと「なんで俺に相談するんだよ」って表情をしながらも、声色では心配を隠せない声色をしていた。

怪異の頃からも、弱い癖に義理堅い性格だから面倒見がよくて他の怪異からもよく護ってもらえていた。彼は弱い。それが怪異として生き残るなら、時には世渡りの術も必要なのだろう。

そんな余談はどうでもよくて、人面犬は私の前まで歩いてくると、じっと犬顔で私の顔を見上げた。

すんすん、と臭いを嗅ぐ。

「呪いの匂いはしねぇが。新天地での同じ怪異同士のよしみで聞いてやるよ。何時から、どんな症状がでてるんだ」

私は順を追って説明をした。ジョルジュさんとトイレの花子さんの噂を広げたこと。人間を脅かすために手を切った時に心配をされた辺りから、ジョルジュさんを意識し始めたこと。彼のことを考えると心臓が痛くて、鼓動が早いこと。一人になると、途端に寂しくて惨めな気持ちになること。

そこまで話すと、人面犬は本当にうんざりとした顔で低く唸った。

「おい、惚気話かよ。呪いだっていうから真剣に聞いてやったのに、俺の心を弄ぶたぁいい度胸じゃねぇか」

「なんで、今の話が惚気話になるの?だって、今まではなんともなかったのに、ジョルジュさんのことだけを考えたらこうなるんだよ?だったらもう呪いしか考えられないじゃない」

「……かーっ!やってらんねぇ。俺はそんな下らねぇ話をする為にお前と話してんじゃねぇよ。学園に恐怖を広げるために手を組む話ならいざ知らず、人間のおままごとの恋愛なんかに付き合ってられるか。さっさと帰れ惚気話の花子が」

「惚気話の花子」ってなによ。私は「トイレの花子」なのだけど。人面犬が症状を説明しろっていうから事細かく説明したのに、どうして雑に追い出そうとするの。

「私、真剣に悩んでいるの。このままだと日常生活にも支障がでるし……、ジョルジュさんとまともに話せなくなると、今後も困る、というか」

「あー、はいはい。それは困ったねぇ」

それ以上聞く気はないのか、しょうもないと吐き捨てた人面犬は私を無視して背中を向けていびきをかき始めた。


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