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2章

予期しない来訪者

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――コンコン。

「え?なに、誰?」

カールの部屋は2部屋ある。ひとつは寝室用。三階建ての屋敷の三階、中央階段から近い部分にある。もうひとつは、魔法石研究用の部屋。これは魔法石の持ち運びもしやすく、万が一魔力暴走等をした時の為に一階中央玄関から一つ部屋を挟んだ場所にあった。

この場所は、人の出入りがあると、足音や扉の音が非常に聞こえやすい位置。万が一、中央玄関の扉をノックするのであれば、すぐに反応ができる。

そもそも、玄関をノックするものなんて、この森には存在しない。

魔獣や魔物は用事があれば、玄関前で鳴き声を上げて来訪を伝えるし、従魔も然り。さらに、ここはエミリアの家でもあるので、自分の家でノックして入る人間は少ないだろう。

ファフニールも考えにくい。つまり、この屋敷の玄関をノックする人物など、いるはずもなかった。

この森のものではない、第三者のものであると判断したカールは、丁度ポケットの中に入れていた、火の魔法石を手に持った。

万が一、何らかの方法でこの浮遊する森の中に侵入する者がいて、敵意を持っている人物であれば、すぐに対応できるようにだ。

そっと、玄関に近づき、備え付けられた覗き穴から来訪者の姿を捕えた。

(子供?しかも、ダークエルフ。魔族がなんでここに......)

そういえば。この空中都市を完成させるにあたり、魔素が濃い地帯に、浮遊させるために必要なポータルの設置が必要だと。それは世界各地に設置する必要があり、そのポータルがあって、空中都市が成立するのだとファフニールが言っていたことを思い出す。

難しい話は少し忘れてしまったものの、このポータル設置において、基本的には誰にもわからず、高位の探知魔法でもかけない限りは見つからないが、時々、魔力回路の安定しない子供がこのポータルの魔法陣を踏むと、この森に転移されてしまうと言っていた。

そういった事故を防ぐべく、森に移住してきた強力な魔獣をポータル付近に配置させて、迷い込まないようにしたらしいが......。もしかして、そのポータルを踏んで迷い込んでしまった可能性がある。

カールは魔法石から手を離し、そっと扉を開ける。

目の前のダークエルフの少年は、鳥の巣頭の怪しげなおじさんの姿に、警戒心をあらわにした。

「――ッ!人間ッ!」

まるで全身の毛を逆撫でるような、警戒心をあらわにした態度で、扉を開けたカールを威嚇した。まるで、子猫を守る親猫のようだ。

カールは、目の前の少年の異常な警戒に、どう対応したらいいのかわからず、居心地の悪そうに頭を掻いた。

「あ~。......とりあえず、落ち着かない?」
「落ち着けるかッ!おまえらが僕の村にしたことは忘れないッ!」
「......これ、前にも同じようなことが。......ああ、姉さんと出会った時か」

同じセリフ、今とは違うが、シチュエーションは似たような光景に、懐かしむように、顎鬚を撫でるカール。敵意を見せないカールに、段々と警戒が緩まる少年。

「大丈夫だ。ここは魔女の家だから君を害する”人間”はいないよ。ここは人間から隔絶された地だからね」

カールはぎこちない表情ながらも穏やかに少年に言い聞かせた。柔らかな口調、少しだけ固い声音からは敵意と害意は感じられない。

カールの少年に対する態度に、少年自身、村を襲った人間とは違う人間なのだと気づくと、失態を理解した子犬のようにしゅんっと耳を垂れ下げた。

状況整理の自己完結をすると、少年は礼儀正しい様子で腰を折った。
「......ごめんなさい。僕を追ってる人間かと思って.」
「ああ、いや。いきなりここに飛ばされるなんて誰でもビックリするよ。というかすぐに冷静になれることが凄いよ。......と、とりあえず、中、入る?」

カールは笑うのに慣れていない、ひくり、と不器用な笑みを浮かべて見せる。瓶底眼鏡が太陽に反射して、視線が見えない。ちょっと、変態チックに見えなくもない。

ただ、それが好意であることに、人の感情に敏感なダークエルフは気づく。信用してもいいかもしれない。けど、完全には信じられない。彼と自分を追っていた人間は違う人種であることはわかるが、彼が本当に善人なのか、判断材料に欠けるから。

怪訝な顔をしたり、困った顔を見せる少年に、カールはポケットの中にある魔法石をいじくりまわす。どうすればいいのかわからない。

「......あ~。こういう時に姉さんとかいれば相談出来たんだけど、今、転移魔法の実験で鉱山の方にいるしな~......どうしよ」
「姉さん............?」
「ああ、この屋敷の持ち主だよ。で、この森で二番目に偉い人」
「偉い人......?では、一番は?」
「一番は......その、多分腰抜かすと思う。口で言っても信じられないと思うよ......」
「............?」

力なく笑う意図がわからず、首を傾げる少年。カールは、少年がここを動かない以上はどうすることも出来ないので、椅子と飲み物を玄関に持ってきて、エミリアとファフニールの帰りを待つことにした。
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