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契約結婚②
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「セルジュ様。お気持ちはわかりますが、貴方が自分勝手に死ねば、貴方の為に働いている部下や使用人はどうなるのです?」
「わかっている。でも、今回のことで、失った物が大きすぎた。今回の件で財と領地の大半は奪われ、信じて来た友にも裏切られた。長年ヴェルレー家を守り続けていた父上にも、ご先祖様にも顔向けができない」
「では、あなたはこのまま奪われたまま、死んでいくの?」
「それは……。でも、友だったものを傷つけてまで、俺に生きる価値はあるのだろうか」
完璧だと思っていたセルジュ様の思わぬ欠点が垣間見えて、ギャップ萌えで「ン”ッ」と悶えそうになるが我慢だ。こんなにイケメンなのに、男らしいのに、中身は女々しいって……予想の斜め上で新しい扉が開きそうだ。
推しが困っているところに甘やかして解答をしてあげたいが、それではセルジュ様に失礼だ。今は推しではなく、困っている一人の人間として答えてあげなければきっと彼は納得しない。
「生きる価値があるかどうかは他人ではなく、自分で決めるもの。自分の命をどうするかの選択を他人に委ねてどうするのですか。私はあなたのパパでも、ママでもなくてよ」
うぅ……推しに酷い言葉を浴びせてしまうのは心苦しい。けれど、セルジュ様は貴族会議の出席を認められ、一家の当主でもあるもの。子供が欲しがるような解答をするのは彼にも失礼だわ。それに、賢い彼ならきっとわかってくれると信じてる。
「……失った物を取り戻したい、と思うのは我儘だろうか」
「当然の権利ですわ。ただ、失った物を全て取り戻すのは無理があるかと、形があるものであれば壊れていなければ取り戻すことも容易でしょう。しかし友情や人間関係というのは一度壊れれば元通りに修復するのは不可能です」
一度裏切れば「裏切り者」というレッテルが貼られる。貼られれば、どれだけ名誉を挽回したとしても、どこかしらで「過去に裏切った記憶」が過る。その状態で友人関係を築くのなんて、私が知る限り不可能だ。
少なくともニコラエヴナでの裏切りは一家郎党根絶やしにするくらいには重い罰を受けることになる。
それだけ人間関係においての裏切りは重いものだ。
なのに、セルジュ様の友情や恋心を利用して裏切るなんてひどすぎる。私の推しを泣かせないで欲しい。推しの幸せしか許せないのだ、私は。
……このまま放っておくと、またセルジュ様が自殺を図るかもしれない。推しの危機を放っておけるオタクがいるだろうか。
ずっと表情が暗いままだし。私にできることと言えば、セルジュ様に金銭的に貢ぐ、降りかかる火の粉を払ってあげるくらいだ。
――それに、国王夫妻がマジでムカつく。
これはもう、推しの為に身を粉にしてご奉仕するしかない。その為には。
「――セルジュ様。私と結婚しませんか」
「は?」
空気が固まる。ああ、いや、直球すぎたか。決してやましい心はある――っちゃあるけれど、推しと閨を過ごしたいとかそんな下心はない。推しは推せるときに推せ。推しの為に出し惜しむなというのが私の信条だ。
決して推しとリアルな結婚生活を過ごしたいとかあるわけがない!
「ごほん、言い方を変えましょう。私と契約結婚をしませんか?エヴナ家は爵位こそ低いですが、お金はあります。当面のお金の問題は解決できるかと思います。その代わり、セルジュ様には公爵としての高位貴族の人脈と我が家の子爵家としての格式を保つために尽力をしていただきたいのです。商いにおいて、高位貴族との人脈は顧客への信用を築きやすいですし、外国との取引にも結構重宝するんです」
公爵と結婚すれば、毒薬がどういうルートで入手されたかの調査もしやすくなる。おそらくは違法な方法で入手したものなので、ニコラエヴナ一家としても制裁を加えておきたい。裏のお仕事においても面子を保つという意味でもメリットしかない。
それっぽい理由を並べれば公爵は思案顔で手を顎に添えた。
考えるということは未来を見据えているということ。つまりは少しでも生きる気力はあるということでとても安心した。
「だが、イリーナ嬢に迷惑をかけることになる」
「もし、今回の毒殺未遂の件の風評被害ならご心配なさらずに。エヴナ家の人間は図太いんですのよ。子爵が公爵家とその繋がりと地位を手に入れられるだけで儲けものなのです。それに、私たち、国王夫妻には迷惑しているのです」
「……?」
これは表の仕事の事情だけれど。
「うちは食品事業を展開していて、穀物の輸入を積極的に行っているのですが、ついこの間、国王陛下の名の元に商会ごとの購入制限を法律で設けられたのです。穀物は食料品において値段が付きやすく、需要がある商品ですよね?まとめて買い込むことができなくなり、市場価格をコントロール……こほん、穀物を使った商品の開発ができなくなってしまったのです。大打撃とはいかなくても、売り上げ額に影響が出てきています。仕返しをしないと気が済みませんわ」
「たしかに、ニコライは非常時に備えて穀物を買い込み、保管するとかで法案を作成していたな。商会に買いこまれると非常時用の穀物を買い込めないとのこと……いや、そうか。おかしいと思ってたんだ。食糧の買い込み程度ならわざわざ規制しなくていい。だが、商会に穀物の買い込みを制限して、自分たちが買い込むことで市場の穀物の価格をコントロールして私服を肥やし、市場に穀物が出無くなれば放出する。放出すれば市場価格が下がり、穀物不足の救済措置にもなる。穀物はここ最近、悪天候で出荷率が減っていたからな。……この為だったのか」
さすがは宰相補佐。言わんとしていることを理解している。実際に私たちがやろうとしていたことをどこの入れ知恵か知らないけど国王権限で無理やりに独占されてしまった。
まぁ?私たちもその法律の穴をついて、ある程度の穀物を貯蔵しているけれど。
「そういうことです。お互いにメリットがある結婚だと思いませんこと?その代わり、期間は3年を設け、契約書も交わしましょう。どうですか?」
「……今はとにかく、悪魔と契約をしても金が欲しい。ああ、いや、イリーナ嬢が悪魔と言っているわけではないんだ」
「ええ、他意がないのはわかっております。では、当家おかかえの弁護士に依頼して書類を作成してもらいましょう。ふふ、楽しみですね、セルジュ様」
国王夫妻への復讐、セルジュ様との偽物だけれど夢にまで見た同棲生活、そして毒を流出させたまだ見ぬ犯人への報復……考えただけでも胸が躍るな。
「わかっている。でも、今回のことで、失った物が大きすぎた。今回の件で財と領地の大半は奪われ、信じて来た友にも裏切られた。長年ヴェルレー家を守り続けていた父上にも、ご先祖様にも顔向けができない」
「では、あなたはこのまま奪われたまま、死んでいくの?」
「それは……。でも、友だったものを傷つけてまで、俺に生きる価値はあるのだろうか」
完璧だと思っていたセルジュ様の思わぬ欠点が垣間見えて、ギャップ萌えで「ン”ッ」と悶えそうになるが我慢だ。こんなにイケメンなのに、男らしいのに、中身は女々しいって……予想の斜め上で新しい扉が開きそうだ。
推しが困っているところに甘やかして解答をしてあげたいが、それではセルジュ様に失礼だ。今は推しではなく、困っている一人の人間として答えてあげなければきっと彼は納得しない。
「生きる価値があるかどうかは他人ではなく、自分で決めるもの。自分の命をどうするかの選択を他人に委ねてどうするのですか。私はあなたのパパでも、ママでもなくてよ」
うぅ……推しに酷い言葉を浴びせてしまうのは心苦しい。けれど、セルジュ様は貴族会議の出席を認められ、一家の当主でもあるもの。子供が欲しがるような解答をするのは彼にも失礼だわ。それに、賢い彼ならきっとわかってくれると信じてる。
「……失った物を取り戻したい、と思うのは我儘だろうか」
「当然の権利ですわ。ただ、失った物を全て取り戻すのは無理があるかと、形があるものであれば壊れていなければ取り戻すことも容易でしょう。しかし友情や人間関係というのは一度壊れれば元通りに修復するのは不可能です」
一度裏切れば「裏切り者」というレッテルが貼られる。貼られれば、どれだけ名誉を挽回したとしても、どこかしらで「過去に裏切った記憶」が過る。その状態で友人関係を築くのなんて、私が知る限り不可能だ。
少なくともニコラエヴナでの裏切りは一家郎党根絶やしにするくらいには重い罰を受けることになる。
それだけ人間関係においての裏切りは重いものだ。
なのに、セルジュ様の友情や恋心を利用して裏切るなんてひどすぎる。私の推しを泣かせないで欲しい。推しの幸せしか許せないのだ、私は。
……このまま放っておくと、またセルジュ様が自殺を図るかもしれない。推しの危機を放っておけるオタクがいるだろうか。
ずっと表情が暗いままだし。私にできることと言えば、セルジュ様に金銭的に貢ぐ、降りかかる火の粉を払ってあげるくらいだ。
――それに、国王夫妻がマジでムカつく。
これはもう、推しの為に身を粉にしてご奉仕するしかない。その為には。
「――セルジュ様。私と結婚しませんか」
「は?」
空気が固まる。ああ、いや、直球すぎたか。決してやましい心はある――っちゃあるけれど、推しと閨を過ごしたいとかそんな下心はない。推しは推せるときに推せ。推しの為に出し惜しむなというのが私の信条だ。
決して推しとリアルな結婚生活を過ごしたいとかあるわけがない!
「ごほん、言い方を変えましょう。私と契約結婚をしませんか?エヴナ家は爵位こそ低いですが、お金はあります。当面のお金の問題は解決できるかと思います。その代わり、セルジュ様には公爵としての高位貴族の人脈と我が家の子爵家としての格式を保つために尽力をしていただきたいのです。商いにおいて、高位貴族との人脈は顧客への信用を築きやすいですし、外国との取引にも結構重宝するんです」
公爵と結婚すれば、毒薬がどういうルートで入手されたかの調査もしやすくなる。おそらくは違法な方法で入手したものなので、ニコラエヴナ一家としても制裁を加えておきたい。裏のお仕事においても面子を保つという意味でもメリットしかない。
それっぽい理由を並べれば公爵は思案顔で手を顎に添えた。
考えるということは未来を見据えているということ。つまりは少しでも生きる気力はあるということでとても安心した。
「だが、イリーナ嬢に迷惑をかけることになる」
「もし、今回の毒殺未遂の件の風評被害ならご心配なさらずに。エヴナ家の人間は図太いんですのよ。子爵が公爵家とその繋がりと地位を手に入れられるだけで儲けものなのです。それに、私たち、国王夫妻には迷惑しているのです」
「……?」
これは表の仕事の事情だけれど。
「うちは食品事業を展開していて、穀物の輸入を積極的に行っているのですが、ついこの間、国王陛下の名の元に商会ごとの購入制限を法律で設けられたのです。穀物は食料品において値段が付きやすく、需要がある商品ですよね?まとめて買い込むことができなくなり、市場価格をコントロール……こほん、穀物を使った商品の開発ができなくなってしまったのです。大打撃とはいかなくても、売り上げ額に影響が出てきています。仕返しをしないと気が済みませんわ」
「たしかに、ニコライは非常時に備えて穀物を買い込み、保管するとかで法案を作成していたな。商会に買いこまれると非常時用の穀物を買い込めないとのこと……いや、そうか。おかしいと思ってたんだ。食糧の買い込み程度ならわざわざ規制しなくていい。だが、商会に穀物の買い込みを制限して、自分たちが買い込むことで市場の穀物の価格をコントロールして私服を肥やし、市場に穀物が出無くなれば放出する。放出すれば市場価格が下がり、穀物不足の救済措置にもなる。穀物はここ最近、悪天候で出荷率が減っていたからな。……この為だったのか」
さすがは宰相補佐。言わんとしていることを理解している。実際に私たちがやろうとしていたことをどこの入れ知恵か知らないけど国王権限で無理やりに独占されてしまった。
まぁ?私たちもその法律の穴をついて、ある程度の穀物を貯蔵しているけれど。
「そういうことです。お互いにメリットがある結婚だと思いませんこと?その代わり、期間は3年を設け、契約書も交わしましょう。どうですか?」
「……今はとにかく、悪魔と契約をしても金が欲しい。ああ、いや、イリーナ嬢が悪魔と言っているわけではないんだ」
「ええ、他意がないのはわかっております。では、当家おかかえの弁護士に依頼して書類を作成してもらいましょう。ふふ、楽しみですね、セルジュ様」
国王夫妻への復讐、セルジュ様との偽物だけれど夢にまで見た同棲生活、そして毒を流出させたまだ見ぬ犯人への報復……考えただけでも胸が躍るな。
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