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素直になれない

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アントネッラ・カステルの存在のおかげで王妃の情報を入手できた。

動向を把握することができるし、私は私で自由に行動することができる。ジュリアも傍に着けているし、上げられてくる情報の精度も問題ないはずだ。

それにしても、鉱石事業での事故とトラブル――ここで見過ごす私ではないわ。

早速情報をより集めないとね。

その為には社交界に行かないと。一応、私のやることに口を出さないとはいってくれたけど、ヴェルレー公爵夫人として催し物に参加するなら許可を貰わないと。

執事長にセルジュ様の場所を聞き、執務室に向かうとぼぅっと庭園を見ているセルジュ様。

あぁ、そのなにも考えていない無のセルジュ様も素敵……。

画家を呼んでスケッチさせたいくらいだわ。

「どうした、俺になにか用か?」

「はい。少々仮面舞踏会に参加してこようかと思いまして、その許可を貰いにまいりました」

「許可など必要ないと言っただろう」

「そうなのですが、やはりヴェルレー公爵家の名を使って社交界に参加する以上は情報共有した方が安心できるかと思いまして……」

勝手に使って推しに迷惑をかけるのは絶対に嫌だし。契約結婚である以上、対等に誠実に接したいと思っている。

それに、もしヴェルレー公爵家の名前を使ってポカやらかしても、前もって共有していれば、非常事態に早めに対処できるだろうし。

ただでさえ、ヴェルレー家は持ち直したとしても、まだまだ危機的状況に瀕しているのに。

セルジュ様は、物愁い気な表情でサファイアブルーの視線を窓から私へ滑らせた。

「どうして、他人の為に、そこまで一生懸命なんだ」

「他人の為……?」

「そうだ。俺とそなたは夫婦関係であっても他人だ。なのに、俺が橋に飛び込んだ時に助けたり、家の管理を見直し、今もこうやってヴェルレー公爵家としての社交界に参加する務めを果たしてくれている。利益で結ばれた関係のはずなのに、お前は契約以上に仕事をこなしている。それが俺には理解できないんだ」

セルジュ様には「自分の為に」行動していると見えてしまったのか。たしかに、セルジュ様の幸せを取り戻すために行動していることはたしかだ。

推しには幸せになって欲しいし、不幸せな未来を歩んでほしくない。でも、それは私の願いで私のエゴだ。

他人の為に見えたとしても、結局は「私がそうしたいから」そうしていることで、自己満足。つまり、結局は自分の実益の為に行動しているほかない。

だから、セルジュ様がそんな傷ついたような、他人を利用しているような罪悪感に滲んだ表情をしなくていい。

でも、今のセルジュ様はどんな言葉を並べても響かないのかもしれない。彼は繊細な人だというのはこの一ヵ月半過ごしてよくわかった。彼は賢いし、与えられた仕事は結果で残し、完璧にこなす。他人に容赦のない性格だというのも本当だ。

対して人に依存しやすい性格で、懐に入れた人間には盲目的に甘くなりすぎる欠点を持つ。

そういうところも素敵だし、だから多くの劇の主人公のモデルにもなるのだろう。

「セルジュ様、勘違いなさらないでくださいませ。家を管理するのは、私がこの家で安心して暮らしていくため。社交界に足しげなく参加するのは私の復讐のため。貴方を助けたのは、目の前で自殺されるのが後味悪かっただけですわ」

「……そう、だな。たしかに、都合の良い解釈をしていた。あの時は本当に迷惑をかけたと思っている、すまない」

「なら、二度と命を捨てる真似なんてしないでくださいね。私が拾った命、天寿を全うするまで大切に生きないと許しませんよ」

――推しにこんな言い方は心苦しいけれど、変に情を移されてはいつか離れる時が来た時、苦しい思いをすることになる。

こうして私を気にしてくれているということは、少なからず、私にも心を開いてきてくれた証拠だ。嬉しいけれど、私みたいな人間に罪悪感を感じることも、心配することもない。

私も自分の欲求を満たす為に貴方を利用している人たちと変わらないのだから。

セルジュ様は立ち上がると、私の前まであゆみより、さらりと撫でるように髪の毛を触る。

ち、近!なに、急に推しからのファンサとかどういうこと!?

生セルジュ様が、私を触ってる!?

――ひっ、ひぃ、ふぅ……。静まれ、私のバクバクと鳴る心臓。

「髪の毛にゴミがついていた」

セルジュ様は指先についた埃を私に見せる。

私、そんな汚い状態で推しを目の前に偉そうなことを言っていたの!?恰好つかないし、恥ずかしすぎる。

「今後は本当に俺に承諾を得る必要はない。公爵夫人の権限内なら好きにしろ。そなたはヴェルレー家の女主人なんだから」

「は、はひぃ……」

「それと、社交界に参加するなら、大規模のものなら伴侶を連れて行かないと体裁が保てないだろう。仮面舞踏会なら結構な規模のはず。俺もついていくから、場所と日にちを共有するように」

「はひぃ……」

「これで、用事は済んだな?」

「は、はひっ……、はい!?あ、っ、そ、その、セルジュ様もって……」

ファンサに放心状態で話半分に聞き流していたけれど、今とんでもないことを口にしなかった?

セルジュ様とパーティーに参加って……、そんなご褒美、許されていいの!?

「夫が妻を伴って参加するのはおかしなことではないだろう。このパーティーもそなたの復讐の為なら、万全の体制で望んだ方がいい。……結納金のおかげで我が家は存続できたのだから、手伝うのも不思議じゃないだろう。」

とんでもないイベントが発生してしまった気がする。仮面舞踏会で色々情報を入手しようと思っていたのに、セルジュ様が参加したら緊張で頭が真っ白になってそれどころじゃなくなってしまう気がする。

それと同時に、嬉しくて興奮状態な自分もいるのは確か。だって、ずっと推していた公爵様とパーティーに行くなんて楽しみすぎる。

――遊びに行くわけじゃないのに、ワクワクする。

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