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第五章 決戦の時
田中vsアレックス
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私はそわそわしながら戦いを傍観している。私の出番は来ませんようにと願いながら。
四方から金属同士の触れ合う音が聞こえる。聞こえている間は大丈夫。互いが剣を受け止めているという証拠だから。それが聞こえなくなった瞬間、不安が押し寄せる。
「あれは田中とアレックスだ」
田中とアレックスは遠目から見ると、キャラが被っている為どっちがどっちか分からない。しかし、ピンク色の衣装のおかげですぐ分かる。この色分けはどこに誰がいるか分かり易い。便利だ。
初めこそ剣を交えていたが、今はアレックスに押されて田中が逃げ回っている。
「危なっ……はぁ……」
あのメガネのおかげで五秒先の未来が見える為、アレックスの攻撃をすんなり避けることができている。更にアイテム強化したため、相手の動きがスローモーションのようにゆっくりに見えるのだとか。
それでも攻撃が入らないということは、アレックスがそれだけ強いという証拠。剣だけでなく、田中が遠くに逃げれば風魔法を繰り出し、何度も田中は吹き飛ばされている。
アレックスが田中の方へゆっくり歩きながら、爆弾のようにギュッと凝縮したような風魔法を田中目掛けて放ちながらアレックスが口を開いた。
『喜べ。貴様だけはこの僕が倒してやろう』
『何でだよ。俺、そんな目の敵にされるようなことしてないんだけど……』
田中も喋りながらちゃっかりその攻撃を避けている。
ちなみに、皆の戦闘服に魔道具が仕掛けられているらしく、この無線機のような魔道具のダイヤルを合わせればあちらの声が聞こえるようになっている。こちらからの発信は出来ないが、実況中継するには便利だ。
『何故か? 貴様がいると手に入らないんだ』
『何がだよ』
田中の質問にアレックスは攻撃の手を止めた。
『何が……何が手に入らないんだ?』
『は? 意味わかんねぇ』
『貴様は宝物……そう、宝物。誰の?』
アレックスが混乱し始めた。きっと、私とリクの写っている写真を田中だと勘違いして、田中を目の敵にしているのだろう。
しかし、惚れ薬が私の存在をぼかしているからアレックスの心と思考がチグハグな状態になっているに違いない。
アレックスが混乱している今がチャンスとばかりに田中はアレックスに殴りかかった。が、その一撃はすんなりとアレックスが受け止めた。
『こんなにも弱い奴には絶対に譲れん』
『弱くて悪かったな。温室育ちなんだよ。だが、これならどうだ!』
『なっ!? 姑息な』
田中はアレックスのメガネを奪い取った。視界を奪う作戦か。
「田中、卑怯すぎる……」
けれど、それくらいしないと幼い頃から鍛えているアレックスには到底敵わない。
そういえば、アレックスのアイテムはなんなのだろうか。所持しているとは聞いたが、田中相手には未だアイテムを使っていなさそうだ。私はアレックスとお揃いの腕輪を触りながらしみじみ思った。
「アレックス、口調はキツいけど根は優しいんだよね……」
『僕のこと分かってるじゃないか。嬉しいよミウ』
「アレックス? あれ、こっちの機械からの声じゃない……?」
どうなっているのだろうか。機械からも声は聞こえる。
『残念だったな。こんな時の為にメガネなら予備がある』
『マジか。俺も予備作っとこう』
田中、その奪ったメガネを是非私にプレゼントして……ではなくて、さっきのアレックスの声は果たしてどこから? 推しへの想いが強すぎるあまり幻聴が聞こえたのだろうか。
再びブレスレットを触りながらアレックスと田中の様子に目をやると、聞こえてきた。
『ミウ』
まただ。アレックスの声……。
『これは僕の心の声だ』
「どういうこと?」
『僕はシャーロットに操られている。でも逆らえなくて、この間ミウが王城に来た時に腕輪に魔法をかけておいた』
「え? 一週間前の?」
あの行為は無駄足では無かったのか。
『無理矢理抱きついて悪かった。何故かミウの近くにいるとシャーロットからの縛りが弱まるんだ。ミウ、よく聞いてくれ』
アレックスの声が若干低くなった気がした。私は目を瞑ってアレックスの声に耳を傾けた。
『僕の胸ポケットにアイテムが入っている。これは相手の魔法を跳ね返すものだ。運良くリクは魔法を使えないようだが、僕がこいつを倒して魔王を相手にし始めると厄介なことになる。その前に奪い取って欲しい』
「でも、どうやって……?」
『リクが負傷したらお前の元へ行くのだろう?』
「うん、その手筈だけど」
『ミウはその時に伝えてくれれば良い。こいつは弱いように見えて計算高い。僕のメガネを奪ったくらいだからな』
「確かに……分かった!」
私は再び田中とアレックスの戦闘に目をやると——四方から人ひとりを襲える程度の竜巻が田中に迫っていた。
ハラハラドキドキして見ていると、避けきれなかった竜巻の一つに田中が巻き込まれてしまった。
『うあぁぁぁぁ』
「田中!?」
かまいたちのように小さな切り傷が無数に出来ており、ピンク色の服が血で滲んでいるのが分かる。負傷した隙にという話だが、いざそれを目の当たりにすると心が痛い。
「ショコラ!」
「うん」
ショコラが上空から鷲が獲物を捕まえるかの如く、田中を後足で掴んで私の元へと連れて来た。
「田中、今治すからね!」
「格好悪いとこ見られちゃったな」
「ううん。田中は格好良いよ!」
私は田中の傷を癒やし、先程アレックスに言われたことをそのまま伝えた。そして、田中は再びアレックスの元へと戦いを挑みに行った。
四方から金属同士の触れ合う音が聞こえる。聞こえている間は大丈夫。互いが剣を受け止めているという証拠だから。それが聞こえなくなった瞬間、不安が押し寄せる。
「あれは田中とアレックスだ」
田中とアレックスは遠目から見ると、キャラが被っている為どっちがどっちか分からない。しかし、ピンク色の衣装のおかげですぐ分かる。この色分けはどこに誰がいるか分かり易い。便利だ。
初めこそ剣を交えていたが、今はアレックスに押されて田中が逃げ回っている。
「危なっ……はぁ……」
あのメガネのおかげで五秒先の未来が見える為、アレックスの攻撃をすんなり避けることができている。更にアイテム強化したため、相手の動きがスローモーションのようにゆっくりに見えるのだとか。
それでも攻撃が入らないということは、アレックスがそれだけ強いという証拠。剣だけでなく、田中が遠くに逃げれば風魔法を繰り出し、何度も田中は吹き飛ばされている。
アレックスが田中の方へゆっくり歩きながら、爆弾のようにギュッと凝縮したような風魔法を田中目掛けて放ちながらアレックスが口を開いた。
『喜べ。貴様だけはこの僕が倒してやろう』
『何でだよ。俺、そんな目の敵にされるようなことしてないんだけど……』
田中も喋りながらちゃっかりその攻撃を避けている。
ちなみに、皆の戦闘服に魔道具が仕掛けられているらしく、この無線機のような魔道具のダイヤルを合わせればあちらの声が聞こえるようになっている。こちらからの発信は出来ないが、実況中継するには便利だ。
『何故か? 貴様がいると手に入らないんだ』
『何がだよ』
田中の質問にアレックスは攻撃の手を止めた。
『何が……何が手に入らないんだ?』
『は? 意味わかんねぇ』
『貴様は宝物……そう、宝物。誰の?』
アレックスが混乱し始めた。きっと、私とリクの写っている写真を田中だと勘違いして、田中を目の敵にしているのだろう。
しかし、惚れ薬が私の存在をぼかしているからアレックスの心と思考がチグハグな状態になっているに違いない。
アレックスが混乱している今がチャンスとばかりに田中はアレックスに殴りかかった。が、その一撃はすんなりとアレックスが受け止めた。
『こんなにも弱い奴には絶対に譲れん』
『弱くて悪かったな。温室育ちなんだよ。だが、これならどうだ!』
『なっ!? 姑息な』
田中はアレックスのメガネを奪い取った。視界を奪う作戦か。
「田中、卑怯すぎる……」
けれど、それくらいしないと幼い頃から鍛えているアレックスには到底敵わない。
そういえば、アレックスのアイテムはなんなのだろうか。所持しているとは聞いたが、田中相手には未だアイテムを使っていなさそうだ。私はアレックスとお揃いの腕輪を触りながらしみじみ思った。
「アレックス、口調はキツいけど根は優しいんだよね……」
『僕のこと分かってるじゃないか。嬉しいよミウ』
「アレックス? あれ、こっちの機械からの声じゃない……?」
どうなっているのだろうか。機械からも声は聞こえる。
『残念だったな。こんな時の為にメガネなら予備がある』
『マジか。俺も予備作っとこう』
田中、その奪ったメガネを是非私にプレゼントして……ではなくて、さっきのアレックスの声は果たしてどこから? 推しへの想いが強すぎるあまり幻聴が聞こえたのだろうか。
再びブレスレットを触りながらアレックスと田中の様子に目をやると、聞こえてきた。
『ミウ』
まただ。アレックスの声……。
『これは僕の心の声だ』
「どういうこと?」
『僕はシャーロットに操られている。でも逆らえなくて、この間ミウが王城に来た時に腕輪に魔法をかけておいた』
「え? 一週間前の?」
あの行為は無駄足では無かったのか。
『無理矢理抱きついて悪かった。何故かミウの近くにいるとシャーロットからの縛りが弱まるんだ。ミウ、よく聞いてくれ』
アレックスの声が若干低くなった気がした。私は目を瞑ってアレックスの声に耳を傾けた。
『僕の胸ポケットにアイテムが入っている。これは相手の魔法を跳ね返すものだ。運良くリクは魔法を使えないようだが、僕がこいつを倒して魔王を相手にし始めると厄介なことになる。その前に奪い取って欲しい』
「でも、どうやって……?」
『リクが負傷したらお前の元へ行くのだろう?』
「うん、その手筈だけど」
『ミウはその時に伝えてくれれば良い。こいつは弱いように見えて計算高い。僕のメガネを奪ったくらいだからな』
「確かに……分かった!」
私は再び田中とアレックスの戦闘に目をやると——四方から人ひとりを襲える程度の竜巻が田中に迫っていた。
ハラハラドキドキして見ていると、避けきれなかった竜巻の一つに田中が巻き込まれてしまった。
『うあぁぁぁぁ』
「田中!?」
かまいたちのように小さな切り傷が無数に出来ており、ピンク色の服が血で滲んでいるのが分かる。負傷した隙にという話だが、いざそれを目の当たりにすると心が痛い。
「ショコラ!」
「うん」
ショコラが上空から鷲が獲物を捕まえるかの如く、田中を後足で掴んで私の元へと連れて来た。
「田中、今治すからね!」
「格好悪いとこ見られちゃったな」
「ううん。田中は格好良いよ!」
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